第22話ドラゴンカレー

 闘志を燃やすライバル達。

 Bクラス。

 緑髪で眼鏡を掛けた利発な男。

 緑目は冷徹。このクラスの委員長。

 アシュリー子爵家アシュリー=ミドロク。

 種族ヒューマン。

 入学試験ランキング31位。


「優遇扱いを受けるAクラス共……潰してやる」


 魔術蔵書室。

 上から下まで、右から左までずらっと棚に膨大に並ぶ本。

 魔術、歴史、あらゆる分野、膨大な文献、書物が管理されている。

 紫髪のおさげで、眼鏡を掛けた少女。

 幼さの残る可愛いらしい顔立ちをしているが、Cクラスの委員長。

 レーク商家レーク=ユウラ。

 種族猫族。入学試験ランキング40位。

 本を読み終わったのか、閉じて、置く。

 すると、蔵書室の入口から暗い感じの少女が現れる。

 薄い青髪ロング、目の下の隈が印象的な美少女。

 男爵家ステルヴィア=アリア

 種族女神族。入学試験ランキング42位

 泣きそうな表情で、話し掛ける。


「ユウラちゃん。 私代表に選ばれちゃった」


 ユウラは眼鏡を外し、首を傾げる。


「なぜ泣いているんでやんす?」


「そんな代表とか、みんなのためにとか無理だよ」


「いけるよ。一緒に頑張ろう」


「うん……」


        *

 補習をさせられた夕方

 フレスと一緒に帰ろうと教室に戻ると、誰かの怒鳴り声がした。

 

「ねぇ? クロテア! あんた、何で退学にならないわけ?」


「そうよ! 王族に怪我させたじゃない!」


「……」


「ちょっと、何とか言いなさいよ!」


 数人の女子生徒がクロテア一人を囲んで揉めていた。

 クロテアに付き従っていたはずのチャラついた茶髪女ラナとショートの銀髪女サリナが中心になって、クロテアを苛めている模様。

 全く……面倒な奴らだ。

 俺が教室へ入ると、女子生徒達はガッと睨み、舌打ちをして立ち去った。

 クロテアは服装が少し乱れているものの、目を逸らし、平然を装いながらこちらにやってくる。


「見苦しいところを見せたわね」


「何かと大変だな……困ったことがあったら俺に言え」


「別に私は大丈夫よ……言っておくけど、私はこう見えて強いのよ」


「そうか……なら、大丈夫か。じゃあ、行くわ」


「あっ……待って」


 クロテアは一瞬思い詰めた表情をしたが、冷静な表情で、首を振った。


「……何でもないわ」

 

「そうか……」

    

        *

 とある休日の寮。

 自室からリビングルームに行くと、イルガがぐつぐつ煮え立った大鍋を棒でかき混ぜていた。

 はちまきをして、大量の汗が額に吹き出している。


「何やってるんですか先生?」


「おっお前ら。これか? 今からドラゴンカレーを作ろうと思ってな、ドラゴンの肉を煮込んでる」


「ドラゴンカレー!?」


「今朝調達したばかりの一級品の認定を受けたレッドドラゴンの肉だぞ。これは……うまいぞ」


「けど、鍋大き過ぎませんか……」


「何してんだ! 突っ立ってないで、キッチンで、野菜やら何やら切るんだよ! ほら! 動け!」


 いきなり……。

 そして、唐突のドラゴンカレー作りが始まった。

 俺には【調理人】スキルは無いので、料理は苦手だ。

 覚えればいいだけどのことだが。

 ガロロ、俺はゴールドポテト(ジャガイモ)と赤根(ニンジン)らを切る担当。

 どれも、一級品の認定を受けた野菜ばかりだ。

 これを調達したと云ったが、あの先生が。

 イルガ、フレスはその具材を炒めたり、煮込みの担当に分かれた。 

 すると、ドラゴンカレー作り開始時から、大惨事が起こる。

 フレスがフライパンで野菜を炒めていると、炎の柱を轟々と灯らせる。

 なかなかやるじゃないか……。

 だが、気づくとフレスはおどおどした様子で床に這いつくばっていた。


「何してるんだ!!」


「何かこうなっちゃった……えへへ」


「はやく炎を消せ」


 フレスは【見習い料理人】スキルはあるようだが、Dランク、レベル1という低さだ。

 目を離した隙に隣から炎がぼわっと上がる。 

 って、今度はなんだ。

 イルガはフランベで炎を出しながら、フライパンで肉を達人の如き腕前で炒める。


【上級料理長】

 Aランク 

 レベル6

 威力

   調理力+500

創造力+500

 効能 多彩な料理を作れる腕前。 


「凄い……」


 それから、俺はピーラーでゴールドポテトの皮を剥き、包丁で一口サイズの大きさにする。 

 そして、ドラゴンカレーは完成した。

 あのカレーのスパイスが効いた香辛料の匂いがしてくる。

 お腹の中がぐぅーと鳴る。

 それだけではなく、高級ドラゴンの肉の旨味の匂いが後からやってくる。


「腹減った」


 ガロロは何だこの旨そうな匂いはみたいな顔をして、そして一目散に匂いのする方向へ。

 犬のように鼻息を荒くしながら、フレスを押しのけ、グツグツに煮込んだカレーの鍋にお玉を入れ、味見した。


「ガロロ君、ちょっと退けて!」


「うまいな」


「椅子に座って、運ぶから」


「ドラゴンの肉はたっぷり多めな!」


 ガロロは棚から自分だけのスプーンを取り出し、長テーブルへ歩いていった。

 フレスは邪魔者はいなくなったとばかりに溜息をつきながら、カレーの仕上げに取りかかる。


「できたか?」


 フレスはカレーの少量が入ったスプーンを俺に差し出す。


「味見してみて?」


「分かった」


 スプーンを一口、濃厚なカレーの味わい、ドラゴンの肉と新鮮な野菜の旨味が凝縮されている。


「どう?」

「おいしい」

「それだけ?」

「そうだけど」

「まあ良いけど」


 首を傾げながらもフレスはカレーを良くかき混ぜる。


「隠し味は入れる? アップル、パイの実、ハチミツ、レモンスライスとかさ」

 

「もうこれで良いんじゃないか」


「そう?」


 そして、ようやく完成した。


「さあ食べようか?」


 そして、カレーを取り分け、皆、長テーブルへ座る。


「皆さんご苦労様! さあ食べよう! いただきます!」


「いただきます!」


 手を合わせ、完成したドラゴンカレーを食す。

 やはり、自ら作るカレーは美味い。何よりもこのドラゴンの肉が最高だ。

 ドラゴン肉は外はこんがりのサイコロ状で、ルーによってしっかりと染み込み、噛むと肉汁が口いっぱいに広がり、濃厚に凝縮された旨味が潤し、更に歯応えのある弾力で跳ね返ると、二重にも、三十重の旨味になって病みつきになってしまう程だ。

 そのスパイシーなルーが辛さを際立たせ、新鮮な野菜がアクセントとなり、決して飽きさせない美味しさだ。

 各々、黙々と食べる。どうやら皆も見た目と味には満足しているようだ。


「旨いぞ! 旨いぞ!! 最高だ! ドラゴンカレー!」


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