キテレツアクション映画の世界

@@@キテレツアクションとは何か?

 読者諸兄は映画を観ているだろうか。

私はよく観る。サークルメンバーもよく映画を観る。映画は観れば観るほど良いと言うのがよく知られている。まあ、この記事の読者もそんな異常な枚数を観たりするようなことはしないにせよ、映画を一切観ない生活はしていないと思う。現代人は多かれ少なかれトレンディな映画を観ることがあるだろう。

 しかし、この記事で紹介する映画はトレンディさとは無縁。寧ろ古い。白黒ではないと言うだけで時代性を抱えたチープな中身であることが多い。

アクション映画というジャンルがある。

最近はアクション映画もスタイリッシュ路線であり、細身の男が出てくる場合がまあまあ多く、古典的な筋肉マッチョマンが出てくるアクション映画は減りつつある。第一、シルベスター・スタローンもアーノルド・シュワルツェネッガーも歳だ。三島由紀夫じゃないが、無為に鍛えられた筋肉は失笑しか生まない。

そういった時代風潮は置いといて……とは言え、筋肉アクションが嫌われているわけではない。映画オタクであれば一度は『コマンドー』を観ているだろうし、別に映画オタクじゃなくても『ターミネーターⅡ』は観たことがあるだろう。でなければサムズアップで溶鉱炉に沈んでいくシーンは… というミームは生まれていないだろう。

 そう、多分こういう映画を始めたのは『ターミネーター』であり『ターミネーターⅡ』なんだと思う。

私が好きな映画ジャンルに”キテレツアクション映画”というものがある。誰もそんな呼び方はしていない。そもそもカテゴライズされているかも怪しいので私が勝手に命名している。

キテレツアクション映画の定義は以下の要素である。

:アクションスターがメインに採用されている

:無駄に小難しい設定が盛り込まれている(大抵SF的なもの)

:言うほどウケなかった

この三つだ!

端的に言えばこうした映画は放送料が安かったのか、在りし日の木曜洋画劇場で定期的に垂れ流しにされていたため、インターネットが今ほど盛り上がりを見せていなかった時代に木曜洋画劇場を観て夜ふかしをしたクソガキの末路が私なのだが、恐らくそういう子供が沢山居たから『コマンドー』はミームになったのだろう。他でもない『コマンドー』がこの木曜洋画劇場の常連だったのだが、何故かこれが癖になってしまう子供が沢山居たから皆この映画の話をするようになってしまった。

先に『ターミネーター』の話題を出したが、ようは筋肉マッチョマンを出したSF映画がウケたのでそういうものを作って二匹目のドジョウを掬おうとして失敗した映画達なのだが、どうもこのテの映画は設定だけはよく出来ている傾向にあり、私個人で言えば『コマンドー』よりよほど見どころがあると思うのだが、あまりそういう語られ方をしない。ので、ここでこれらの映画の話をしようと思う。



@@@『デモリションマン』

 二大キテレツアクション映画があるとすれば、それは『デモリションマン』と『ラスト・アクション・ヒーロー』の二つになる。どちらも『ターミネーター2』が公開された1991年の二年後。私が生まれた年である1993年に公開されており、前者はシルベスター・スタローン、後者はアーノルド・シュワルツェネッガーという典型的なアクションスターが主演に据えられており、やはり小難しい設定が付随しており、舞台装置もよく作り込まれており、そして――あんまり売れなかった。

とは言え、傑作カルト映画の呼び声高い『太陽を盗んだ男』だって予算を回収出来ずに会社が傾いたことを考えれば、映画の価値と当時のセールはあまり比例するものではない。もっとも『太陽を盗んだ男』は皆名作として語っていることが多いものの、『デモリションマン』も『ラスト・アクション・ヒーロー』も”知る人ぞ知る名作”の範囲で収まっている。

映画『デモリションマン』はシルベスター・スタローンのSF映画であり、設定で言うとオルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』に非常に近い……うん、そう。ディストピア小説の金字塔として『1984年』と並べて語られることが多い『すばらしい新世界』をオマージュした映画である。

 おおまかなあらすじは以下の通りである。

1996年のなんかマッドマックス一歩寸前ぐらいまで荒廃しているロサンゼルスの刑事である主人公・スパルタン(なんつー分かりやすい名前だ!)は長年追いかけていた黒人犯罪者サイモン・フェニックスを追い詰めるが、この黒人は本当に悪辣で、人質を全員ぶっ殺しておきながら人質死亡の罪過をスパルタンへ押し付け、スパルタンは冷凍刑に処されてしまう……。

それから36年の時間が経過し、清浄化され無菌室のような社会が実現された近未来の都市サン・アンゼルスでスパルタン共々冷凍刑に処されていたはずのサイモン・フェニックスが蘇り、軟弱になった未来人相手に無双するので、仕方なくスパルタンもまた解凍され、未来世界でスパルタンは再度サイモン・フェニックスを追い詰めることに……

 ところで、これがプロローグで開幕なんか十分ぐらいの展開なのである。

話を短時間に詰め込むな! 混乱するだろ!?

