第18話 友と
エイミーはクラスで対立するランナを想う・・・
「エイミー、やるじゃないか!」
「凄いわ、堀越さん。単独飛行一番乗りおめでとう!」
紅くなったエイミーが頭を搔くと、
「え・・・いやそのっ、家が航空運送屋なんで・・・その。
家業を継ぎたいから・・・頑張ってるんだ」
父の会社を継ぐ事が夢であるエイミーは、苦笑いして答えた。
「そうなんだ、偉いねエイミーって!」
リョビが更に感心する。
「ふんっ、多寡が単独飛行一番だっただけで、随分持ち上げられるわねぇ、堀越さん」
金髪のランナがこれ見よがしに厭味を言った。
「なによバルクローンさん、自分が2番だったのがそんなに嫌なの?素直に認めたら良いのに」
リョビがエイミーを庇って言い返した。
「あ、いいんだよリョビ。・・・ランナさん私は別に・・・」
エイミーが2人の口論を止めようと間に入り、ランナに頭を下げて謝ると。
「ふんっ、良い
捨て台詞を言って、教室から出て行ってしまうランナに、
「何だよ、あの高飛車な云い様は。自分がトップでなければ気が済まないのかよ」
「エイミー、あんなの放っておけよ・・・な」
「そうよ、エイミー。バルクローンさんなんて無視しちゃいなさいよ」
2人がランナの事をそう言うが、エイミーにはその言葉が辛く感じられていた。
_____________
「はぁ・・・・」
食卓で思いっきりため息を吐くと、
「なんだエイミー。学校でまた失敗したのか?」
勲がビールジョッキを片手に訊いてくる。
「・・・または、余計・・・」
ブツッと呟き、
「あーあっ、一番なんて取るもんじゃないなぁ」
椅子に反り返って天井を見上げる。
「どうしたどうした。
単独飛行をクラスで一番にするって宣言していたのはどこのどいつだっけ」
ビールをグイっと呷って勲が笑う。
「私が一番だったから。あの
好物のコロッケを口へ放り込んで、訳を話した。
「なんだ?あの娘って・・・
前に話していたエイミーに挑んでくるフィフススターから来た娘のことか?」
勲がエイミーの話に絡んで訊いてくると。
「そう・・・なんだか私を眼の仇みたいに思っているんだぁ。
クラスでも目立っちゃって・・・先生にも注意を受けたのに辞めてくれなくて・・・」
ため息を吐いて言うと、またコロッケを口へ放り込む。
「あらあら、エイミーのライバル出現って訳ね」
ヒカルが揚げたてのコロッケをもう一皿持って来て食卓に置き、
「その娘って2番だったのよね。2番だって事がそんなに気に入らないの?」
エイミーの横に座って尋ねると、
「そうなんだ。何でも一番じゃなきゃ、気が済まないみたい。
勉強でも体育でも・・・何でも 」
ふぅっとため息を吐くエイミーは、揚げたてのコロッケに箸を伸ばす。
「大喰らいでも?」
呆れたように、ヒカルが笑うと。
「エイミーの大喰らいには、その娘も呆れる筈だな。
大喰らい大会でもやれば、その娘も張り合ってこないだろうな。あっはっはっ」
勲も大笑いしてビールを呑んだ。
「そんなぁ、真面目な話をしてるのに・・・」
2人の言い草に、不貞腐れていたエイミーが。
「私はみんなと仲良くしたいだけなの。
私とランナさんの所為でクラスがギクシャクして欲しくないだけなの。
どうしたら仲良くなれるのかなぁ?」
また、コロッケを口に運んで言うと、
「張り合っているのなら無視されている訳ではないのだから。
善きライバルとして認め合えばいいんじゃないかな。
お互い一番、二番がどうのこうの言うんじゃなくてさ 」
勲がエイミーにヒントを与える。
「お父さんの言う通りよ、エイミー。
皆が等しく張り合って努力すれば、級全体のレベルがあがるのだから。
2人だけではなく、皆の力がね・・・」
ヒカルが勲と一緒になって話した事に、何かを感じたエイミーが。
「そっか・・・そうだね。
一つになれれば強くなれるんだものね・・・判った!」
コロッケをほうばりながら頷いた。
____________
「本日より初歩教練を終えた者は、順次中間練習機による実技教育へと入る」
教室で担任の土浦教官が話しだした。
「皆の中でまだ単独を許されていない者が居るが、根を挙げず頑張る様に。
焦るのは良く判っているが、焦らずに気を落ち着かせ事故の無い様に」
諭す様に優しく数名の者に言った。
エイミーは横に居るリョビが下を向いてうな垂れているのを観て、心配顔になる。
ー リョビ・・・諦めちゃ駄目だよ。一緒に空へ羽ばたこうね?
