無名のセトリ
:::はじめに
小説『無名』は、いわゆるセーブ・ザ・キャットメソッドを使用した私の連載小説である。クオリティはともかく、色々なフィードバックが得られたので個人的には満足している。
そもそも『無名』は、『ぼっち・ざ・ろっく!』の大人気サブキャラクター・廣井きくりの大規模翻案を行った主人公とその周辺を再構築したキャラクラーによって構成される小説で、同時にまた元々以前から音楽を題材にとって小説を書きたかったというモチベーションも背景にあった。
以前、あるアカウントのフォロワーが小説を書き始めるといって、異世界ファンタジーの戦争モノであるにも関わらず元ネタは洋楽(それもプログレ!)であると言い始め、作品が完成する前からゴチャゴチャ元ネタの話をし始めるその頽廃的な態度が実に気に食わず
「もし仮に自分が音楽を題材に小説を書くのなら……」
と温めていた構成と、廣井きくりと、プログレ趣味を、セーブ・ザ・キャットメソッドというある意味ではものすごく筋としてカッチリした創作手法に当て込んだもので、いうなれば具材が多すぎて破れた巻き寿司のような小説がこの『無名』なのである。
:::で、どうして破綻したんだい?
『廣井きくりの深酒日記』が面白すぎたのである。
サブキャラクターにあるまじき人気を誇る廣井きくりをメインに据えたこのスピンオフとは本編とは一線を画す内容で、これはいうなれば漫画『天 天和通りの快男児』に対する『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』のようなものではないか……と言ってどれだけの人々に通ずるのであろうか?(私は麻雀のルールが分からないにも関わらずどちらも好きである)これが面白すぎるために、私がやりたかった”私のきくり”のほとんどが無意味なものとなった。それでも『無名』で描かれた、シリアスな、ワナービーの情感だけは漫画に持っていかれずに済んでいるのだが。
加えて筆者・文乃綴は実は大のライブ嫌いで、クラシックでさえコンサートは嫌だと感じてしまうし、ましてロックフェスなんて絶対に行きたくない……と思っているタチで、この性質が災いして『星の陰影/残光』でも『アイドル声優だった私が、アイドル声優をやめるまで』でもライブシーンはペラっとしたものになってしまった上に、とうとう『無名』ではインディーバンドとライブハウスを主題に置いているにも関わらず、マトモなライブシーンは導入にしかないという本末転倒を引き起こした。
そういうわけで『無名』は習作の地位に留まってしまったわけだが、セーブ・ザ・キャットメソッドがどのように運用されるものなのか? やカクヨムにおける連載方式についてかなりのフィードバックが得られたため、そういう意味では(繰り返しにはなるが)満足している。
:::じゃあ『無名のセトリ』とは?
つまり……
>以前、あるアカウントのフォロワーが小説を書き始めるといって、異世界ファンタジーの戦争モノであるにも関わらず元ネタは洋楽(それもプログレ!)であると言い始め、作品が完成する前からゴチャゴチャ元ネタの話をし始めるその頽廃的な態度が実に気に食わず
と書いたように、元々
「作品が未完成であるにも関わらず自作の元ネタと設定解説をし始める態度」
が気に食わなかったため、それへの一種攻撃的な態度の表明として書かれた『無名』のーー元ネタ解説、である。
なにせ作品は完成しているし、これはこの上ない復讐でもある(もっとも相手は悪いことしたなんて思ってないだろうが)ため、この『無名のセトリ』をもって、この負のモチベーションを解消していきたいと思う。
:::小説『無名』の章題について
>1st EP『夏星の国<In the Region of the Summer Stars>』
>2nd EP『戯言<Aerie Faerie Nonsense>』
>3rd EP『私にふれて<Touch Me>』
>4th EP『あの時の六人<Six Pieces>』
>5th EP『滅びの都<Something Wicked This Way Comes>』
>6th EP『最後の呪文<The Spell>』
@これらは全て、主人公・廣川克己が敬愛し、私が愛するプログレッシブ・ロック・バンド『enid』のアルバム名が元ネタになっている。また、付随する日本語は殆どが意訳であり、邦題通りになっているIn the Region
個人的にはenidのアルバムでは『In the Region of the Summer Stars』と『Touch Me』。加えて『Six Pieces』がお気に入りなのだが、これらのアルバムは当のバンド・enidが配給と揉めた関係で異なるVerがあったりして非常に面倒である。ただ、高音質なものがYouTubeに転がっているのでそっちを視聴してから買うと良いと思う。好きになったら頑張ってCDを探してくれ。転がってはいるし、好きならば調べることも苦ではないであろうから。
:::1st EPの元ネタ
>今日はEL&Pのコピー。演目は『タルカス』。
@開幕で主人公らのバンド『穢土』が演奏しているのはプログレッシブ・ロックの金字塔である
>だから今日も、シンバルはどこからも飛んでこない。
