第2話 邂逅

サンシャルネス王国

第10回記念競技会のデモンシュチュレーションで飛行する2機の戦闘機。


今16年の時を越え、再び闘う零戦とF6Fヘルキャット。

見上げる者達は想いを巡らす・・・




横山准将とマモル、エイミーの兄妹2人が空を見上げて居た時、スピーカーから場内に放送が流れた。


「いよいよ第10回記念大会の模擬<空戦>が開始されます。上空を御覧下さい」


3人が見上げた空技場の上空に2機の翔騎が舞っていた。


「ああ・・・フィフススターのヘルキャットか・・・本当に久しぶりに観たなぁ」


横山准将が懐かしげに空を仰いだ。


「あれは・・・僕達といつも対戦している機体じゃないな。

 あれが、そうなのですね横山准将?」


マモルが濃紺色の機体を指して訊いた。


「ああ・・・そうだ。ヒカル中尉の好敵手、最期まで闘った相手・・・なんだよ」


横山准将は懐かしげに微笑んだ。


「へぇ~。あれが<山猫>って奴なんだ」


エイミーが白い機体と向き合った紺色の機体を見上げて、


「でも、あんなに不恰好で、お母さんの相手になるの?」


小首を傾げて横山に訊いた。


「栄美ちゃん、見た目で判断すると痛い目に遭っちゃうよ」


微笑んだままの横山が、エイミーに教える。


「特に初めて対戦する時にはね」


戦闘機乗りの定石を。


「ふぅん・・・そういうものなんだね」


解った様な解っていないような。

曖昧な返事を返すエイミーに微笑んだ横山は、上空の2機を見上げて16年前の記憶を辿った。







「本当に久しぶりね、彼女も元気だったみたい・・・ね」


ヒカルは照準器に写る獣耳娘と話す。


「そうそう!

