企業間同盟について
;はじめに
本論において記述される
かつて、第一次世界大戦前夜から第二次世界大戦終結に至るまで、企業とはほぼ財閥を指していたものだと考えるべきで、アメリカ合衆国のような独禁法を徹底していた国家やソビエト連邦のような共産主義国家のような例外を除けば大半の先進国において、大企業とはその国家の威信の代表者であり、国家の利害関係とほぼ一致する存在であった。これはいわゆる勅許会社の例もあげられるであろうが、本論においては第二次世界大戦後、とくに非共産主義国家において展開された企業発展と、ソ連崩壊後に急速に進んでいった企業間同盟の本質について記述を行うものである。
;具体的な事例
それら経済アライアンスの成立過程を解説する前に、実際に存在している企業間同盟の実例についてあげておく。
@スターアライアンス
民間航空会社の企業間同盟。
ユナイテッド航空、ルフトハンザドイツ航空、エア・カナダ、全日本空輸、アシアナ航空等。
@ステランティス
伊仏の自動車会社を中心とした企業間同盟。
アルファロメオ、クライスラー、シトロエン、ダッジ、ジープ、ランチア、マセラティ、オペル、プジョー、ボクスホール、ダチア等。
@ルノー・日産・三菱アライアンス
日仏の自動車会社を中心とした企業間同盟。
日産自動車、三菱自動車工業、ルノー、アルピーヌ等。
これらは対等同盟と言うべきだが、より上下関係がはっきりとした企業間同盟もあり、これは代表的な企業の名前をもった一種の企業グループとしての側面が強い。
幾つか事例をあげる。
@フォルクスワーゲン・グループ
フォルクスワーゲンを頂点に置く企業グループ。
フォルクスワーゲンを中心に、ポルシェ、アウディ、セアト、シュコダ、ベントレー、ブガッティ等。
@トヨタグループ
豊田自動織機を源流とした企業グループであり、805もの企業による構成される。中核となるのはトヨタ自動車であり、実際に自動車関連事業を行う企業が多い。
ここでは主に自動車企業をあげる。
トヨタ自動車、デンソー、ダイハツ工業、日野自動車、SUBARU等。
;第二次世界大戦終結後の非共産主義国家における経済成長と大企業成立の過程
@再出発
第二次世界大戦終結後、いわゆる先進国と呼ばれた国家の殆どは経済的な再出発を余儀なくされた。日本を筆頭に東西分断が起きたドイツや共和化したイタリアといった旧枢軸国は無論であるが、戦勝国も例外ではなく、とくに欧州で多大な痛手を負ったフランス、イギリスなども同様である。
加えてこれらの国家から独立を果たした国家もまた新たな体制を模索することとなる。旧日本領であった朝鮮は南北分断が起き、現在も北朝鮮と大韓民国に別れており、英国の広域に渡る旧植民地もまたその大半が独立した。インド、パキスタン、シンガポール……数え上げればきりがない。
また同時に、植民地解放の時代にあたっても尚植民地を維持しようとした国家は冷戦期に苦痛を強いられることとなり、旧フランス領ではベトナムが独立のために戦争し、後にはアメリカ合衆国と戦争することとなり、旧イギリス領でもマレーシアでマラヤ危機と呼ばれる一連の戦闘を経験することとなり、旧オランダ領であったインドネシアも独立戦争を経験する。
また中国大陸では中国共産党と中国国民党との間で第二次国共内戦が勃発。最終的に中華民国は敗退し台湾へと逃れることとなる。
@旧枢軸国における経済成長
日本、ドイツ、イタリアのいわゆる旧枢軸国は第二次世界大戦後に幾つかの共通する過程を経ることとなる。
つまり、欧州の場合はマーシャル・プラン、日本においても複数の支援を受けて戦後復興を行った。これは東西冷戦を見据え、西側と呼び得る国家や潜在的西側国家を支援するアメリカの意図があったわけだが、こうした施策によって生じたのは経済の自由化であり、旧枢軸国は統制経済を基礎としていたことを思えば、経済方針は180度転回したと言っても過言ではない。
とくに財閥の解体と、アメリカが重んじてきた一種の国体と言える独占禁止法の導入はこれらの国家に強い影響を及ぼした。
集産主義的な思考方法というのはそもそもリソースに劣る国家勢力がリソースの集中を図ることで既存の優越する国家に対抗するためのものだったわけだが、これが解体され独占禁止法が導入されることに一つの過程を見出すべきだろう。
@戦後独立国家における開発独裁