心で励ますエイミーに気付いたリョビはうな垂れていた顔を挙げる。
「教官!」
その時、ランナが挙手をした。
「教官は何でも競争だと云っておられましたが。
競争に負けた者に併せる必要なんてありません。
先に進む方の者に併せて教育してください。
乗れない者は一学期末で退校すれば済む事です」
高飛車な態度で数名の生徒を睨んで言い放つ。
「それが競争というものですわよね、教官」
土浦教官に視線を向け、同意を求めた。
その土浦は黙ってランナを見詰め返し、嗜めようとした。
「違う!土浦教官が仰られたのは、このクラスが他のクラスに負けないようにって仰られたの!
誰も落第者を出さず、一つになって他のクラスに負けない位の成績を残すんだって仰られたの!
数名の成績上位者に併せたってクラスは一つになれないし、皆が心を一つにして頑張る事が、
仲間と共にこのクラスを競争で負けなくする、たった一つの方法なのだから!」
思わずエイミーが立ち上がって反論してしまった。
「あ・・・ごめんなさい。生意気な事言いました・・・」
皆が静まって自分を観ている事に気付いたエイミーが顔を紅くして着席して謝った。
パチ パチ パチ
リョビが目を見開き拍手する。
続いて皆が拍手を贈る。
・・・ランナと土浦以外は。
「くだらない・・・そんな事の為に自分の成績を落とすなんて・・・許さないわ!」
ランナがプイと横を向いて吐き捨てる様に言うと、
「バルクローン、君の家では個人が優先されるのか?
それとも何か一番であり続けねばならん理由があるというのか?」
土浦が横向くランナを問い質す。
「そんな事、いちいち話す必要なんてないわ、教官」
ランナは横を向いたまま、返答する。
「一人がどれ程優秀でも、個人戦以外にはモノの役に起たん。
君がもし現在の戦闘機乗りになりたいと思っているのなら、適性不合格になるだろう」
土浦がランナに告げた瞬間。
「なんですって!そんな事ある訳がないわ!
私こそ戦闘機乗りに向いているのよっ!」
叫んだランナが机を叩いて立ち上がる。
その瞳はエイミーに向けられ、
「そこの栗毛の娘よりずっと優れているのよ、私は!」
エイミーに対して敵愾心を燃やしていた。
「バルクローン、君は大きな間違いをしているようだ。
そんな心根で飛空士になろうとは思わない方が良い。
自分に慢心しているヒヨコは空を飛ぶ資格などは無いという事に気付いてはいないようだな。
一つ忠告しておく。
君は今のままでは必ず重大な事故を起こす・・・取り返しのつかない事故を・・・な」
土浦教官が、バルクローンに向って忠告すると、金髪のランナは絶句して立ち尽くした。
学園モノパート突入です。
入学から早、2ヶ月が過ぎた頃。
単独飛行を許されるまでになった、エイミーの心配事は?
そう、自分に突っかかってくるランナの事だった。
次回 第19話 通わぬ思い
君は無事に地上へ降り立つ事が出来るのか?
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