第32話 繰り返される悲劇

ルゥバラ基地に警報が鳴り響いていた。


船団からの来援要請を受けて、整備が完了した4機の迎撃機が緊急発進し、船団の上空へ向かって往った。

続いてルゥバラ島端に配置されている見張り所からも、敵機発見の報が飛び込んで来た。



 ヴウウウウゥ~・・・・



飛行場に停まる事なく警報が何響き、新たに喇叭が吹き流された。


「対空戦闘!配置にある者は持ち場へ急げ!」


地上要員達に緊張が奔る。

整備された飛行場とは違い、基地を守るべき対空陣地の構築は未だに手付かずだったからだ。



 ガンガンガンッ!



喇叭の音と重なるドラム缶を叩く音。

それが告げたのは・・・


「敵機編隊、島の北11時の方角より接近中!」


指揮所で無線手が警告を発した。

飛行場からも眼に出来るまでに近寄って来た敵を、無線は遅まきに報じてきた。



グオングオン・・・



敵機の唸りが耳に届くまでになった時・・・



 タタタタ タンタカターン・・・・



対空戦闘開始の喇叭が鳴った。






陸攻隊と袂を分かちあった頃になって、漸く第1中隊が揃った。

攻撃隊の陸攻が、隊長機に向けてバンクを振って謝意を表した。

一機も欠けることなく護れたことが、何よりも幸いであった。


「やられたのかな・・・3機も見当たらない」


集合して来た第1中隊の6機を観て、ヒカルは姿を見せない3機を思った。


「どうやら第1中隊の2番小隊3機が揃って姿を見せんようだな?」


レイも気になるのか、ずっと後方を見ている。


「機体に損傷を受けただけかもしれないし、一機に連れ添って遅れているだけかもしれないよ」


気休めかもしれないが、そう願いたい心が口から出た。


追いついて来た第1中隊の6機が編隊を組んで来る。

合計15機になった制空隊が帰還の途に就く。ルゥバラ基地まで残り30分ほどの距離だった。


「良かった、米川一飛曹は帰って来たんだ」


思い留まってくれたかと、1中隊3小隊が揃っているのを確認して嬉しく感じた。


「なんだ主よ?昨夜話していた生き残りか?」


「そうなの、彼は心意気に準じてくれたんだわ」


レイとヒカルは米川機を見て、健在である事を喜んでいた。

帰還できることを疑いもせず。


米川機に心と注意を奪われていた二人が<ソレ>に気が付いたのは、柏村中隊長機がバンクを振ったからだ。


遥か彼方、島の向こうに黒煙が立ち上っているのが判った。

凝視していると、黒煙は数本立ち昇っていると分った。


「なんだろう?海の中で火災を起こしている?」


双眼鏡ででも観なくては状況なんて分かりはしない。

この当時の無線機は全く以って役に立たない代物だったから、情報を得ようもなかった。


「柏村分隊士のことだ、無線でも打って訊いてくれているんだろうな?」


トンツーの苦手なヒカルとは違って、士官学校での柏村ならば無線を打つだろうと踏んだのだ。


「主よ・・・機銃弾はまだ残ってるな?」


レイの眼が、煙の中に何かを捉えたようだ。


「残り燃料で・・・空戦はどれぐらい闘える?」


細めた目で、遠くを見据えて訊いて来た。


「え?!敵が居るの?」


照準器に立ち上がって煙を見詰めるレイが、ケモ耳をピンっと張って様子を窺っている。


「ああ、見えたんだよ。煙の中に舞う敵の姿がな!」


振り返って応える瞳は、戦闘色の紅に染められていた。


聖獣が教えるからは間違いがないと、緊張しなおしたヒカルがバンクを振って仲間に知らせた。

それとほぼ同時だった。

柏村機から機銃弾が放たれたのは・・・





4機の迎撃機だけでは防ぎようもなかった。

自分達の身を守るだけで、防空までは手が回らない状況に追い詰められてしまった。


輸送船団を攻撃して来た敵機の数は、戦闘機12機に急降下爆撃機16機。

