第22話 ドジッ娘

横山の過去を教えた両親にエイミーが呟いたのは・・・・


自分の気持ち?




「横山のおじさん・・・そんな過去を?」


両親の話にエイミーはショックを受けたようだった。


「横山君には内緒にしておいてね、エイミー。

 ずっと話さなかったのだから。今迄通りに接してあげてね」


ヒカルが諭す様に念を押す。


「あいつはな、エイミー。

 お前を明美さんの生れ変りだと言っていたんだ。

 ちょうどエイミーが産まれた頃に再び現れて、

 ヒカルに抱かれたお前の瞳を観た瞬間に泣いて叫んだものだったよ<明美>って・・・ね。」


勲が思い出したように付け加えると、


「私って、その明美さんに似ているの?」


呆然と話を聞き入っているエイミーがポツンと訊いた。


「それはどうか解らないわ。

 お父さんも私も明美さんって方にお逢いしていないから」


ヒカルが首を振って知らない事を教え、


「でも、あれだけ横山君が想いを抱く人なのだから。

 心根こころねの綺麗な女性ひとなのでしょうね。

 エイミーみたいなお子様ではなくって」


悲しい話を打ち切りたいのか、ヒカルが茶化してくる。


「お子様で悪うございましたね」


ヒカルの思惑に載って、エイミーも暗い話にピリオドを打つ。


「じゃあ、エイミー。

 話は戻すが、お前は何故食事も喉に通らない程気を揉んでたんだ?

 まさか、横山君に惚れてたのか?」


勲がよせば良いのに調子に乗って茶化してくると、


「あのねぇお父さん。

 たもつオジサンの件も確かに重要だけどね、私はクラスメートの事を想ってたの。

 色恋沙汰なんて・・・二の次なんだから」


口を尖らせて反抗する。


「そうかぁ?それにしては真剣に悩んでいたじゃないか。

 遂にエイミーも女心を持つようになったのかと思ったんだけどな」


反抗したエイミーを茶化した勲の前で、エイミーの顔が少し紅くなった。


「え?本当だったのかエイミー?」


驚く勲にヒカルがジト目になって、


「あなたって人は。いつまでたっても女の子が解っていないのね」


ブスッときつい一言で締めくくろうとした・・・が。

エイミーからの一言で思わぬ展開へと話が逸れる事となる。


「そうだよ、お父さん。

 私はたもつおじさんが想っている人の事が知りたかっただけなの。

 別に保おじさんが好きとか、私の事をどう想ってくれているんだろうとか言ってないし。

 ちょっと胸がキュンってなっただけなんだからっ」


・・・・・・・・


「は・・・い?エイミー・・・あなた今なんて?」


「エイミー・・・それって。恋心じゃないのか?」


エイミーが余りにも堂々と言ったので、2人は眼が点状態となる。


「へ?そうなの?私・・・しっ、知らないからっ!」


慌てて誤魔化すエイミーに勲もヒカルも開いた口が塞がらなかった。


「あああ・・・あのっ、胸がキュンとなるって言っても、焼き餅とかそんな事じゃないからっ。

 知りたかったのは保おじさんが想っている人がどんな人なのかって事だけなんだからっ」


慌てて言い直そうとしたエイミーが墓穴を掘った。


「エイミー・・・あのね。それがジェラシーってやつなのよ。

 恋心ってやつなの・・・解った?」


額を押えてヒカルが教える。


「えっ?ええっ!?そういうものなの?

