第25話 そんなの聞いてないよぉ?
蒼い空・・・夏の空。
白い飛行機雲が何本も流れていく・・・
「だぁーっ!やられたぁっ!覚えてろぉマモルにーっ!」
涙声のエイミーがそこに居た。
キャンギャル達がワイノワイノはしゃいでいる中で、場違いな少女が・・・
「くっそーっ!マモルにーめ。部屋を使った位で・・・こんな事をさせるとは!
ゆ る す ま じ !!」
年上のキャンギャル達の中で、握り拳を空に突き出すエイミーだった。
ここ防衛学校で執り行われる年に一度の大祭。
国の安寧を奉じつつ、新たな士官になるべき者達に講話を聞かせる大切な日。
ヒカルはマモルの頼みを聞いて、此処・・・防衛学校に来ていた。
「お母様ですね、堀越生徒の」
声を掛けて来たのは女性士官。
「はい。堀越
名乗ったヒカルは、見知らぬ女性士官に頭を下げる。
「私は本校の教官、南郷三佐です。本日は宜しく願います」
女性士官が名乗った時、ヒカルの目が大きく見開いた。
「もしかして・・・南郷大尉のお嬢さん?
いいえ・・・南郷中佐のご子息であらせますか?」
姿勢を正したヒカルが、空海軍の言葉使いになって訊き質してみる。
「はい、中嶋中尉。私は
どうぞお見知りおきください」
旧階級名で呼ばれたヒカルが、女性士官の顔を見詰めて面影を探す。
「そう・・・あなたが。
生前・・・聞き及んでいましたが。お逢い出来て良かった」
南郷三佐を見詰めて、懐かしそうに頷いた。
「今日は講話の為、わざわざご臨席賜りましてありがとうございます。
生徒達に先の大戦により喪われし、英霊達の真実を伝えてやってください。
今年は堀越生徒が在校生となられていますので・・・お願いしたのです」
4日前、マモルが突然頼んできた時にはヒカルは断った。
とても人前で話す勇気がなかったから。
自分が若い生徒達に教えられるとは、思いもしなかったから。
だけど。
「ヒカル。マモルが頼んできたんじゃ無くて、亡くなった方達が願ったと想えば良いんじゃないかな」
戸惑うヒカルに、勲が言った。
「ヒカルにしか話せないことだって一杯あるじゃないか。
今年はマモルが生徒として在校しているのも、何かの
あれから17年。
若きオフィサー達にも教えて置くべきだと俺は想うよ」
勲がヒカルを押す。
心の中に未だ眠る、不条理の真実はヒカルを苦しめている。
それを知りながらも教壇に立たせようと考えたのは、ひとえにヒカルを想うが故。
「自ら語れるのは生き抜いた者だけ。
悔しかった想いや、苦しんだ想い。
それに・・・大切な想い。
全てを語れるのは生き抜いたヒカルだからこそ・・・なんだよ」
勲がヒカルの決断を押す。
「ありがとう・・・勲さん」
微笑んだヒカルがマモルに向かって頷いた。
「じゃあ、教壇に立ってくれる?お母さん」
「ええ。私なんかで良ければ・・・ね」
頷いたヒカルにホッとしたマモルが息を吐く。
「お母さんが教壇に立つのなら、私には何を頼むの?」
興味深々なエイミーが止せば善いのに訊いて来る。
「あ・・・っと。エイミーね・・・」
頼み事を訊いてきたエイミーにマモルが口を濁す。
「あ~っ、その顔は何か善からぬ事を話す前だ!」
気付いたエイミーが仰け反って身構えたが。
「うん・・・エイミーには応援団員になって欲しいんだ」
「は?・・・応援・・・団員?」
マモルに頼まれたエイミーは目を丸くして聞き返す。
「そう。僕達のクラスの応援団員として参加して貰いたいんだ。
勿論タダでとは言わないから。竜田揚げ・・・食べ放題・・・だぞ」
キラ~ン!!
マモルが言った報酬に目を輝かせたエイミーが。
「ホント!?あの伝説の竜田揚げを?食べ放題?」
マモルが頷き、
「しかも!雲龍コロッケ付だ!」
ピカリン!!!!
「往く!やらせていただきます!お兄様っ!」
・・・・・
3人は我が娘、我が妹ながら・・・残念過ぎる想いに口を閉ざした。
そして・・・その日がやって来たのだ・・・
ヒカルは南郷三佐に導かれ、講堂の準備室に招きいれられた。
「おう!ヒカル。久しぶりやなぁ、元気にしとったかぁ?」
柏村退役大佐が出迎えてくれた。
「あ、柏村さん。お久しぶりです、お元気そうでなにより・・・」
そう話し掛けて奥に居る人の姿に気付いた。
「あ!あなたは・・・」
ヒカルに呼び掛けられた金髪の女性が、
「中嶋・・・いいえ。今は堀越さんだったわね。
元気そうで良かったわ・・・」
スラリと長身で、金髪を軽くカールさせた
校庭の応援ブースでは・・・
「チクショウめぇっ!どーしてこんなカッコさせられなくちゃぁいけないのよぉ!
こんなの・・・聞いてないよぉっ!」
在校生のお姉さんたちに紛れて・・・
キャンギャル姿のエイミーがやけくそになってポーズを決めていた。
周りのお姉さん達とは一目も二目も
ヒカルは教壇に立つ・・・
過ぎし日の思い出を語る為。
次回 第26話 過ぎし幾多の・・・
君は闘いの中で何を観て来たというのか?
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