第4話 邀撃戦

中嶋ヒカル中尉と、<零虎レイ



基地から飛び立つ迎撃隊。

僅か3機だが・・・



「ヒカル!<雷鳥>が、突っ込んだ!」


照準器の灯かりの中で、獣耳娘が振り仰ぐ。


「了解!戦闘開始っ<雷電>の一撃に併せて、こっちも一撃を加える!」


ヒカルが首に巻いたマフラーを顔まで上げて、戦闘突入を告げた。


 キイイィィーンッ!


勇者の雷鳴が轟く中、<雷電>は両翼の20ミリ機銃を放つ。


曳光弾が、敵国フィフススターの<コルセア>F4Uに吸い込まれて・・・


「<雷鳥>の奴が、一機喰った!」


獣耳娘の叫びを聴く前に、ヒカルは敵編隊が散開する様子を確認する。

奇襲を喰らった敵3個編隊は、バラバラになって四方に散る。


「よしっ<パープル>も、突入!」


<紫電>は自分の翼下に入った2機目掛けて、急降下ダイブを掛けた。


「うん・・・ここまでは。

 でも、相手は高速の<コルセア>だから。

 2人に深追いはやめる様に言って」


ヒカルは敵が散開した為、正面に機影が無い状態で直進をかけ続けていた。


「こちらがたった3機なのを敵が解ったら、必ず逆襲してくるわ。

 レイ・・・いつでも全力発揮できるように・・・ね」


ヒカルが状況を見守る中、獣耳娘に話し掛けると、


「了解!マスター!」


親指を立てて呼びかける。


「エン!キー!出番だぞ!」


属性妖精を呼び出した。


「ほいな!親分っ」


紅い煙火服を着けた男の子が現れる。


「今日はどれにします?高空用か、大馬力か?」


「そうね、エン君。相手に負けない位の馬力を求めるわ」


ヒカルが男の子の妖精に頼むと、


「はいはい。では、<誉>ですな!」


煙火服に描かれてあった<栄>の文字が<誉>へと換えられた。


「じゃあ、私は?」


もう一人、現れた緑色の服を着た女の子の妖精が訊くと、


「決まってるだろキー。<誉>となったら6番台の機体に!」


レイが女の子に告げると、


「そうですねぇ、それじゃあ目一杯食べさせて貰いますから」


紅い服に描かれた二二にーにーの文字が六五ろくごへと換わる。


「これでよし、準備完了。ヒカル、いつでもいけるから」


照準器に映る獣耳娘が、ヒカルに言った。


「うん・・・私が昇華バスターウェーブを唱えたら頼んだよ」


そう言ったヒカルが、空戦場を見渡した。


離脱した<雷電>は低空を直進して、一度空戦域を遠く離れる。

だが、<紫電>は持ち前の<空戦フラップ>を使い、

別編隊との巴戦を試みようと急ターンを掛ける所だった。



     クイッ!



ヒカルがフットバーを蹴り、操縦桿を左へ倒した。

<紫電>の後方へ回り込もうとする2機に向けて。


「やるか?ヒカル」


「いいえレイ、まだよ」


零戦は左の巴戦へと向けて<紫電>を追う2機のコルセアに突っ込んでいく。

<紫電>を追うコルセアが、射程内へと捉え様とした時。



    チキッ!


ヒカルの左人差し指が、スロットルレバーに付いた発射把柄はっしゃはへいを握り締めた。

見越し角で、コルセアの前方に向けて零戦の機首から7ミリ7が放たれる。



    タッタタタッ!



一連射が曳光弾を交えてコルセアの前方を過ぎた。


自分達の後方に敵が着いている事に気付いた2機が、左右に別れ、回避運動に入る。


空かさず左に逃げた1機の後方へ廻り込んだヒカルが、一瞬だけ後方を確認して自分にも敵が迫っていないかを目視する。


「やはり・・・でも、一撃は掛けられるな」


<敵を撃つ時は、自分も狙われていると思え>


空戦の定石であり、混戦となった今。


ヒカルの瞳は後方へと回りこんで来る2機のコルセアの姿を捉えていた。

瞬間瞬間の機動が命運を決める空戦の中、

熟練の戦闘機乗りとしての経験と感が、ヒカルを動かす。


OPL照準器に捉えたコルセアは、ヒカルの軸線を避けようと左へ舵を切った。

しかし、それは突っ込むヒカルに追い迫られる事となる。


空中で急機動を掛ければ、スピードが減じられ追いすがる者に背を向けてしまうのだ。


「もっと引き寄せてからでないと・・・ごめんなさい」


ヒカルの左手が発射杷柄とボタンを同時に握り締める。



  ドドドッ!  タタタッ!



短い一連射が、旋回するコルセアに放物線を描いて伸びていった。


20ミリと7.7ミリが同時に片翼に命中し、


   ガガンッ! バカッ! 


命中した弾頭の炸裂と同時に翼が噴き跳んだ。



「一機・・・撃墜」


レイが錐揉み状態で堕ちていくコルセアを観て、確実撃墜を報じた。


   クイッ!


ヒカルの手と足が同時に機体を滑らせる。



  サッ   ササッ!



今居た空間に、曳光弾が流れていく。


「後上方、2機!」


レイの叫びにヒカルが応じる。


「レイ!今よ!!」


射線を避けるヒカルに応じたレイが妖精達に命じる。


「エン!キー!昇華バスターウェーブ!」


レイの叫びに、


「がってん!」

「わっかりましたぁ!」


妖精達はその力を機体へ授ける。



 シュオオオォンッ!


一瞬、零戦が輝き、その姿を変える。



  グンッ!