@作中でも繰り返し述べられるが、これは伝説的なジャズマンであるチャーリー・パーカーが若かった頃、シンバルを投げつけられて演奏を中止することになった逸話に由来する。これも同様に作中で説明されるが、クリント・イーストウッド監督作品『バード』ではこのシンバルが非常に印象的なものとして作中のキーアイテムとなっている。
>「しかし最近、ELPばっかやってるよな。次はUKとかやらんか?」
@先のEL&Pと比較すると知名度では劣るものの、有名なプログレッシブ・ロックバンドの一つとして知られるのがU.K.である。
とくに作中でも出てくる『Danger Money』はお気に入りなのだが、U.K.はセルフタイトルとなる『U.K.』と二作目である『Danger Money』発表後は主要メンバーが入れ替わってしまって、実質二作しかアルバムがないグループになっている。King Crimsonや後のAsiaで有名なボーカリストであるジョン・ウェットンの透き通るようなVoとメロディアスな旋律が売りだが、後にジョン・ウェットンがAsiaに行くようにプログレッシブ・ロックブームの最後の灯火のような側面がこの二枚にはある。またセルフタイトルとなっている1stは邦題に『憂国の四士』という何かやたら右翼的なネーミングがつけられているので一部で有名である。
>ティーンだった頃のチャーリー・パーカーにシンバルを投げつけたのは、ドラマーのジョー・ジョーンズ。パパ・ジョー・ジョーンズだったと言う
>そいつはきっと嫌味で、アドリブ至上主義の自称ジャズマンで、クリント・イーストウッド監督作品『バード』の愛好者だったのだろう
@これが先述した部分である……ジャズマンの無軌道というのは非常に独特で、彼らの中には”つまらない音”とか”つまらない構成”みたいなものがあるらしく、偏屈で固定的な見解を持ち得ないアドリブ性に特徴がある。プログレッシブと題しながら固定的な特定のフレーズや長大な構成に魅力を見出すプログレッシブ・ロックファンと、無軌道で自由でアドリブ至上主義のジャズマンは基本的に融和出来ない者同士である。
>新宿――そう、新宿だ。目の前にラーメン二郎がある。小滝橋だったらこの構図はあり得ない。つまり今私は歌舞伎町の交番の近くに居て――だから
@ラーメン二郎歌舞伎町店は歌舞伎町交番すぐ近くにある。時おり酔っ払いが追い出されては出禁になっており、私もそうした現場を一度目撃したことがある。
小滝橋とはラーメン二郎小滝橋店のことで、以前ジロリアンからは”偽物”とか”二郎の名折れ”とか言われていたものだが近年は二郎らしくなっている。恐らく主人公は小滝橋店の前であれば左手に小滝橋通りが見えるはずだと考えている。
>最後の記憶と言えば、マトモに歩けないのででんぐり返しでこのまま錦糸町にある家まで帰ろうと決意した瞬間である。アラサーとは言えまだまだ若い女の身空で大久保の裏路地に居るのでは危ないと無意識に判断したのか、行き着いた先がこの新宿歌舞伎町交番前だったのだ。
@これは実際に酔っ払ってでんぐり返しをしたというかつての友人に聞いた話。真っ直ぐ歩けない酔っ払いは地面に座り込んだ後にでんぐり返しでの帰宅を試みるらしい。私は外でそこまで飲んだことがないので分からないが……。
>「ブラックニッカ、どこで売ってます?」
@迎え酒は都市伝説ではない。実際に高知出身の友人が二日酔いの時に朝から枕元にあるワイルド・ターキーを飲み始めたのを目撃している。これも私はやったことがないのだが、実際効くらしい。
>総武線の車窓から国立競技場を垣間見ながら、私は新宿で購入したブラックニッカのポケットサイズをぐいと飲む。香りの中にあるそこはかとなく下品な味。これぞ私の愛する安ブレンデッド、ブラックニッカの真骨頂だ。色々なウィスキー、色々なお酒に手を出しながら最後、私が手にするのはいつもこのブラックニッカだった。大学を出る頃には、こんな安ブレンデッドなんて飲むこともなくなるのだろうなと思っていたが、実際には私の停滞する人生そのもののように、私の嗜好品としてのお酒の主たる地位もまた停滞し、このブラックニッカに収束してしまっている。
@実はここで国立競技場が見えるのは伏線だったのだが、オチが変わってしまって未回収になってしまった。
ブラックニッカの味は本当に下品で、真剣に味わうと「馬鹿なんじゃねえの」と言われている気持ちになるのだが、これを飲むと普段自分はどれだけ美味しい酒を飲んでいるのだろう……と考え込んでしまうことしばし。
>錦糸町駅から徒歩十分圏内に私の住むアパートはある。月四万円弱のトイレ・シャワー共同、築七十二年のそのアパートは名称をグラン・セノーテと言う。
@これは実際にSUUMOで類似物件を探したのでモデルは実在する。流石に実物を見たわけではないが、以前に『積まれた本』で書いたように、こういった激安物件で営まれる生活に他人事じみた関心が私にはある。
>マルセル・デュシャンの泉のようなものだ
@マルセル・デュシャン『泉』で検索すれば分かる。いわゆるレディ・メイドというもので、ようは方向を変えた便器なのだが、いくらハイコンテクストだからってそれを言うのは下ネタに等しいだろう……と誰かが言ってくれはしなかったのだろうか?