 あれから度々闘ったけど、昔っから私の事を眼の仇にして・・・

 しょうがない奴なんだよなぁ」


呆れる様にため息を吐くレイに、


「で・・・今迄何勝何敗なの?」


ヒカルは現れた紺色の機体に合わせて旋回を掛ける。


「そうだね・・・かれこれ9勝1敗って処かな」


レイが指折り数えて教えた。


「そう・・・あれから1度も負けていないんだね」


左旋回させながらヒカルはそっと左手でスティックを握る右手を撫でた。


「うん、あの時だけ。ヒカルが右手に弾を受けた・・・あの一回だけだよ。

 この<白虎>が負けたのは・・・」


レイの数える対戦成績に頷いたヒカルが、


「そう・・・じゃあ10勝目を頂かなければいけないね。

 マモルだって負けていないのなら」


今は息子が操っているこの機体に、呼びかけた。


「当たり前よヒカル。

 あなたが一対一で奴に負けるなんて考えられないから」


獣耳娘が笑って答えた。


「そうね、負けられなかったから・・・

 それが私とあなたの約束・・・死んで逝った人達との約束なのだから」


ヒカルは場内の一点を観て、そう答えた。





「ヒカル・・・変わらないのね、あなたは」


貴賓席で上空を見詰める高貴な婦人が呟いた。


「お母様・・・何か申されましたか?」


横に座る少女が、その婦人に訊いてきた。


「いいえ。只、懐かしいと想ったのよ、女王陛下」


婦人が正装した少女に答えた。


「お母様・・・わたくし

 まだ女王って呼ばれても、ピンと来ません」


笑みを零した少女が婦人に答える。


「そうでしょうね。

 でも、14歳になられたあなたに王位を譲るのがこの国の仕来しきたりなのですから」


頷いた婦人が再び空を見上げて、


「それが、このサンシャルネス王国の伝統なのですよ、アルテミス女王」


娘に教えた。


「はい、マーリン上王・・・お母様」


答えた少女も上空を見上げて答えた。







ヘルメットのヘッドフォンから怒鳴り声が聞こえてくる。


「あーっはっはっはっ!久しぶりだなぁ、白猫野郎!」


その声に、ヒカルは眉をひそめる。


「そんな大声出さなくても、ちゃんと聴こえてますよ。

 ヘルキャット・・・ワスプさん」


こちらに向かってくるF6Fヘルキャットへ向って、ヒカルが答えた。


「そうかぁ、昔だと通信が悪かったのに、改善されてるのかぁ、そりゃ善かったなぁ」


また大声で話しかけてくる相手に、ヒカルが少し笑った。


「おまえと闘うのはあれ以来だなぁ。

 あれからもう、16年かぁ。永かったなぁ、

 でも元気そうじゃないかぁ。おまえも、その白猫もぉ」


ヘルキャットがバンクを振って、挨拶を送ってくる。


「まったく・・・相変わらずだな、おまえのマスターは。山猫」


レイが通信に割り込んで、ヘルキャットの<聖獣>に喋り掛ける。


「そうだにゃぁ。私のマスターはいつもこんな風なんだにゃぁ。困ったもんだ・・・にゃぁ」


ヘルキャットの聖獣がため息を吐く。


「ところで白虎。今日は模擬空戦だって言われてるけど、どうするにゃ?」


「何が・・・よ?」


聖獣達が話を交わす。


「ホンキ・・・出すにゃ?」


「・・・おまえがその気なら・・・ね」


ヘルキャットと零戦が睨みあう。


「いい加減くたばったら・・・にゃ?」


「おまえこそ・・・いい加減諦めな!」



   フーッ   フーッ!



両機の聖獣が、逆髪を立てて威嚇した。


「もう、レイ。いい加減になさい。

 これは単なるデモンシュチュレーションなのよ」


照準器の中で頭から湯気を立てて怒っているレイに向かって、ヒカルが諌める。


「あいつ・・・自分が私を倒す為に造られたっていうのが、

 癪に障っているの・・・変わらないなぁ」


ヒカルに振り返ったレイが、にっこりと微笑んで、


「でも、あいつもどうやら解ってくれているみたいだよ。

 もう殺し合うなんて必要が無いって事を」


指差し、示した。


ヒカルはヘルキャットの翼に付いていた6門の機銃が銃口を塞がれてあるのに気付いた。


「そうみたいね、レイ。

 もう実弾を放つ事なんてあってはならないのだから」


微笑むレイに、笑顔で答えるヒカルだった。



    スチャッ!



ヒカルがヘルメットを再び脱いで、脇に仕舞ってあった飛行帽を被る。


「おや、ヒカル・・・用意良いな」


懐かしそうに、レイがヒカルを見詰める。


「やっぱり、こちらの方が気が引き締まるから」


ゴーグルを目元に下ろしたヒカルが、ソケットを通信機に繫ぐ。


「昔と違うのは、この通信機くらいだね。善く聴こえて助かるわ」


レイに向かって肩を竦めておどけてみせるヒカルの耳に、ヘルキャットのワスプから通信が入った。


「では、始めるとしようかぁ、秒読み開始!