本当に細かなSF設定が面白く、物理的な接触が感染症予防の観点から忌避されており、直接的な性行為も忌避され、ラジオからは子供向け音楽ばかりが流され、飲食チェーンはタコベル(日本語版ではピザ・ハット)に統一され、アーノルド・シュワルツェネッガーは米国大統領になっている。自動車等の舞台装置もしっかりSF風に作り込まれている。……

 なんで売れなかったの?

多分アメリカ人には難しすぎたんじゃないかな。本当に細かいところから大きなところまでよく出来ていて、アクションシーンも見せ場がしっかりある映画だったのだが、元ネタがディストピア小説であんまりピンと来なかったのではないか。

現代ではもはや事実上実行不可能であろう、黒人が徹頭徹尾悪い奴をやっている映画でもあり……ああ、もしかしてそれが原因なのかな?



@@@『ラスト・アクション・ヒーロー』

 『デモリションマン』はディストピアベースの本格派SF筋肉アクションというキテレツアクションだったわけだが、ではこちらはどのような作品なのか?

さて……驚くべきことに『ラスト・アクション・ヒーロー』は、メタフィクションである。主演はアーノルド・シュワルツェネッガー……え、なんて?

「シュワちゃん主演でメタフィクション映画!?」

そうなんです。メタフィクションなんですよ。

 アクション映画が好き過ぎて学校サボって映画館に入り浸るクソガキもとい主人公のダニーは映画館の技師から”魔法のチケット”を受け取る。この魔法のチケットでダニーはアーノルド・シュワルツェネッガー主演映画『ジャック・スレイター』シリーズの世界に入り込んでしまう!

と書くと純粋娯楽の匂いを感じるが、実際は『アマデウス』でアントニオ・サリエリ役を演じたF・マーリー・エイブラハムが出てきた途端にダニークソガキ

「こいつはモーツァルトを殺したんだ!」

と最悪の見解を示すような映画である。このガキ、『アマデウス』とか観てるの生意気すぎやしないか?

それ以外にもメタに過ぎる話が出てくるし、アーノルド・シュワルツェネッガー本人が『ジャック・スレイター』の主人公と出会うのはメタフィクションものとしてとてもよく出来た表現だと感じる。

やがて映画の登場人物側が現実世界の存在に気付き始め、現実世界と映画世界を行ったり来たりし始めるとか、本当によくでき……あかんわ、これアクション映画としては難しすぎる!

 はい、案の定あんまり売れませんでした。……面白いと思うんだけどなあ。



@@@『シックス・デイ』

 この映画に限らないが、アーノルド・シュワルツェネッガーが一定期間変な映画に出ていた時期があり、代表的な怪作に『ジュニア』があり、これまた木曜洋画劇場の常連であった『ジングル・オール・ザ・ウェイ』があるが、このへんの作品はアーノルド・シュワルツェネッガーがアクションものに出すぎて身体を壊した時期に重なる。『ジュニア』なんて本当に笑える酷い映画で『ジングル・オール・ザ・ウェイ』も”外してる”感が否めないが、この時期の中でも今回紹介するこの『シックス・デイ』はに片足を突っ込んでいる。

 シュワちゃんがマイホームパパなのだが、未来社会で人造人間を作る技術があるにも関わらず法的に禁止されていて、人造人間製造禁止法がから取られたに由来する法律「6dシックス・デイ法」という……まあその、アメリカのバイブルベルトの息遣いを強く感じる世界観になっており、アーノルド・シュワルツェネッガーはとある理由で死亡したとされ、ある会社が勝手にシュワちゃんを増やし(そんなことしても喜ぶのはアクション映画ファンぐらいだろう)てしまい、世界にアーノルド・シュワルツェネッガーが二人居る状態になるところから話が始まる。

 何でこんなよう分からんアクション映画を作ったんだ?

 この人造人間を勝手に製造してるマイケル・ドラッカーという経営者がこれまたスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツが禁断の恋をした結果生まれた不義の子みたいな見た目をしており、脚本の精神状態が若干心配になる。というか絶対共和党支持者だろ?

第一、この胡散臭い経営者の名前が「ドラッカー」なのは滅茶苦茶面白い。悪意しかない。SF映画の癖になんかイチイチ、その……んだよ! 話が!