>男子の癖してケーキ屋巡りと喫茶店巡りが趣味で、SNSを見れば洒脱な喫茶店でこれまた洒脱に村上春樹などを読んでいる始末なので、SNS上の彼を女だと勘違いする奴が跡を絶たない。
@これは筆者・文乃綴の実体験である。ケーキ屋巡りを趣味にしているわけではないが、一時喫茶店やファミレスに居座って本を読み続けるようなことばかりしていて女性だと勘違いする人がわりと居た。
>荻窪にある私の活動拠点シルバーバレット
@実はこのシルバーバレットにも元ネタがある。そのライブハウスは今も続いているらしく、この小説を書く前に一度は行こうと思っていたのだが、結局行けずじまいである。
>「ルネッサンスだよ!」
@バンド『Renaissance』は非常に珍しい女性Voを据えたプログレッシブ・ロックバンドで、女性でしか出せない特有の高音を盛り込んだ楽曲は一聴に値する。お勧めは『燃ゆる灰<Ashes Are Burnning>』である。
>AQUAのルネ・ニューストロンとかの方がよほど通じるだろ
@今さら説明する必要もないだろうが、AQUAのメインボーカルである。デンマークとノルウェー出身者で構成された北欧のポップソンググループで、知らない人も代表曲を聴けば多分分かるんじゃないかなと思う。言ってしまえばABBA辺りと同じようなモンで、今さら真剣に聴く価値があるとも思えない……などと言い出すのがプログレ者の悪癖であろう。
>「イカ焼き~」
@よくあるメンヘラの自虐ネタであるが、飲み会の場でやるというのは聞いたことがない。これは創作だが、相当キテる女だという描写をしたかったのだ。
>そこらじゅうにあるカラオケに入り、一人エイジアやキング・クリムゾンを歌うのも良い
@プログレ者のカラオケの十八番と言えばエイジアで、私も二つか三つあるエイジアの曲をカラオケで歌うことができる。しかし一人でプログレやその周辺の曲を歌い続けると飽きやせんか……と思わないこともない。
>当時の私達が目指していたのは、人間椅子や八十八ヶ所巡礼のようなサイケ、ゴス混じりの中にある一構成要素としてのプログレッシブではなく、日本初の本格派シンフォニック・ロックバンドだった
@実際のところ人間椅子は最近プログレ扱いされないことが多いらしく、またいわゆる”巡礼”も組曲的な構成はされない。『ぼっち・ざ・ろっく!』に登場する廣井きくりを中心に置くバンド『SICKHACK』の元ネタがこの八十八ヶ所巡礼なのだが、SICKHACKも作中ではサイケロックということになっている。
>『深い河』
@作中にもあるように遠藤周作の小説が元ネタである。ブンゲイ・ロック路線という意味では人間椅子を踏襲している側面が”穢土”にはあったらしいことが分かる。
>『犬の心臓』
@ミハイル・ブルガーコフの小説が元ネタである。
恐らく主人公は東欧プログレで知られるSOLARISをオマージュするつもりだったのかもしれないが、元ネタに凝りすぎている上に和風テイストが消滅したのも恐らく失敗の原因の一つであろう。
:::2nd EPの元ネタ
>TVニュースで新型コロナの話題を初めて見たのは、私は確か錦糸町の中華屋でレバニラ定食と瓶ビール一本を注文していて
@これはWikipedia『三幕構成』のページで映画『アメリカン・スナイパー』の中で主人公がTV越しに911テロの情景を見たところを物語の取っ掛かりにしているという事例をそのまま持ち出したものである。
>近所のケバブ屋が従業員を募集していたはずだ。
@これは元ネタになる廣井きくりが原作で実際にやっているバイトである。
>「日本語が分からないの?」
@これは実際に私が職場で言われたことがある。何も言い返せなかった当時の自分が悔しい。
>中古CD屋は大抵の音楽家志望の故郷だ
@これは小説家志望も同じだろう。たいていブックオフで本を買い、そうしていずれ卒業するのである。……だから私は、作家が古本屋を否定するのは何か刀狩り的で矛盾した行いのように感じ取られてならない。
>彼女はいわゆる独身貴族という奴で、子供だから理解出来なかったのか分からないが、異性との交流もあまりなく、ただし見た目こそ洒脱でお洒落に決めていたものだから、中途半端に田舎の気風が残っていた私の地元では多少の顰蹙を買っているのが理解出来た。