戦後独立を果たした国家は数え切れないほどであるが、ここでは大韓民国と台湾の事例をあげたい。どちらも独裁的な体制を構築し、大韓民国の場合は戦場となり荒れ果てた国家を、台湾の場合はそもそも独立した国家機構を持たないところから国家を構築することとなり、先述のようにリソースに劣る両国が集産主義を志向したのは偶然ではないだろう。いわゆる旧枢軸国が統制経済の後に敗北し自由経済を導入したのと同様の過程を両国は旧枢軸国よりも短い期間で再現していくこととなる。無論、こうした開発独裁には前提として官僚制の伝統を必要とするもので、これはアフリカにおける経済発展とは違った過程を持つものであるが、ここでは割愛する。
@戦勝国における戦後復興
実際のところ、戦後復興という意味ではアメリカ以外のいわゆる連合国においても大差はなく、イギリスもフランスも、ギリシャやデンマークなどといった中小国も含めてマーシャル・プランによる経済支援を受けることとなった。
そのうちイギリス、フランスは戦前から自由主義を基礎としていたわけだが、いわば”廃墟からの出発”を余儀なくされたという意味では旧枢軸国とあまり差異がない。
@戦後復興における企業像
戦後復興によって経済発展を遂げていった各国の企業に対する態度は非常に多種多様なものであった。例えば英国では戦後労働党政権が誕生し、イギリス重工業の停滞に対し国有化の方針をとりブリティッシュ・レイランドを構築したのに対し、フランスやドイツでは同様のことは起こっていない。フランスにおいてはルノーがヴィシーフランス及びナチスドイツに協力していたことの懲罰を込みで国営化されているが、1986年には民営化されている上、シトロエンやプジョーなどは民営企業のままであったため、やはりブリティッシュ・レイランドの事例には及ばない。
日本においては特定産業振興臨時措置法案の名の下に複数企業を纏めようとする動きがあったが、これも自動車産業の強い反発により頓挫している。
そして何より重要なのは、イギリスのブリティッシュ・レイランドはほぼ完全に失敗したということである。ブリティッシュ・レイランド時代の車両は品質が低く、ブリティッシュ・レイランド名義に統一された英国自動車企業の殆どは外資によって買収されることとなる。
自由市場において重視されるのは製品の品質であり、それはたんに製品の精度のみならず現実の需要に一致しているか否かが問題であり、このブリティッシュ・レイランドの事例はいわゆるウィンブルドン現象の典型的な事例と言える。自ら市場を解放した米国や経済的に失敗した英国の市場を蚕食したのは戦後復興を遂げた先進各国であり、西側及び親西側勢力はこれらの市場を共有しながら企業規模を国家の発展と比例的に膨らんでいったのである。
つまり、戦後復興で誕生したそれら企業は市場開放と自由化によって、その前提としての独占禁止法を持ったために、まず一つの国家において独占的な地位を持つことがなく、国際市場にうってでて製品を販売する必然性を持ち、これらは基本的に民営のものであった。民営の、国家において完全な独占的位置を占めることがない、国際的に輸出を行う企業というのが第二次世界大戦後の大企業の基本ビジョンだったと言うことができる。
;東西冷戦の終焉と企業間同盟の時代
@冷戦の終焉
東西冷戦の終焉は国際市場に大きな変化を及ぼした。
第一には米国が独裁政権を支援するモチベーションを喪失したことにあり、先に事例として上げた大韓民国や台湾のように民主化の機運が高まった。
第二に、共産主義体制が崩壊した東側各国という巨大な市場が開かれた。これは同時に旧東側国家が西側国家の競争力に対抗しなければならない状況を生み出しした。
@市場
元々、欧州の西側国家は東側ひいてはソビエト連邦に対抗するためにNATOの形で軍事同盟を組んでいたが、経済同盟としての基礎となったのはオランダ・ベルギー・ルクセンブルクのいわゆるベネルクス三国によるベネルクス関税同盟である。
この構造を理想主義的に見るべきか、現実主義的に見るべきかでいわゆる欧州連合の見方が変わってくるのだが、本論においては経済的側面を強調して論を展開する。
欧州連合はまず関税同盟としての側面を持つ。国境の行き来を自由にし、製品にかかる関税が大幅に減少する。次に欧州連合には共通の通貨としてのユーロがあり、ユーロを導入する場合には導入国家は通貨の独立を喪失する。つまり欧州連合に加入し、ユーロを導入した場合には、新規加盟国家は通貨の自主性を持たない形で、対等に欧州連合先進国の商品に対抗しなければならず、それができない場合には市場が欧州連合内の外国国家に占有され、歳入が減少する……EUとは擬似的な一つの巨大なユーロによる経済圏であり、擬似的な統一市場なのである。