 私の初恋の相手って保オジサン?」


思いっきり動揺するエイミーに、勲が付け加える。


「エイミー、相手は20も年上の男なんだからな・・・解っているのか?」


天井を仰いでため息を吐く様に勲が言うと、


「この際、年齢は関係ないわよ。ねぇ、エイミー」


ヒカルは紅くなっているエイミーにウィンクを贈ると、


「う・・・お母さんまで。もうっ、ほって置いて!」


そっぽを向いて箸を握り直した。


紅い顔のままで、誤魔化す様に箸を動かし夕食をがっつきだすエイミーを観て、


「やれやれ・・・やっぱり恋より食い気か」


「そうそう、それこそエイミーよ」


夕食に箸を着けたエイミーに安心したような2人の眼が優しかった。






__________________






「はぁ?何を言うかと思えばエイミー・・・。大丈夫なの?」


リョビが机に突っ伏せて答える。


「え?えっと・・・その。ダイジョバナイ」


自分が相談した事に戸惑って変な受け答えをしてしまった。


「やっぱり。大丈夫じゃないみたいね。

 エイミーがそんな事を訊いて来るなんて・・・誰も想像すら出来ないわよ」


放課後までは何とか我慢していたが緊張の糸が切れたのか、

エイミーは思わずリョビに相談という形で初恋というものについて尋ねてみたのだが。


「あのねぇエイミー。

 お子様じゃないんだから、好きな相手も今迄居なかったの?」


呆れるような声で訊き返されたエイミーは、真っ赤になって頷いた。


「はあ・・・何て娘なのよエイミーって。

 男の子が居なかった訳じゃないんでしょ?

 普通科の小学校出なんだからさぁ」


リョビがため息を吐いて肩を竦める。


「だ・・・だって。今迄周りに居た男子って・・・

 私を女の子扱いしてくれなかったから・・・私もそれが普通だと思っていたもん」


両手の指先をツンツンさせて、モジモジ答えるエイミーに。


「それはねぇ!エイミーがそう思っていただけなのよ。

 こんなにチャーミングなのに、男子が言い寄らないのはエイミーにも原因があるの!

 解りましたか!」


リョビが強い口調で知らしめた。


「はひっ!すみませんっ!」


涙目で謝るエイミーにリョビがまたため息を吐いた。


「ホント・・・エイミーって・・・天然ねぇ」


真っ赤になって俯くエイミーと、天井を仰いでため息を吐くリョビに。


「なにが天然記念物だって?」


掃除当番のかんが訊いて来た。


「エイミー。このに勝る呆けっは見た事無いわ・・・ホント」


「何々?エイミーって呆けっ娘なんだ?」


2人に小馬鹿にされても、何も言い返さないエイミーに教室の隅から声が掛けられる。


「いいえ、違うわ。堀越 栄美は・・・<ドジっ>なのよ」


3人の会話に割って入って来た声に振り返る。

立ち上がったエイミーが掛けられた声の主に向ってその名を呟く。


「ランナさん・・・」


3人を見詰めるランナが、今一度言った。


「この・・・ドジっ娘」


その声には今迄の様な棘は無く、柔らかさを含んでいるようにも聴こえた。


「何よバルクローンさん。エイミーは何をドジったというの?」


リョビも、前程きつい口調で咎めたてたりはしない。


「ふっ!堀越栄美のドジを言っていたら陽が暮れてしまうでしょ。解っている癖に・・・」


悪びれもせずランナが答えると、


「え~ぇ、どうせ私はドジっ娘で、ボケっ娘ですから」


エイミーがふんぞり返って逆ギレする。


「あ・・・みとめちゃったね」


漢がポンと手を打って真顔で言う。


「ぷっ」

「あははははっ」


途端に教室は笑い声に包まれる。


リョビも漢も、エイミーも。

そしてランナも、クラスメート全てが4人に釣られて笑う。


それはバルクローン・ランナがクラスに馴染んだ証。


皆がランナを友と認めた証。


クラスの中には、もう何も垣根は無くなっていた。





一学期も終盤を迎えて、土浦教官が一枚のプリントを配る。


そこには、自分の希望する専修機種を書き込む欄があった。


エイミーの希望するのは?


次回 第23話 夏季休暇へ


君は憧れの空へ飛び立つヒナ鳥となった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る