@大抵、子供に強い印象を残すのはこうした独身貴族的人種なのだが、こうなってはいけないぞ……と言うフレーズも同時に付随する存在である。私自身がこういう人間になっていることをひしひしと感じているので他人事ではない。
>EL&Pの『恐怖の頭脳改革』で、あるゲームの音楽と雰囲気がそっくりなその音楽に私は夢中になった。
@このゲームというのは恐らくファイナルファンタジーであろう。とくに”妖星乱舞”はELPそのまんまである。
>レッド・ツェッペリンも聴いたし、ビートルズも、ローリング・ストーンズも、彼女の部屋で初めて知った。クラシック音楽への向き合い方さえも、彼女から教わったものである。
@この独身貴族のお姉さんに憧れていた側面が主人公にはあるのだが、やはりそうした印象に残る大人と接していた人物はある程度大人になっても自分より年上の人間に惹かれてしまう根本性質があるらしいと体感で近年、私は理解しつつある。
>高校時代にも同じく吹奏楽部に入ってフルートをやる。
@実はこれは主人公がバンド・フォーカスの楽曲を演奏する伏線になっている。フォーカスではフルートが登場する場面があるのだ。
>新宿にはディスクユニオンがある。
>他にもプログレ専門の幾つかの中古屋を知っているが、まず最初に私が見るのはディスクユニオンだ。第一、プログレ専門店というのは品揃えが良いぶん高いもので、余程探しものがあるでもない限り、フラリと立ち寄る気にはとてもなれない。
@これは筆者の実体験である。大抵、非チェーンのプログレ専門ショップは吉野家コピペの如く殺伐としていて辛い思いをすることが多いし、売っているものも高かったりする。
>最初に演奏されるのはFocusの『Sylvia』で、そこに『Hocus Pocus』を追加し、次にenidをやる。意図的に短めの、キャッチーな楽曲を組み合わせていたため、場面を問わずウケが良かった。
@このセトリ、本当はもっと具体的に書こうと思いプレイリストに纏めていたのだが、結局出さずじまいである。エニドは七面倒臭いグループだが、フォーカスは聴きやすいので手を伸ばしてみるのも悪くない。
>一人くんは珈琲とサンドイッチを頼み、結局私はハンバーグランチにフライドポテト、瓶ビール、食後の純喫茶風プリンまで注文してしまった。
@元ネタは新宿にある椿屋珈琲店である。奢りでこのように高い喫茶店に行く太い感じはどれだけの人に伝わるのか……。
>『27クラブ』
@拙作『星の陰影/残光』でも取り上げた概念だが、実際にはこれに強く囚われている人間はあまり多くないと言う。……が、便利なので使ってしまう。
>音楽の傾向で言えば彼らの音楽はロック、いわゆるオルタナ。キャッチーなジャンルに接近せぬままに或る種のキャッチーさを備え、他人に音楽を聴かせ、自らの音楽を公共の流通にのせようという意欲を感じる、良く言えば流行りの、悪く言えば売れ線の、しかし多数の音楽の中に埋没しないだけの個性を持った音楽を、彼らはやっている。
@ここで具体的にイメージしていたのはthe pillowsだった。実際ここで書いた通りの音楽で、アニメ『フリクリ』で使用されていたのでも有名。
>FocusのSylvia
@フォーカスはオランダのプログレッシブ・ロックバンドで、アルバム『FOCUSⅢ』に収録されたこのSylviaだけがシングルカットされてバカ売れしたグループである。全体的に聴きやすいが、それ故に安易に人にお勧めしたくないと感じるグループがこれである。
>彼はそう言って、"南口の改札前で"頭を下げて私に詫びる。
@実際に新宿駅を使ったことがある人間なら分かると思うが、東南口と南口はすぐ近くなので間違えがちである。コロナ前なので新宿駅の東西連結もなされているか曖昧だったから東南口を使ったのだろう……と当時を想起してみる。昔は東口と西口が分離しており大変不便だった。
>結局私は彼と高知料理を出す個室居酒屋へ向かった。
@この時私が鰹を食べたかったというそれだけの理由で高知料理の店になった。新宿周辺には高知料理がメインの居酒屋が幾つかあり、珍しいものではない。
>あのギター、アドリブ入ってたよね
@私がライブ盤を嫌う理由の一つがこれで、余程のことがない限りライブの方が上ということはなく、EL&Pの『展覧会の絵』やenidの『Touch Me』のようにライヴ盤しかないならばともかく、基本的に私はスタジオ録音派である。