旧来の国家であれば、国家間取引においては関税障壁があり、また通貨価値に差があったため、例えば海外の自動車メーカーがとある中小国家に対し自動車を輸出した場合には、関税に加え通貨の差から輸入した国家側での値段が高騰するものだが、ユーロ圏内部においては通貨格差は存在せず、また関税もほんの僅かである。
このユーロ圏という考え方は非常に示唆的で、例えばEUはあくまで欧州議会であって国家ではないため独占禁止法はなく、また銀行は欧州銀行の一括統括であるため、仮にドイツのある会社Aが、ユーロ圏全体でのシェアを通常の国家であれば独占禁止法に違反する割合を持っていたとしても、それぞれの国家でのシェアがそれぞれの国家の独占禁止法に違反しない範囲であれば問題がないことになる。
@国家における独占禁止法の抜け道としての国際企業
つまり、特定の国家に依存する企業は、その特定の国家における独占禁止法の割合を超えたシェアを持つ場合には解体を命じられることになるが、複数国家においてシェアを持つ企業は仮にそのシェアの割合が総合すれば特定国家の独占禁止法に違反する規模であったとしても、分散していれば独占禁止法に違反しない構造を持つ。
仮に国際的な企業Aが存在し、大国α・β、中小国γ、小国θが存在しており、独占禁止法の基準がα18、β15、γ6、θ2であった場合、国際的な企業Aはαにおいて12、βにおいて10、γにおいて3、θにおいて1のシェアを獲得しており、シェアをそれぞれ合計すれば26となり、α・β・γ・θどの国家であっても独占禁止法に違反するシェア占有率を持つことになるが、シェアを分散しているために独占禁止法の適用を免れることが可能となる。
そして何より、資本主義社会において資本はそれ自体が利潤を生むものであることを考えれば、資本は集中させられればさせられるほど良いと民営企業は考える。製品の量産にしてみても、同一の工程、同一の金型、一元化されたサプライチェーンはそれそのものが市場を生み出す巨大な産業である。
@企業間同盟の利点
利点は独占禁止法からの解放だけではない。例えば国際的企業が複数の国家で運用可能な生産設備の構築が可能になった場合、途上国に直接工場を作ることができる。国民性など人々の気質にもよるところはあるが、もし仮に途上国で製品を生産できればその国家において関税面から有利になるのみならず、労働者の賃金の安さから途上国で生産した製品を先進国へと送ればさらなる利潤を見込むことが可能となる。そして何より、工場設備を新たに建設する場合には背景に大資本が必要不可欠となるだけではなく、複数国家に跨ぐ国際的企業は一つの国家に限らない複数国家の施策に影響を及ぼすことも考えられる。途上国でシェアを獲得するのみならず、現地で工場を作り生産するのであれば外国で一つの生活環、ライフサイクルを生み出すことにもなる……いわば国際的企業とは、国家に準ずる存在であり、準国家としての機能を有するものなのである。
これは同時に、リソースが限られた大企業という一つの矛盾した形態に対する解答にもなる。例えばとある産業において業界三番手、五番手、六番手が連合を組めば、その規模において業界二番手に並ぶものとなり、業界におけるシェア獲得のみならず、影響力においても同一のものを保持することが可能となる。
或いはいっそ、業界最大手に従属するという手段も考えられる。この場合、業界最大手がもっとも大きなシェアを世界中に持っているわけだから、親会社の需要を子会社として受けることも可能になる。業界大手とその従属企業という立ち回りは先に出したトヨタグループやフォルクスワーゲン・グループがあげられ、業界で後追いの立場にある企業同士の同盟がステランティスやルノー・日産・三菱アライアンスであると言うことが可能である。
;終わりに
こうした企業間同盟は必要に応じて生み出された一種の同盟機構であり、市場を生み出すことを考えれば準国家としての機能を持ち合わせることにもなるわけだが、同時にそれは企業における経営責任をより重大なものにすることにもなる。工場による環境破壊が起きた場合、それは企業は元より、その企業が拠点を置く国家の連帯的な責任にも繋がるであろうし、国際的企業と企業間同盟とはたんに国家の利害関係のみならず、地球環境や人間生活にも関与することにもなっていく。
現状において企業間同盟は本質としてのリソースの集約と独占禁止法からの離脱を上げたが、今後企業の地位が上がっていき、国家に対する影響を及ぼすことが増えればまた別個の顔が現れるであろうが、現状としてはこれらの要素を纏めて書き残しておくことで記述を終了したいと思う。
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