第8話称賛
皆の反応を見る限り、大変なことになりそうだ。
はぁ……それにしても、疲れた。
安堵したのも束の間のその時、破れた依頼書から警音と煙が発生する。
『重大な違反行為を認識しました。直ちに、自爆魔術式が発動します』
どういうことだ……自爆魔術式?
なぜだ?
重大な違反行為に該当する複製やコピーはしていない。
「言い忘れてたけど、この緊急依頼書は他の依頼書と違うの。顔認証魔術式が組み込まれ、ギルドマスター、ギルドマスター以外の承認者が閲覧しただけで、数分後には自爆魔術式が発動する仕組みなの……」
「……なんだと……やっとここまできたっていうのに」
【魔術式破壊】レベルEX100
【魔術式破壊】レベルEX100
【魔術式破壊】レベルEX100
……
でも、やるしかないんだ。
別に、俺はギルドなんか入らなくていい、ただこのレミアスという一人の若い受付嬢の夢の続きを絶やしたくないんだ。
「待ちなさいゼルフォード君……君がやろうとしていることはだいたい察しがつく……もう、これ以上は止めなさい。後は大人である我に任せなさい……若くて、優秀な、大事な命こんなところで無駄に捨てる必要はない」
「大丈夫ですよ……ソルト辺境伯……俺は小さな頃から幾度も殺されかけてきた、こんなところで死ぬような自分ではありません……たとえ、死んだら死んだで、秘めたる願いが果たせないのはこの上なく悔しいですが、それも良いとは思っているんです……やっと天国にいる母さんに会えるから」
「……」
俺は破れた依頼書に手を当て、すぐさま術式を破壊する。
だが、施された魔術式は次々に六光芒陣を生じさせ、けたたましい魔法を発動する。
何だこの数は……やはり、一人で対応できる量を超えている。
光、赤、緑色の閃光が何百個と続き、その度に魔術式を破壊していく。
俺は魔力を通る血管が急激に膨張収縮を繰り返し、疲労、眠気が襲いかかる、遂には魔術式破壊の焦点がずれ、破壊しきれていない術式が炎を曝け出す。
はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……させるか……。
【魔力圧縮】レベルEX100
炎は小さくなっていき、自爆魔術式は止まった。
………………なんとか収まった。
もう、驚愕する人達に今披露した魔術過程を答える余裕はない。
やがて、俺はレミアスに肩を貸して貰って、苦笑いで、皆に謝っていた。
「ご迷惑をお掛けてして本当にすいません」
「まあ、若い内は失敗はあります」
「ゼルフォード様って完璧そうに見えて、意外にうっかりさんなところもあるんですよね」
ソルト辺境伯とレミアスは優しい笑顔を向けて、大事にさせないようにそう言ってくれたが、絡んできた酔っ払い盗賊風のおっさんはカンカンに怒っていた。
「小僧! 殺す気かぁ? ギルドが燃えたらどうすんだよ!」
「す、すいません」
「まあまあ、止しなさいボスキー君」
「あぁ! こういう調子に乗った小僧は一辺叱ってやらないと駄目なんだ」
「我に責任があるんですよ。こんなことになって大人として、何も出来なかったのですから」
これは少し反省しないとな。
でも、新しい依頼書は無事完成した。
なんか、視界が揺れて、依頼書が霞んで見える、脚もふらつく。
眠気か……そりゃ今回は高度な魔術と脳や体に負荷がかかり、いつもより眠気が酷い。
「ゼ、ゼルフォード様?」
突如、俺はバランスを崩し、レミアスに支えられた。
やや膨らみのある胸にムニュと押し付けられた。
やわらかくて……いい匂いが……。
「ゼ、ゼルフォード様!? ゼルフォード様!」
*
そして、俺はギルドの白いベットで俯せになっていた。
なんだこの匂い……。
癖になる匂い、生暖かい、もぞもぞと動き、これは白くて、柔らかい女の子の太股だ。
幸せだ……このままずっと寝ていたい。
そして、薄くて、白いパンツにぐっぐっと何度も顔を押さえつけられる。
幸せだけど……く……くるしい。
「ぅぅぅぅぅ……息が……で……き……な……い」
「あっ、ご、ごめんなさい、ゼルフォード様」
くるっと顔を真上に向けると青髪の少女が紅の両眼を潤んとし、頬を赤らめ、透けた白桃の下着姿を身につけていた。
「レ……レミアス何をしてるんだ……何だその格好は?」
「ほ、ほんとに申し訳ありません。つい、ゼルフォード様の寝顔に魅れていたら、ベットの上でまで這ってしまって、気づいたらお召し物まで脱いでしまって、淫らな行為までしてしまいました。お許しください! こんな私を嫌いになりませんよね? 罰ならいくらでも受けますので、どうかお許しください!」
「もう分かったよ……だから、そんな悲しい顔をするな」
「ゼルフォード様……こんな淫らな私を許してくれるのですね……何とお優しい御方なのですか」
優しい笑みをして、俺の顔や髪を撫で、抱きしめた。
また、苦しい……。
そして、落ち着いた頃合い、レミアスとの幸せな一時が続く。
「ふふふ……ゼルフォード様……普段はとーってもかっこ良いのに……寝顔はかわいい」
「そうか?」
「はい! かわいくて仕方がないです。そうだ、お頭、お疲れですよね? 癒やすためにチョコのお菓子を用意したんです。実は私が作ったのですけど、お味に合うかどうか……」
「レミアスが作ってくれたのか……ありがとう」
「ゼルフォード様……その……あの……お気に召さなかったら捨ててもかまいませんから……」
「いや、食べさせてもらうよ……でも、身体が動かないんだった」
「なら! 私が食べさせてあげますね?」
かわいくて、料理ができるならレミアスは良いお嫁さんになりそうだ。
すると、皿の上には湯気が立つチョコレート風のミルフィーユのようなお菓子が乗せられていた。
何のお菓子か調べようとしたが、鑑定眼がなかなか上手く発動しない。
まだ、疲れが溜まっているのか。
イチゴのドライフルーツーのスライスが綺麗に飾り付けられ、サクッとチョコのパイの皮にナイフを落とし込むと、黄金色とチョコ色が織り成すパイの層が露わになる。
丁寧に積み上げられ、焼き加減も最高、何よりも作ったものの気持ちが現れるお菓子だ。
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