>「レッド・ツェッペリンのモビー・ディックってあるじゃないですか。あれは録音盤だと四分半ぐらいだけど、ライブではドラマーのジョン・ボーナムの見せ場として長く演奏することも多かった。そういう曲でしたよね」
@先述した”ライヴ盤の方が上”の珍しい事例がこのLed Zeppelin『Moby Dick』である。ジョン・ボーナムの変態的なプレイを見ることが可能。YouTubeでLed Zeppelin公式名義でアップロードされているので視聴をお勧めしたい。
>彼を祝福するのが私に課せられた役目であるはずなのに、表向きには彼を祝福しながら――内心では強く嫉妬していたのだ。
@クリエイターに限らずあるあるな話。いわゆる”婦人の仁”とか言う奴で、目にかけていた奴が自分を追い越すともやもやしてしまうという人間心理。
:::3rd EPの元ネタ
>先から何か悲観的な音色を持つ楽曲ばかり――チャイコの運命、ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番、Pink Floydの狂気――を聴いているのは、今の気分を反映してのもの……だって、金に困って人生に行き詰まっているのに、ベト7みたいな明るい曲を聴いていたら、それは何というか、馬鹿馬鹿しいじゃないか。
@チャイコフスキー交響曲第五番、ラフマニノフピアノ協奏曲第二番、Pink Floyd『The Dark Side of the Moon』のこと。どれもとても暗い音調を持つが、前者二つはバリエーションが多く、Pink Floydのそれは背景が面白い。
><チャーリー・パーカーじゃないんだから>
@ジャズマンであるチャーリー・パーカーは勝手に他人の楽器を質屋に入れたことがある。
>「お金がないならないなりで、ちょっと考えて下さい。こんな時勢だから、政府が何かしてくれるかも分からない」
@実際当時、住居から追い出される可能性がある人については役所に行けば何らかの補助が受けられる可能性があったのだが、彼女にはそういうことを考える頭はない。第一、書類とか嫌いなタイプだろう。
>倉橋ヨエコの『夜な夜な夜な』でも歌って
@メンヘラ御用達ソング。その後の台詞もこの歌の歌詞である。
>「デニーズでいい?」
@実際に新宿中央公園のすぐ近くにデニーズがある。一階にはMINIのディーラーが入っており、二階にデニーズがある。
>正直、ここ半月はロクなもの食べてないよ。コンビニの複数本入りのチョコスナックパンとか、そういうのばっかり
@私も専門学校生時代はそんな感じだった。しかし30手前にもなって……。
>そう言うと彼は走り出し、近くに止められた赤い外車……ミニかな。ミニをすぐ近くに寄せてくれた。
>新車で買いました
>一括で新車
@我が国における自動車政策は半ば国策なので、新車購入時のローン金利は安い。堀江貴文などは「現金一括で買う奴は阿呆」とまで言っている。ただ、投資をしている人間はその資金のタイムラグ以上の利殖が可能だからこう言うのであって、可能なら一括で購入するのも手なのではないか……と思わないでもない。
>その人は凄いですよ。ウチのバンドで三つ目で、前のバンドも、前々のバンドもものすごい売れたって
@有名バンドあるある。YMOのメンバーも元々活動履歴があったりするので、世界的に有名な音楽集団は無からは生まれてこないのである。
>the pillowsのFLCL Original Soundtrackで……私と彼とは、どうもやはり根っこの部分で趣味が重なってはいない
@サントラとは言うが殆どpillowsのベストみたいなCDで、恐らくこの山本一人は根っこの部分でサブカルオタク的な部分があって、ハイカルチャーぶる主人公とは若干毛色が違う。
>「春一番が掃除したてのサッシの窓に……」
@キャンディーズ『微笑がえし』の歌詞。キャンディーズの過去の楽曲要素が散りばめられたもので非常に芸コマ。
>彼の借りている部屋はみなとみらい線の駅直のタワーマンション
@モデルがあり、実在する。タワマンの構造を知る度に真ん中からボキっと折れればいいのになあと思ってしまう。
>の生活を始めてから体重が随分と増えた。