それだけの数を4機だけでどうにかできる筈もなかった。

12機の戦闘機に追い回されるだけになった、4機の苦境が分るだろう。


爆撃隊はさしたる抵抗もない輸送船に躍りかかった。

護衛の駆潜艇は、たった2丁の機銃を打ち上げて防戦するのだが、蟷螂の斧。

終いには自らも敵弾に因って海底へと送り込まれる事になった。


4隻が炎上沈没していく黒煙は、遠く彼方の空からも望遠されていた。




「敵の攻撃だ!敵機の空襲だ!」


気が付いた時には編隊が解散されていた。

小林隊長は各自の燃料弾薬を慮って、救援に赴くか基地へ向かうかの判断を任せたのだ。


ある意味隊長の判断は正しいと言える。

各々の機体状況が分からないのでは、全機うち揃って船団救援に赴くなど無謀としか言えない状況だったから。


「後ろの二人はどうだろうか?」


部下の2機は自分と同じ機動を執っていたから、殆ど燃料弾薬も同等だと思えるが。


バンクを振って2機を呼び寄せて、直ちに状況確認を執る。


「「燃料はどれくらい残ってる?」」


編隊と共に向かえるか・・・と、言う意味合いでエンジンと煙の方角を交互に示す。

熟練の2番機操縦員小多一飛曹は両手で丸を描いて知らせて来る。

対してまだ新米に毛が付いたぐらいの3番機大林二飛曹は小首を傾げる仕草を執る。


「どうやら機銃弾か燃料に不安があるようだな、3番機は」


レイもそれを認めて腕を組んで考えている。

帰還目前だったから、燃料に気を配る必要がなかったから、プロペラピッチを動かしていなかったのだろう。

それとも、乗機の燃費が思いのほか悪かったのかもしれない。


「列機に少しでも不安があると言うのなら、行くのはよそう。

 それにあの煙の状況なら、既に手遅れだと思うから」


3番機に頷いたヒカルが、小林隊と行動を共にするのを諦める。


「良く言った!その判断に異存はない。

 あるじも漸く上官らしい判断が出来るようになったようじゃないか」


けらけら囃し立てるレイに言い返さず、黙ったままスロットルを押し出して増速すると。


「柏村中隊長に連絡するから」


中隊1番機の横迄進出して、柏村に同行出来ないと手先信号で報告する。

即座に了解した柏村が笑い、飛行場に手を向けて<帰れ>の合図を送って来た。


「すみません、お先に戻ります」


謝意を込めて敬礼を贈ると、ヒカルはスロットルを絞って部下の元へ後退した。


「帰るわよ!」


編隊から後落したヒカルの小隊は、飛行場に向けて舵を切る。

たった3機だけで編隊を離れて帰るのを、後から叱られるだろうなと思いながら。


ルゥバラ基地まで後数分に迫った処で、異様な空気を肌に感じた。


「おいっ、ヒカルよ?!あいつらは何を考えているのだ?」


まさか聖獣レイも、帰還する飛行場が空襲を受けているなど想像も出来なかったのだろう。

今から着陸する飛行場が敵の攻撃に晒されているなんて。


「うんっ?!あれは・・・カーチス・ドーントレスじゃないか?!」


単葉低翼で複座の機体。機体上面を濃紺色に塗装された急降下爆撃機。

その機体が基地上空を舞っているのだ。


レイが気付いた瞬間だった。

飛行場からモクモクと煤煙が立ち上ったのは。


「しまった!奴等は飛行場にも攻撃をかけやがったんだ!」


レイの叫びが鼓膜を突いた。

一瞬で身体が反応した・・・バンクを振り、部下に戦闘を知らせる為。

同時にスロットルを押し出し、プロペラピッチを高に叩き込む。


「爆撃機が来ているのなら、護衛機もそこらに居る筈!」


咄嗟に周りに気を配り、上昇に転じた。


「大林二飛曹はついて来れている?」


レイに部下の状況を確認し、続けて飛行場の状況を見守る。


「どうやら、大した損害は受けなかったようね」


煙はメインの滑走路だけに留まっている。

着陸時に注意していれば、穴に足を取られずに済むだろうと思えた。


