蒼の空 輝<ひかり>の青空<そら> ケモ耳少女と戦い抜いて

さば・ノーブ

序章 天翔る魔法の戦闘機

第1話 蒼き空で


少女は空を見上げる



少女は空に憧れる




碧く澄んだ悠久の空の彼方へ想いを馳せて・・・







 碧く どこまでも蒼く輝く空を見上げた少女が言った。


「わあ、飛空騎だ。かっこいいな!」


少女が見上げるそらには、<一騎>の天駆あまかける飛行機械が飛んでいた。


「私も乗ってみたいな。私も飛んでみたいな」


白い飛行機雲を曳いて飛び去る機体に、少女はあこがれる。


「いつか・・・いつかきっと、私も空を飛んでみたい。

 自由に大空を駆け回ってみたい・・・」


飛び去る飛行機雲を追いかけるように。

憧れと夢に、瞳を輝かせた少女が青空そらを仰いだ。








「それじゃあ、行ってきます」


ヘルメットを被った女性が、機体の周りに居る整備員に言った。


「気をつけて。安全なる飛行を」


取り付いていた整備員が一人、笑いかけながら女性パイロットに祈りを携えた。


「ありがとう・・・では、往きます」


笑顔で礼を返すパイロットが機首に居る整備員に、


「エナーシャ、廻せ!」


慣性起動機の作動を命じる。

2人掛かりでペダルを廻す整備員。



   グオン グオン・・・・



回転音が高鳴る。


「前、離れぇっ」


パイロットの声に整備員がペダルを抜き取り、安全を確認してから。


「前、よろしっ!」


手を挙げてパイロットに答えた。


「コンターックッ!」


パイロットがエンジンに火をいれる。



  バッ ババッ  バババッ!



轟音と共に、排気管から黒煙が流れ出て、機首のプロペラが廻り始めた。


スロットルレバーを<静>から<動>へ少し押し込み、プラグの汚れを吹き飛ばす。



  バララララッ!



回転が正常なのを確かめたパイロットの女性が、

コックピットから両手を上に突き出し、その手を開いた。


それを合図に、タイヤチョークめを整備員が外す。


「じゃあ・・・行くよ」


誰言うとも無くキャノピーの中へ呟いた女性パイロットが、

スロットルレバーを押し込んだ。



   バババババ・・・



発動機エンジン回転が上がるとプロペラの回転スピードも速まる。

プロペラが風を切り、機体をゆっくりと進めだした。


白く塗装され直した機体は、格納庫前から誘導路エプロンへと向かい、

やがて、その優美な機体を滑走路へと進めた。


「無事なる飛行を!」


整備員達が手に手に帽子を掲げて振った。


その帽子に頷き、礼を返したパイロットが、

スティックを右手に、少し伸び上がった姿勢で足先のブレーキから力を抜く。


「発進します!」


ヘルメットに着いたマイクを通して、管制塔に許可を求めると、


「「発進許可。進空セヨ」」


ヘッドフォンから直ぐに返答が聴こえた。


左手のスロットルレバーを叩き込む様に押し出したパイロットが前方を見据える。

プロペラが風を斬り、機体がグングンとスピードを増していく。


気速85ノットを過ぎた頃には、機尾が浮き上がり始める。



   クイッ!



右手のスティックを手前に寄せると、白い優美な機体は軽々と青空そらへと舞い上がった。






「久しぶりだというのに・・・流石さすがは手馴れたものだな?」


女性パイロットに誰かの声がささやく。


「あなたこそ・・・昔から変わらないわね」


答えたパイロットがあしを格納させて、座席を下げた。


「そう・・・何も変わらない・・・昔のままだ」


また誰かの声が聴こえた。


この機体は、単座なのに。どこに乗っているのだろう?