 売れなかった。

木曜洋画劇場の常連である。加えてアーノルドの激しいアクションもなくて、全編通して人造人間の気持ち悪さが先にくる悪意の塊で全然スッキリした話ではないんだが、アメリカの政治と宗教をある程度知っているととても面白い。名前がドラッカーの見た目はスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの不義の子が人造人間を密造していて、最後は……。



@@@『ジャッジ・ドレッド』

 核戦争後の世界に生まれた都市メガシティで、警察と裁判官と弁護士を合体させたみたいな「ジャッジ」なる連中がおり、シルベスター・スタローン演じる主人公ジャッジ・ドレッドは色々あって覚えのない殺人罪を適用されメガシティを追い出される……みたいなところから話が始まる。ポスト・アポカリプスでディストピアですよ皆さん。興奮してください。オタクくんとSF者の好物ですよ?

 まあ売れなかった作品で、続編匂わせもしたのに売れなかったのでシルベスター・スタローンが出たがらず、2012年には主演を変えて再度『ジャッジ・ドレッド』を作った。ベースはイギリスのコミックらしいんだが、イギリス人って本当にディストピア好きだよね? 『すばらしい新世界』のオルダス・ハクスリーも『1984年』のジョージ・オーウェルもイギリス人だし、同じようにディストピアが出てくる『V・フォー・ヴェンデッタ』もイギリスのコミック。あいつら本当ディストピアばっか作りやがる!

 でもアメリカ人はこれを、なんか、また……共和党臭い作品にしてしまった。

 メガシティの外は無法地帯で彼らはに明け暮れており、恩師を追いかけた先で主人公のドレッドは雨に濡れるを見つめながら涙を流し……いい加減にしろ!

無法地帯ではアンチ・キリスト的な行いが横行していて、そこで正義の主人公が自由の女神像を見るとか、なんかお前らのんだよ!

最後も結局自由の女神像の中で戦闘するしさあ!

 とは言え、元がディストピア大好きイギリス人が考えた世界観なので良く出来ていて、メガシティの閉塞的な雰囲気とメガシティ外の砂漠の対比的な構図が美しく、雨に濡れる自由の女神像は確かに洗ってないナショナリズムそのものなんだが、それ故に美しい。見どころは多いんだが……共和党っぽさを何とかして欲しいんだよな。『シックス・デイ』ともども。



@@@『ザ・ワン』

 もしあなたがアクションスターだったとして、企画書の時点では滅茶苦茶面白そうなSF映画二つのどちらかに出演しなければならないとして、自分が選ばなかった方が世紀の大ヒット作になり、自分が選んだ方がすっ転んだカルト的なアクション映画になったらどう思う?

 これは『マトリックス』を蹴って『ザ・ワン』に出演したジェット・リーのことで、私は実は『マトリックス』を今更真面目に観る気にもなれず、専ら『ザ・ワン』の方を観てしまうのだが、観る度に思う。……

「ジェット・リーはなんで『マトリックス』を蹴ってに出演しちゃったの?」

である。

 ようは並行世界もので、この並行世界を管理する組織があって、並行世界に居る自分を殺すと個体の能力が強まるので他の世界の自分をぬっ殺す決意をしたジェット・リーと、これに気付いて自分の生活を守る決意をしたジェット・リーによるアクションものである。。『ラスト・アクション・ヒーロー』と言い『シックス・デイ』と言い『ザ・ワン』と言い、映画関係者がアクションスターを増やしたいという願望を持っていたような気すらしてくるな!

後半のジェット・リー対ジェット・リーのアクションシーンは見ものだし、中身はなかなか面白いのだが、やっぱり『マトリックス』に出なかったのは痛かったと思うんだよね。だって『ザ・ワン』の主演なんて何の利益もない肩書持ってても、ねえ……?



@@@結び

 このへんの映画は別に人気があるわけじゃない。第一、人気なら続編が出てる作りだがそうではない。ところがやはり私のような木曜洋画劇場が懐かしい映画オタクが借りていくのかレンタル屋には置いてあることが多い。

個人的には無名時代のシルベスター・スタローンが細いドイツ人にボコられる、後のシルベスター・スタローンのキャリアを考えればあり得ないようなシーンが出てくるカルト映画の金字塔である『デス・レース2000年』や、木曜洋画劇場に現れて一部映画オタクの脳裏に焼き付いたTV放映SF映画『タイム・シーカー』辺りも取り上げたかったのだが、キテレツアクション映画の法則三つには当てはまらないので除外した。木曜洋画劇場が好きだったオタクが多いのかディープな映画オタクは知っていることが多いのだが、イマイチ知名度がないので、ここは一つこの定義を広めて、皆で視聴を推進していきたい気持ちがある。

キテレツアクション映画は――いいぞ!

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