 ・・・・5・4・3・・・」


向かい合う2機の戦闘機がバンクを振って、地上の者達に教えた。


「・・・2・1・・・・ゼロ!」


ヒカルの左手がスロットルを押し出す。


真正面から両機が近寄り、左右に別れて模擬空戦が始まった。





「始まったね、横山のオジサン」


エイミーが上空を見上げながら横山准将に言ったが、

同じ様に空を見上げる将官からは、少女に対する言葉は返ってはこなかった。


「?」


エイミーが横山に振り返ると、じっと空を見上げ続けて一言呟くのを聞漏らさなかった。


「あの日と同じ・・・あの空戦と同じだ」


エイミーは呟く横山の瞳の先で行われている空戦に視線を戻して同じ言葉で訊いた。


「あの空戦?」


横山と兄妹の見守る先で、零戦とヘルキャットの巴戦が始まる。





「左の巴戦には入らせてくれないみたいね、レイ」


ヒカルがスティックを曳きつけて、縦の旋回に移る。


「そりゃあ10回も闘っていたら・・・こっちの良い様にはさせてくれないさ、ヒカル」


ゴーグル越しに見えるレイが照準器の中で苦笑いをしている。


「そうね・・・でも息子は。マモルは勝ち続けているのよね、山猫さんに」


フットバーを操作しながら、ヒカルが訊くと、


「ええ、そうだよ。

 操縦者がワスプとは違うから・・・あっさり巴戦に入ってくれるんだ。

 私の得意とする左巴戦に・・・ね」


白銀の虎娘が教えてくれた。


「そう・・・じゃあ、あの子もあなたの力に頼っているって訳ね」


一周二周と、旋回を続けていく内に、

やがてヘルキャットの後方が近付き始める。


「ヒカル、今日は<栄>で22にーにーがた仕様だったから善く廻れる・・・

 52ごーにーがたより、私はこっちの方がいいな」


ぐんぐんヘルキャットの後上方へ近付き、やがて200メートル附近まで詰め寄った。


「・・・そろそろ・・・かな・・・」


レイが腕を組んでヘルキャットの尾翼を見据える。


「・・・でしょうね・・・」


ヒカルがスロットルレバーの発射杷弊と、ボタンに指を掛けてその時を待った。





「あの時も・・・そうだった・・・」


横山が呟く。


「基地上空での邀撃戦ようげきせんでも・・・ヒカル中尉は、

 並み居る敵機の群れに果敢に巴戦を挑まれていた・・・

 そう。

 あの日も良く晴れた碧き空だった・・・」


横山の記憶は、16年前へと戻って行った・・・





______________





「横山少尉です、宜しく願います」


敬礼を贈ってから横山は目を疑った。


「よぅ、新入り。善く来たな」


指揮所に入って驚いた。

申告を受けているのは女性士官。

しかも着崩れた翔騎服を腰に巻いて長椅子に横になっているからだ。


「あ・・・あの。飛行長はどちらに?」


恐る恐る横山が尋ねると、


「ん?私だが・・・何か?」


その女性士官がぶっきらぼうに答えて、益々驚いてしまう。


「何をそんなに驚いているんや、少尉?

 こんな事にいちいち驚いてたんでは当隊では勤まらんで」


横になったまま飛行長の女性士官が笑う。


「はあ・・・そうですか。では、場内に戻ります」


一応、飛行長へ敬礼して下ろうとすると、


「おい、新入り。

 飛行時間は何時間なんや?」


問われた訓練時間を記憶で辿って、


「は、60時間程です」


そう答えると飛行長はため息を吐きながら、


「そんなヒヨッコを実戦部隊へ送り込むなんて・・・上の連中は何を考えているんや」


こう告げると格納庫を指差し、


「向うに歴戦の翔騎が居るから。善く教えを請うように」


そう言った飛行長は、またもや長椅子に横になった。



飛行長に言われて、格納庫までくると。

そこには整備中らしい一機の戦闘機と整備兵達が取り付いていた。


「古い機体だな。誰が使っているんだ?」


横山少尉が塗装を塗りなおしている者に訊く。


「古いけど・・・良い飛行機ですよ」


塗装をしている者が、横山に言い返した。


「そうか?

 どうみても新式の戦闘機には見えないが・・・」


振り返らずキャノピー周りの塗装をしている者を見上げて横山が気付いた。


「なんだ、女の子か。整備員も人手不足なのか?」


横山がぶっきらぼうに言うと、周りの整備員達がくすくすと笑った。


「何がおかしい。事実じゃないか!」


士官の自分が下級者に笑われたと思った横山が声を荒げると、


「少尉、この<零虎れいこ>は歴戦の戦闘機なのです。

 決して新型機に、劣っている訳ではありませんよ」


今迄塗装を施していた女の子が振り返って、

地上の横山を見下ろして微笑んだ。


「あ・・・!」


その少女は肩章を付けていた。


「翔騎の肩章!」



そして、階級章には。


「失礼しました、中尉!」


ニッコリと微笑む少女は、横山に自己紹介する。


「中嶋 中尉です・・・願います」





零戦に宿る聖獣<零虎>の力とは?


ヒカルと伴に闘う聖獣はその者達を呼び出した・・・


その姿を見詰める横山准将の瞳には、あの日の零戦がけていた・・・

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