女性パイロットはキャノピーを閉め、ヘルメットに手を掛けた。


「暫くは管制塔との連絡もないから・・・いいでしょ?レイ」


パイロットはヘルメットを脱いだ。

栗毛色の長い髪が、太陽の光を浴びて美しく靡いた。


「変わらないなぁ、ヒカルは・・・」


ヘルメットを脱いでも、レイと呼ばれた女性の声が聴こえる。


「いいえ、レイ。私は歳を重ねたの。

 歳を重ねられたの・・・あれから16年も・・・」


「そうか・・・もう16年にもなるのか。

 ヒカルが私から降りて・・・」


返された言葉を懐かしむのか、ヒカルと呼ばれた女性が計器盤をそっと指でなぞり、


「そうね、あの頃は私も若かったわ」


栗毛の髪を靡かせて、ヒカルと呼ばれる女性が自嘲気味に笑う。


「ヒカルは美しく歳を重ねられたみたいだ。

 16年もの年月を過せたのに・・・変わらず心は清いままみたいだ」


どこから喋り掛けて来るのか、<レイ>とヒカルが呼ぶ娘の声は間近に聴こえる。


「あなたこそ・・・昔と同じ強く美しいままじゃない。

 いつもマモルを視ていてくれているのでしょう?」


ヒカルは娘の声に訊いて、


「ありがとう・・・レイ」


一言、礼を述べた。


「マモルは良い飛空士・・・いや、翔騎しょうきになったよ、ヒカル。

 流石はあなたの息子、魔法石ちからを受け継ぐ者だな」


レイがはにかんだ様な声で教える。


「まあ、ヒカル譲りの優しさが目立つ処なんかもそっくりだけどな?」


レイの言葉にヒカルは少し微笑んで返す。


「あなた程ではないわ、レイ」





プロペラが機体を進める。

蒼く澄んだ空を駆けて、一機の戦闘機が空をぶ。



白く優美な機体。

長く突き出た単葉の機体。

細く無駄な処が何一つ無い機体。

3本のプロペラを廻す空冷エンジン。

見晴らしの利く、涙滴型のキャノピー。


そして、機首と翼に穿かれた機銃口。


「それにしても、塗装まで<始まりの時>に戻してくれるなんて。

 あなたの夫は気が利く奴だよな・・・ヒカル」


レイが機体の事でヒカルに言うと、


「ええ、レイ。

 その方が良いって言っていたわ。

 彼も・・・堀越整備長も・・・ね」


翼の塗装を見て、ヒカルが答えた。


「自分のダンナ様を苗字で呼ぶなんて・・・ヒカルらしいな。

 照れているのかい?」



   クイッ!



フットバーを急に傾けたヒカルに、


「わっ!急に滑らすなよ、ヒカル。もう言わないから」


レイが苦笑いの声を掛ける。


「いいえ、レイ。そろそろだから・・・用意は良いかしら?」


ヒカルは右手を下に向けて地上を指し示す。


「なるほど・・・では、ヒカルの飛行石ひこうせきを・・・」


レイがヒカルに呼びかける前に、ポケットから白銀に輝く水晶を取り出したのを視て。


「今はマモルのモノだけど。

 今日だけ借りて来たの・・・あの子にね」


微笑むヒカルがOPL照準器に翳した。


「いいや、ヒカル。

 その石はヒカルの物だよ・・・永遠に。

 私が消え去る時まで共に戦い抜き、生き続ける者が持つべき魔法石なんだから」


レイが告げるとヒカルは微笑み、OPL照準器に命じた。


「それでは行きましょうかレイ。

 16年の歳月を越えて・・・今再び、この空を我が手に掴む為に。

 我が戦友<零式艦上戦闘機>が聖獣<零虎レイコ>よ!」



      ポ  ワ  ッ 



OPL照準器にともる。


「了解、マスター!」


今は、はっきりと声がする場所が解る。


OPL照準器の反射ガラスに、白髪の獣耳娘の姿が写り、復唱している。


「レイ!バスターウェーブ!青空そらを駆けろ!」


ヒカルの声で、零戦れいせんは集合排気管から炎を吐く。


白い優美な機体に描かれた<白虎びゃっこ>が吼える。


突然機体が増速し、桁違いのスピードを出す。

その天駆あまかける機体の後方に、白い飛行機雲が描かれていく。






「あっ、マモルにーちゃん!」


女の子が白い翔騎服姿の兄を迎える。


「にーちゃんじゃないだろ、エイミー」


ポンと頭に手を載せた男子が、栗毛の少女に笑いかける。


「いいでしょ、そんな事。それよりあれがお母さんなの?」


エイミーが指差す先には、白い飛行機雲が見える。


「そうだよ。今日一日だけ翔騎に戻るんだってさ」


ポケットの中身が空なのをエイミーに見せて、マモルが言った。


「16年ぶりの飛行なのに・・・

 流石、王国一の翔騎だな、母さんは」


「へー、そんなに長い間乗ってなくて?あれだけ飛べるものなんだね」


エイミーが感嘆の声を挙げていると、横に居た男性がエイミー達に言った。


「それは勿論、中尉だからこそですよ、栄美えいみちゃん、まもる君」


王国防衛軍の将官服を着た男が、2人に近寄り言った。


「あ、横山准将」


マモルが姿勢を正すと、横山准将は空を見上げて話した。


「中嶋中尉・・・いや、堀越ヒカルさんは、大戦を生き抜かれた翔騎。

 自分よりも仲間を護る事に力を尽くされた名パイロット。

 そして、大戦一の撃墜王・・・」


3人が見上げる空に、白い機体が飛行機雲を曳いてんでいた。


「ヒカル中尉が居てくださったからこそ、我々の今があるんだよ。護君、栄美ちゃん」


横山准将は、16年前を思い出すかの様に空を見上げる。


「あの日もこの空と同じ様に、蒼く澄み渡っていたんだ。

 私の知る中尉が最後にんだ・・・あの時も・・・」


マモルとエイミーは准将の顔を見上げて話を聞き入っていた。




「マリーン・・・あの日も、こんな良い飛行日和だったよね・・・」


ヒカルが呟く。

その瞳は、飛空技場へと向けられていた。


いや。

今、ヒカルが見ているのは来賓席の中央。

其処に居る一人の女性に向けられていた。


「マリーン・・・16年も歳が経ったね」


零戦れいせん>は、16年もの歳月を経ても尚、健在だった。


あの日と同じ様に・・・


このそらを駆けていたのだ。





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