@これは健康的になって太ったのである。酒飲みは代謝が落ちてマトモに飯を食わないことがざらにあり、恐らく主人公もそうなっていたのだろう。
>「世の中すねてる歳でもないんじゃないですか?」
@筋肉少女帯『サーチライト』が元ネタ。ところで私は新卒で入社した会社のカラオケでこれを歌って場を凍らせたことがある。
>アンディ・ウォーホルの十五分が通じない
@アンディ・ウォーホル曰く「15 minutes of fame」であり、現代の消費社会を暗示したと言われている文言。
>では90125を作ったYesはそれを諦めたグループになるのか
@Yesは有名なプログレ・バンド。そのYesが作ったアルバム『90125』は全体的に非常にポップで当時プログレファンから非難を受けた。
>Pink FloydのThe Piper At The Gates Of Dawn
@Pink Floydの初期アルバム。この頃はプログレというよりはサイケで、のちのPink Floydの大作主義とは似ても似つかないもので、これはこれで味がある。またこの時にPink Floydを主導していたのがシド・バレットで後に彼は精神病となりPink Floydを抜けてしまう。『The Dark Side of the Moon』は狂気に陥ったシド・バレットへの哀歌だったとも言われている。
>FocusはSylviaの一発屋に等しい
@そんな酷いこと言うことないじゃないか。
>Asia
@プログレファンのカラオケの十八番。非常にポップでプログレ的でない音楽をやるグループである。
>旅先に選ばれたのは箱根の大涌谷にあるリゾートホテルで
@モデルがある。本当に信じられないほど高い宿泊費を取られる。
>キャメルのスノウ・グースだった
@そのままCamelで『The Snow Goose』。ポール・ギャリコの小説を基礎においたアルバム。
>河津七滝ループ橋
@私も初心者マークの頃にいって大変な思いをした。最近だと漫画『ゆるキャン△』でもここを通るシーンがあった。
>「比喩じゃないよ。本当に、マジで、山崎は死んだんだ。事切れて、息を引き取り……」
@モンティ・パイソンの有名なスケッチ『死んだオウム』のパロディ。
>遺体を焼く際にモンティ・パイソンの『Always Look on the Bright Side of Life』が流された時には
@モンティ・パイソンのメンバーが描いたイエス・キリストの受難をパロディした映画のラストシーンで流れる楽曲。本当に最悪な流し方をするのだが、我が国における『上を向いて歩こう』並の知名度が英国ではあり、フォークランド紛争で沈みかけた船上で海兵たちがこれを歌っていたという伝説もある。
>「だってさ……自覚あるか。お前がもし仮にチャーリー・パーカーだったなら、あいつは……山崎はレッド・ロドニーだったかもしれないって。そうは思わないのか?」
@チャーリー・パーカーに憧れたトランペッターで、チャーリー・パーカーに影響を受けて麻薬をやったと言われている。
:::4th EPの元ネタ
>大半は有名なプログレ・バンドのそれで、EL&PやKing Crimson、Pink Floyd、Yesに加え、幾らかのメジャーバンド。例えばLed Zeppelin辺りは結構な数が揃っていて、しかしBeatlesやRolling Stones辺りは全くなく、かと思えばプログレの極北とも言えるTRACEだったり、東欧プログレのSOLARISがあり、入手が難しいenidも多数……。
@TRACEはオランダのプログレッシブ・ロックバンド。一向に値段が落ちないので私を困らせている。
>ドアーズのジム・モリスンだ! ドアーズのメインボーカルであり、カリスマ的存在であった彼もまた"二十七歳"の若さで死去……このドアーズのメンバーでドラマーのジョン・デンズモアが書いた自伝を読んだことがある。
@ジョン・デンズモア『ドアーズ』の記述。非常に面白い本なので探す価値は大いにある。
>この子と付き合うのは、ちょっと難しいかもしれないな……と。
@相手が一定以上子供だと罪悪感が先に来る。よくある話だが経験者にしか理解出来ないのがこの感覚である。
>enidのSix Pieces、持ってたんなら貸してくれれば良かったのに
@高いんだ、これが……。
>TRACEなんて、ずっとずっと探してたんだよ?