「後続の敵機が来ないのであれば、空戦に持ち込まなくても済みそう・・・」


ここでヒカルは思い違いをしてしまった。

敵機の攻撃は既に終わったのだと、自己の判断を下してしまったのだ。

海上の攻撃と、飛行場の攻撃が同時に行われたと思い込んでしまったのだ。


今迄陸上に展開して来た者の判断で、敵を計ってしまったのだ。

相手が艦上攻撃を主体としている急降下爆撃機なのを考えもせずに。

敵がどこからやって来たのかも忘れて。


「主よ、敵が数派に別れて押し寄せたのではないのか?」


<零戦>の聖獣レイはドーントレスが飛び去るのを目で追いながら注意を与えるのだが。


「二手に分かれて来たのは、海上を攻撃する為の牽制でしょ?

 もう、攻撃も終わったんだから、帰ってしまうわよ」


上昇を続けながら、ヒカルが地上に気を向けていた時。

太陽の中にキラリと光る物が現れた。


「敵機だ!」


眩しくて発見が遅れた。流石の聖獣も反射する光に気が付くのが一瞬遅れてしまった。


モフモフ髪を振り乱し、上空に手を向けるのがワンテンポ遅れてしまった。

太陽を背に、突っ込んで来た数個の櫛団子を目にした時、レイが叫んだ。


「グラマンF4F!野良猫野郎だ!」


4つの櫛団子が、一塊になって振って来た。

恐るべき火の玉を繰り出しながら・・・



丸い胴体の真ん中から延びる一文字の翼。

その翼を機銃発射焔が真っ赤に染めている。


4機のグラマンから計16本もの曳光弾の奔流が向けられて来た。


咄嗟に交し切れないと踏んだヒカルの左手が、20ミリと7ミリ7を叩き込んだ。

降下するグラマン対、上昇する零戦が撃ち合いながらすれ違う。



 カツンッ!



一発が、どこかに擦過音をたてた。


「ちぃっ?!」


OPLに立っていたレイの左袖が切り裂かれた様に破けてしまう。


「左翼に一発受けたようだが、損傷は軽微だ!」


すれ違ったグラマンに紅き瞳を向けて、レイが状態を知らせて来る。


「翼に喰らったが、燃料も漏れていない!」


破けた袖には、何も滲んでこない。それだけ確認するとレイが吠える。


「赦すなヒカル!奴等を叩き墜とせ!」


怒りに双眸を燃やした聖獣レイが、子分の妖精を呼び出す。


「おいっ、エンとキー!我が因縁の敵に制裁を加えるのだ!」


OPL上で喚くモフモフ髪を振り乱したレイの求めに応じて、戦闘妖精が現れ出る。


「ホイな!大将っ、お呼びでっか?」


紅い煙火貫頭衣姿の<発動機妖精>エンが、手をニギニギさせながら訊ねて来る。


「あいたたぁっ、もう少し早めに呼んで欲しかったなぁ!」


碧い煙火服を少し破かれた<機体妖精>キーが、嫌味を溢しながらレイに従う。


「うるさいっ!私にも失敗はあるんだっ!文句があるのなら喰ってしまうぞ?!」


吠えたてるレイに、子分達は悲鳴をあげる。


「そんな理不尽なぁ?!」


「やぁだぁ~っ?!」


泡を喰って抱き合い震える子分目掛けて、親分であるレイが言い放った。


「我が主を勝たせるのだ!奴等に我が存在を示してやる時だ!」


燃え立つ双眸でグラマンを睨むレイの、鬼気迫る表情に怯える子分達。


「がっ、合点だっ!」


「りょっ、了解ぃ~っ!」


紅いエンと碧のキーが、レイに頷き態勢を整える。


ヒカルよ、さぁ求めるが良い。奴等を駆逐する力を示せと!」


燃え立つ双眸で<零戦>の聖獣レイが、昇華を求めて来た。

グラマンを叩き墜とす為に。


異世界で受けた恨みを晴らすかのように・・・






襲い掛かって来たグラマンF4F編隊。

対するヒカルは部下を置き去りにして闘ってしまう。


圧倒する力に酔いしれたかのように・・・


次回 帰れぬ者

君は仲間を見捨てて帰れるのか?


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