第3話 警報

模擬空戦を見上げる3人。


濃紺の機影に、過去の出来事を思い出す横山准将・・・




「山猫がスピードを上げた!」


エイミーが、見上げた先で、ヘルキャットが後方に着いた零戦を振り切ろうと直進に移った。


「ああ、巴戦で勝てないと悟ったんだ。全速で振り切る気だな」


マモルが解析するように言った。

兄妹の横で会話を聞いていた横山が、見上げたまま呟いた。


「違う・・・F6Fは零戦の倍近い馬力を誇るんだ。

 逃げる訳じゃない、それが彼等の常道。

 そして彼女は手にしている・・・力を」


<空戦>を見上げて呟く横山を見て、兄妹は再び上空の2機に瞳を向ける。





「やはり・・・ワスプさんは解っている・・・覚えていたのね」


スロットルレバーの発射杷弊から指を離し、

OPL照準器から抜け出していくヘルキャットを確認したヒカルが、聖獣に命じる。


「レイ・・・こちらも昇華させて。

 エン君とキッちゃんにお願いして!」


OPL照準器に映る<零虎>へ命じた。


「よしっ、ヒカル。見せてやろう、全ての者に!」


振り返ったレイが頷き、


「おいっ、エン!キー!出番だ!」


2人を呼び出した。


「ほいな!親分!」

「はーい!お呼び?」


レイの求めに二人の妖精が現れる。

エンと呼ばれた紅い直垂を着た男の子の妖精の服には<さかえ>の文字が。

キーと呼ばれた緑色の直垂を着けた女の子の服には二二にーにーの文字が描かれてある。


「やるぞ2人共。我が求めに答えろ!<聖獣・零虎>の命に服せ!」


レイの叫びが、2人の妖精に力を与える。


「それじゃあ、腹一杯呑ませてくだせー」


「それじゃあ、目一杯食べさせてね」


妖精達は、呪文を唱えて応えた。


「いくぞヒカル!我が身体を最終の美へ昇華させる!<光の翼>へと!」


「ええ、16年ぶりに・・・昇華バスターウェーブ!」


ヒカルの叫びに<零虎>が応える。



   シュオオオォンッ!



白い機体が<それ>へと変わる。


エンジンが<栄>から一足飛びで<誉>へと。

機首が一回り大きくなり、排気管が単排気管となり、側面に並ぶ。

エンジンカバーが胴部より太く大きくなった為に起きる渦流を吹き飛ばす、

ロケット効果を排気管に持たせる意味合いで。

翼面が短縮され52型と同じ11メートルに。

機首上に装備されていた7ミリ7機銃が消え去り、両翼の20ミリの外側に13.2ミリ機銃が一挺づつ現れた。


   グオオォンッ!


機体が変わると共に、スピードがぐんぐんと速まり、


「よしっ、掴まえたぞ、山猫っ!」


離脱を図るヘルキャットの後上方へと、再びつけた。





「やった!お母さんの勝ちだ!」


エイミーが手を叩いて喜んだ。


「ああっ!僕にも見せた事が無い<昇華>を!?」


マモルが愛機の変化に驚く。


「あれが・・・あの機体がヒカル中尉の真の姿。

 16年前と同じ無敵の零戦なんだ」


横山はあの日観た彼女の姿を思い出す。


「16年前・・・大戦中でしたよね。

 僕が生まれる一年前の話ですよね」


マモルが横山に訊くと、


「そうさ、マモル君。

 君達が知らない過酷な空に、零戦は舞っていた・・・舞い続けていたんだよ」


横山の記憶が再びあの日に戻る。





_____________







「中嶋ヒカル中尉・・・えっ!?」


横山はその名を聴いて驚く。


「ま・・・まさか。サンシャルネス王国随一の撃墜王の<零戦虎徹>が・・・

 こんな女の子だったなんて!」


横山は微笑む少女を見上げて固まった。


「そうだ少尉。ヒカルは良い飛空士・・・翔騎なんだぞ!」


その声に振り返った横山の前には、サングラスをかけた大尉が居た。

条件反射の様に敬礼した横山へ答礼し、


「なぁ、ヒカル」


機上の女の子へ呼びかける大尉に、


「そんな事ありませんよ、イサオさん」


困った様に笑いかける中尉が居た。




 ウーウウウーウー!