馬力が倍近く増し、スピードが上がる。

機首が太くなり、機銃が一門になり、両翼に13.2ミリが現れる。


「マスター!昇華完了!魅せてくれヒカルの力を!」


獣耳娘レイが、親指を立ててヒカルに告げた。


「この<零虎>は未だ翔び続けられると。

 散った者の魂は、未だ翔び続けていると!」


レイの叫びにヒカルは頷く。


気速を増した零戦は、悠々とコルセアを引き離し始めた。

コルセアの操縦者は我が目を疑ったであろう。


<紫電改>や、<雷電>ならいざ知らず、

まさか零戦に引き離されるとは思いもしなかったであろう。


慌ててフルスロットルを掛けて、オーバーブースト状態で追いすがるが、

逆に零戦の手玉に載せられていく。


「着いてきたな・・・ではヒカル。どう料理するんだ?」


レイが余裕の表情で戦法を尋ねると、


「レイ・・・私は彼らを墜とすつもりは無いわ。

 もう少しすれば諦めてくれる筈だわ」


少し振り向いたヒカルは、レイに答える。


「ちぇっ、<我、本日2機撃墜>を守るつもりだな、ヒカルは?」


腕を組んで、レイが愚痴る。


「そう・・・それが私の決めた約束だから」


ふっと微笑んだヒカルは、


「そして、私は仲間を護り続ける。大切な友と大切な人達を」


スロットルを押し込み、更にスピードを増し、

後方を追うコルセアとの距離を開けていった。


オーバーブーストを数分も継続させたコルセアのエンジンが油漏れを起こし始める。

2機のコルセアは堪らず空戦場から離脱していった。


「本当なら、あの2機も喰えたのに・・・」


こっそりと呟く妖精達。


「何か・・・言ったか?」


レイが聞き咎めて、妖精達を一喝する。


「ヒカルはちゃんと考えているんだ。後一機は必ず墜とすから」


レイは機体に溶け込んだ妖精達に怒鳴った。


「レイ・・・その一機・・・見つけたよ」


静かな口調で教えたヒカルの瞳を観たレイが、


「基地を掃射するつもりなのか」


コルセア2機が、基地へ向って緩降下していくのに気付いた。

ヒカルはその2機に向けて一直線に急降下をかけた。


「わあおっ!キー、耐えろよ!」


レイが急降下制限スピードを気にして声を掛ける。


「大丈夫!400ノット越えでも、今なら耐えられるからっ!」


機体を司る妖精が答えた。


みるみる内に、計器盤の速力計が回転し、制限スピードをあっさり超えた事を知らせる。


「只今、440ノット!翼端フラッターなし!」


通常なら引き起こしを掛けているスピードにも、

<昇華>した零戦は、耐え抜いていた。


そして、一瞬周りの気配を探り、


「前方の一機に射撃する!」


ヒカルは短く言って、発射杷弊ボタンを押し込んだ。



 ド ド ドッ!



20ミリだけが一連射、<2機目>掛けて飛んでいき。



  ババンッ



前方を飛ぶコルセアの翼に2発が命中した。


「よしっ命中!火を噴いたなっ!」


一機が火を吐くと連れ立っていたもう一機は、慌てて逃げ出した。

だが、既に後方に着けていた零戦からは逃れようもなかった。


 ダラララッ!



軽快な射撃音と共に、13.2ミリが火を吐く・・・コルセアの翼端へと。


「相変わらず優しいな、ヒカルは」


レイは弾を喰らったコルセアから、燃料が漏れ出すのを観て振り返る。

ヒカルがわざと翼内タンクを狙って撃った理由を知るレイが笑う。


「まあ、これでアイツは引き返さなければいけなくなったからな。

 アイツもコルセアを放ってまで攻撃を掛けてこないだろう」


薄くガソリンの糸を曳いて去って行くコルセアを眺めて、レイが呟いた。






「ああ・・・なぜ撃墜しないのですか?

 あの距離からなら操縦席でも狙えたでしょうに!」


横山が口惜しがって、上空の戦闘を観ていると、


「いいや、そうじゃない。ヒカルにも見えたのだろう」


大尉が零戦の上空を睨んで呟いた。


「え!?」


横山は、大尉の見据える所を良く見た。


「あっ!あれはっ!」


そう。

ヒカルは敢てコルセアを逃がしたのだ。

上空から襲い掛かってくる敵影に気付いて。


零戦は高度を執らず、水平全速飛行でそのまま飛び去る。

ガソリンを漏らしながら飛び去るコルセアは、

上空の機に援護を頼んだらしく、バンクを振りながら元来た方角へと逃げて行った。


そのコルセアを護る様に、上空のコルセアとは違う機体の一機も引き返して行った。


「今日はアイツと闘うには時間が足りないって事なんだろうな。

 ヒカルにも、山猫さんにも・・・」


大尉は両機を見上げながら苦笑いを浮かべる。


「大尉・・・山猫さんとは?」


横山が不思議そうに堀越大尉に尋ねると、


「ああ、アイツは<零虎>のライバルなんだ。

 多分・・・生まれながらの・・・ね」


苦笑いを続けて、空を見上げる大尉につられて横山も上空に視線を戻す。

そこには最早敵機の姿は無く、迎撃戦を終えた零戦が只一機、上空を護っているだけだった。


横山が格納庫で中嶋中尉と出会ってから、僅か10分も経たない出来事だった。





空戦はあっと言う間に終わりを告げる。


瞬間瞬間の機動が命を別ける空の闘い。


それが・・・<空戦>!


次回 第5話 うしなう者

君は地上に降り立つ事が出来るのか?



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