@高い。
>私が嫌いって言ったバンコとかPFMとか揃えてみちゃったり、何かSoft Machineとか持ってたりしてさ。
@そのまま私の趣味である。
>前が持ってなかったフラワーキングスの話とか、マグマとか……知ってた? アレハンドロ・ホドロフスキーが『DUNE』撮ろうとした時、マグマのクリスチャン・ヴァンデに声をかけてて
@詳細はドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』を視聴すると良い。
>野村……フルネームで書くと野村則克。
@実はこの作品の主要人物は皆野球選手で監督としても有名な野村克也氏とその周辺人物の名前を文字っており、これが伏線でもあったのだが、回収できずに終わっている。
>一九八〇年代に一世を風靡しながら世紀末を迎える前に燃え尽きた日本のとある有名グループでギターをやっていた父親を持つ、いわば音楽二世とも言うべきエリート的な経歴を持つ男
@よくある話で元ネタはない。直系の親がこのように半端な立場だとチャンスは人並みにしかないのに期待値だけが大きいので無駄に苦労をすることが多い。
>「レンタカーで練習したんだよ」
「うわ、性格」
@そこまでやることはない……とならないような人間性なのだろう。
>「私で童貞捨てた癖に」
@エロ漫画みたいな台詞を吐くなよ。
>「分かるよ、女だもん。それぐらい……」
@筆者は女の言い合いシーンを書くのが楽しくてたまらなかったらしい。
>ただBGMとして流すラフマニノフのピアノ協奏曲第二番の、ピアニストの技術披露ショーじみた演奏を耳に入れながら
@実際、ピアニストが名を売るとこれを演奏することを強いられるもので、マルタ・アルゲリッチがこれをひいていないのが非常に不思議なぐらいである。
>若い頃に感じた嫌な気持ちってさ、歳食うと忘れちゃうんだよ
@よくある話。
>ALC
@八十八ヶ所巡礼の歌詞で出てくる酒の表現。エーエルシーばかりかっ食らって……
>ようはこの部屋は、廃品で作られた図書館のようなものなんだな?
@西成や新宿辺りにはこういう本を沢山持っているホームレスが実際に居たりする。
>ちなみに、時期にもよるが一キロ百円ぐらいが相場だよ
@調べた当時のもの。
>電源コードをバラして銅線を売るというのもあって、これは空き缶より割がいい。一キロ辺り八百円ぐらい
@同様。
>その部屋は築五十年はゆうに越えているようなアパートの中にあり、キッチン及びトイレは共同、風呂はなく、部屋の構成も畳三畳に板の間一畳という、私がかつて住んでいたグラン・セノーテ以上の激狭物件となっていた。しかし、その狭い部屋の中には物と呼びうるものが殆どなく、丸い机が一つに万年床らしき布団一式が敷かれているのみだった。
@都内には意外にもこういう部屋が結構ある。大抵は生活保護の老人が余生を暮らすのに使っているようなのだが……。
:::5th EPの元ネタ
>高畠家は一軒家だ。駐車場にはトヨタ・ヴォクシーの白があり、小さな庭もある。
@小金持ちの家の構成で、長女を音大に行かせるだけの文化資本と経済資本を表現したかった。
>「激動がハリウッド映画じみてるな」
@セーブ・ザ・キャットメソッドはとくにハリウッド映画で運用されがち。なのでこの発言は若干メタである。
>「うわ、やだなこういうの。身内の恋愛事情なんて察するもんじゃない。変に想像してしまう」
@間接的に母の”そういう話”を聞かされて嫌な思いをした過去がある。
>でもね、何だかんだあの人手加減してるんだ。昔みゆきが荒れてた頃なんて、歌舞伎町の花園神社で男と壮絶な殴り合いを――
@意外に現代の男性はヒョロいので、骨格がしっかりしている女性が体重を入れて殴ればこれぐらいのことは可能であろう。
>タイトルは『豊饒の海』
@今さら説明することもないかもしれないが、三島由紀夫の遺作となった四部作の総称が『豊饒の海』である。
>それに対し『犬の心臓』は……これは、東欧のプログレッシブ・ロックバンドであるソラリスのイメージを借用し、同バンドの『火星年代記』に寄せた、少しズールじみた感じのする楽曲に仕上げようとした
@『火星年代記』は良いアルバムである。とくに火星語が出るところが良い。