突然、警報サイレンが鳴り始めた。


「空襲っ!」


指揮所から先程の飛行長が飛び出し、大声で命令を下した。


「戦爆連合、約80機!ベウコ方面へ向かう。

 迎撃!合戦用意っ!」


飛行長が手をグルグル廻して命じている。


「発進用意!出撃しますっ!」


今の今迄、のんびりと塗料を塗っていた少女が叫ぶ。


「エンジン始動っ!暖機、装弾急げっ!」


サングラスの大尉が、周りの整備員を急かす。


「敵情、戦闘機の一隊はこちらへ向かう。

 間に合わない機は援体壕へ移せ!」


基地に緊張が走った。


「この飛行場を狙って来やがったのか!」


横山は周りの整備状況を観て、絶望感を覚える。


「駄目だ・・・少な過ぎる」


出撃可能な機体は、僅か数機だけだった。

だが。


「大丈夫ですよ、少尉。基地には一発も落ちては来ませんから」


受け持ち位置の整備を終えた整備員が答えて指し示す。


「中尉が居るからと言っても・・・」


横山が中嶋中尉を見上げる。


「ヒカルは仲間を護る為に闘う翔騎。

 そんじょそこらに居る者とは、訳が違うんだよ」


サングラスの大尉が、横山の肩を掴んで教えた。



「発進急げ!」


飛行長の檄が飛ぶ。


発動機えんじんを廻せ!」


大尉がスターター車と、スピンナー先端を接続させ、プロペラを回転させるように命じた。


「横山少尉、君はその眼で見ているが良い。ここで・・・な」


大尉は零戦の翼に飛び上がり、操縦席の中嶋中尉に駆け寄る。


「ヒカル!今日も2機だぞ!」


大尉の呼びかけに頷く中尉が、飛行帽のゴーグルを降し。


「解ってますよ、勲さん」


にっこりと笑って、周りの整備員へと指示を下す。


発動機エンジン始動!往きますっ!」


回転具合を確かめて、エンジンに火を入れた。


轟音と共に単排気管から黒煙と火が噴き出す。


車輪停チョークめを払い、零戦はゆっくりと進みだした。

同じ様に出撃準備を整えた<紫電>や、<雷電>も滑走路へ進み出てくる。


「ああ・・・ここには局戦も居たんだ」


作者注)局戦=局地戦闘機の略


横山がそれらの機体を観て、機種のばらばらな事に気付いた。


「こんな色んな機種では、同一行動は執れないのでは?」


エプロンから出て行く3機の姿に、横山は首を捻った。


「この隊は一体どんな戦闘機隊なんだ?」


整備場から援体壕へ移されていく機体も、各種ばらばらだった。


「ああ、君は何も知らされずにここへ配属となったのかい、少尉?」


サングラスの大尉が横山に訊いた。


「ええ。只、第204航空隊へ着任せよとだけ受けただけで」


困った様に頭を搔く横山に、


「じゃあ・・・尚更、眼に焼き付けておくと良いよ、少尉」


そう教えた大尉がサングラスをとると、左目は閉じられたままだった。


ー 隻眼・・・この人は?


その横顔を見詰めていると大尉が教えた。


「ああ。まだ自己紹介がまだだったね、少尉。

 僕は堀越・・・堀越ほりこし いさお大尉というんだ」


微笑んだ大尉が、横山にその名を教えた。






「<雷鳥>、<パープル>!着いて来い!」


獣耳娘の声が後続する2機に飛ぶ。


「レイ・・・2人には別行動を執って貰おうよ」


ヒカルが照準器に呼びかけた。


「そうか・・・ヒカルがそう言うのなら・・・」


振り返った聖獣が頷き、ヒカルの命令を促す。


「2番機<雷電>は上空から、3番機<紫電>は4000メートルで待機。

 私はこのまま正面に向います!」


隊内無線マイクに話して、後方を振り返る。

<雷電>と<紫電>は同時に翼を振る<バンク>を送って来た。


「善かった・・・今日は通信状態が良いみたい・・・」


ほっとしたヒカルが、機体をバンクさせて行動開始を命じる。

<雷電>は、独特の強制空冷ファンの音を高鳴らせて上空へ駆け上がって行った。

<紫電>も、その馬力に合わせて高度を執るべく機首を上げる。


僅か3機の迎撃隊は、各個の行動を執るべく機動した。




「来たぞ少尉」


堀越大尉が横山に教える。


「えっ!?どこに?」


上空を見回した横山には、大尉の言う敵機が見つけられなかった。


「対空陣地が勝手に射撃を開始しやがったみたいだ」


大尉が指し示す南の空に、薄く炸裂した煙が微かに観えた。


「あっ!」


数十秒遅れで漸く横山にも敵編隊が、こちらへ向かってくる様子が掴めた。


「戦闘機ばかりの様だな・・・併せて3編隊・・・12機か」


豆粒の様に小さな機影を数えて、大尉が呟いた。


ー 堀越大尉は隻眼でも僕の両目より敵が見えるんだ?!


驚く横山が大尉を見詰めていると、


「ほら、少尉。

 しっかり観ておかなくては駄目じゃないか」


諭す様に、優しく大尉が注意を与えてきた。


「あっ、はい。」


促されて見上げた空では、<空戦>が始まった。





それは、過去の出来事。


その光景は激しい空の闘い。


今、<零戦>は空を駆け抜け敵を堕とす!


次回 第4話 迎撃戦


君は地上に降り立つことが出来るのか!?



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