>実際私も、U.K.は『Danger Money』で終わって、その後にアラン・ホールズワースやテリー・ボジオが入ろうが別物であり評価に値しない――と考えていた時期も長かった
@これは仕方ないだろう。実際、この二枚以後はライヴ盤しかないのだから。
>「いやあ、やっぱりギターっていいですね」
@実は伊勢は過去にバンドでメインボーカル兼ギターをやっていたのだが、性関係でこじれて現在に至る……という裏設定があるのだが、一切表に出ないまま終わってしまった。
>映されていたのは原一男監督作品『ゆきゆきて、神軍』で、そのセレクトの悪辣さが如何にも土地柄を――現地近くにある我が国最高峰とも称される私立大学生徒らのナンセンス極まりない行動の数々を脳裏に浮かべながら――感じさせるもの
@お分かりかもしれないが、モデルは『早稲田松竹』であり、つまりこの私立大学とは……。映画『ゆきゆきて、神軍』を題材に使う前にみようと思っていたが、結局これもみることが出来ていない。
>Camelが『Nude』という名前のアルバムを出した
@何で出したんだろうねアレ。Camelが何か情緒的で感じやすい人々の集まりなのは分かるが、太平洋に取り残された日本兵の話をなぜ……。
>『ヤマザキ、天皇を撃て!』
@読んでおきたいんですけどね。
>King Crimsonの『In The Court Of The Crimson King』
@邦題は『クリムゾン・キングの宮殿』である。ここで間違えて『キング・クリムゾンの宮殿』と言ったらプログレ者は性格が悪いので一生その話をしてくるぞ。
>仮にFOCUSのSylviaが好きだったとしても、Sylviaだけが好き……などとは決して言えないのがプログレ者の世界
@そりゃ滅びるよな。
>彼は如何にも老人風で動きが鈍く、楽曲もアルバム単位ではなく、それぞれのアルバムに収録された楽曲を抜き出して好き勝手に演奏する。そして客もそれをじっくりと聴いている。この何かちぐはぐで確固たるビジョンを持たない演奏スタイルは、それこそenidそのもののように思え
@ライブ映像はライブというより殆ど老人介護だった。しかしそれでも満員なのだから、英国の音楽の世界観というのは多種多様である。
>あの時にシンバルを投げつけたお客さんは常連さんで、今もこの店に通っています。
@これは創作だが、ありそうな話ではある。
>私は悪い客に当たると一度お手洗いに行くという名目で席を立ち、休憩室で酒を呷るようになった。幸いなことに、電話口からはアルコールの臭いというのは通らない。バレることもない。
@これはコールセンターに勤務していた時の先輩がマジでやっていた。コールセンター窓口は正気でできる仕事ではない。
>私たちの無名の時間を"黄金に変える"ために、
@Led Zeppelin『Stairway to Heaven』の歌詞が元ネタ。
:::6th EPの元ネタ
とくになし。
:::反省会という名の未回収に終わった伏線の話
……本当はこの小説のタイトルは『無明』と言い、無名と仏教の無明を重ねて「名を残せないアーティストの哀歌」にするつもりだった。そのため、初期構想案では新宿レフトでのライブを終えた主人公はメンバーらと東京ヤクルトスワローズの試合を神宮球場で観戦し、水分を取らずに唐揚げとビールをやった主人公が脳出血で倒れ、救急隊員の担架に載せられる途上で武道館の方角に手を伸ばしながら
「これでいいんだ」
と言って終わる……はずだったのだが、セーブ・ザ・キャットメソッドがこれを邪魔した。つまり
「バッドエンドは好ましくない」
というハリウッド映画の不文律にやられてしまったのである。
酒を抜いた後に再度酒を入れる描写をしたりしていたのも、脳出血で倒れる伏線だったのだが、後半になってこのオチをねじ込むのが困難になってしまい、最後には上野駅のホームで別れて終わりと相成った。
というわけで非常に反省材料が多かったこの作品なのだが、一種の制約にもなったとは言え、作品を継続的に更新して完成させるということはできたので、個人的にはそれなりに満足している。
三島由紀夫も『盗賊』のようにパっとしない作品で解説を書いたように、私にとっては『無名』がそれだったのだ、と言い訳して今回は終わりにしたいと思う。
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