第30話それぞれの戦い
俺とフレスは魔術闘技場から出て、昼食にしようと、廊下へ歩いて行く。
その出会い頭、二人の偉大なる老人に出会った。
一人はこのエルグランド魔術第一学院の校長の毛むくじゃらサンタクロースみたいな白髪の老人。サンクロス=アルマ。
もう一方は、金髪、彫りの深い顔立ちと金色の伸びた顎髭。
鋭い金色の眼孔第十八代デイトナ王国デイトナ王。十魔王家デイトナ王家の当主。
まさかの人達に会ってしまった。
俺とフレスは頭を下げ、道を開ける。
「勝利おめでとう見事な魔術だったよ。トーマス=ゼルフォード君」
「はっ……もったいなきお言葉ありがとうこざいます」
まさか、デイトナ王自らが俺の技を褒めてくれるとはこれ程名誉なことはない。
「それにしても、君はこの魔術学院で油を売っている場合かね。あぁ……いやはや、学院やアルマ校長を否定している訳ではないですよ」
「構わんよ」
「トーマス=ゼルフォード君、いや、ブリュンヒーゲルス=ゼルス君。君はいち早くここを卒業し、ダンジョンに潜り、異世界神を討伐しなさい。ここで怠けてる場合ではない、尊い若い時間を無駄にするな」
この人……俺の正体が分かっていたのか。
「はっ、精進致します」
「うむ。では、失礼するよ」
二人の要人が去った後、俺達はほっと、胸を撫で下ろした。
すると、廊下の真っ直ぐの方向の奥の方でで言い争う声がする。
「今度はまたなんだ?」
「喧嘩……」
奥へと進んで行くと、だんだんと会話が鮮明に聞こえてくる。
「許せねぇ」
「あぁ? 知らねーよ」
「アズレラ、おめぇが妨害したんだろ?」
「だったら? フハハハハハハハ。弱い者は堕ちゆく、それが現実だ」
「なんだと、このやろぅ!」
「ガロロ? そろそろ、決着つけようか。お前が負けたら、魔術師になるのやめろ!」
「ああ……いいぜ。二言はーね」
ガロロ? 何故ここに?
「ガロロ……フハハハハハ……てめぇ本気でオレ様に勝てると思ってんのか? 一度足りとも勝ったことねぇてめえが」
「無駄口はいらねぇんだよアズレラ……戦えよこの野郎」
あの金髪の少年はカルヴァン伯爵家のアズレラ。左頬には傷が特徴。
対して腹部分に包帯を巻き、杖で身体を支えているガロロ。
ガロロは紅の魔甲を出現させたが、即時魔力切れで消えてしまう。
アズレラは狂ったように笑い出し、髪の毛をかきむしる。
「フハハハハハハハハハ。まさか、そんな粗末な防具で、オレ様とやり合うのか……無様だな! ガロロ!!」
「逃げんのか?」
アズレラは土系統の魔力を発動させ、数多の大木が出現し、天井をぶち破り、晴天の空が露わにする。
「なら、お望み通り、戦ってやるよ。てめぇの父親のように敗北を味わせてやる。ん? 誰だ? そこにいるのは?」
さすが、アズレラだ。
俺の【隠蔽】スキルを見破る程の、【魔力探知】レベル8【超感覚】レベル8を備えている。
侮れない。
「フハハハハハ。お仲間も参上って訳か? いいぞ! どんな人数でもかかってこい」
「すっこんでろゼル!! これは俺の勝負
だ!!」
「……相手の強さを分かってるのか?」
「お前にばかり助けられる訳には行かねーんだ。たとえな相手が強い奴であろうとなかろうと逃げ出す訳には行かねーんだよ。男と男の、1対1の勝負を邪魔するな」
「……」
圧倒的な戦力差なのにも関わらず、負けると分かっていて、なぜ立ち向かう。
「フハハハハハハ。まずは、ガロロてめぇからだぁぁぁ!!」
【身体強化 】レベル9
【一撃強化】レベル9
【身体超強化】MAX
瞬間、アズレラは右拳を大きく振り上げ、ガロロの胴体へ直撃しようとする。
右拳には青色の魔力がギラギラと煌めき、物凄い圧力が灯る。
そして、雷のような衝撃が辺りに響き渡り、爆発による黒煙が舞う。
煙が消えた頃にはいつの間にか、拳と腕が対峙していた。
どちらも青き魔力を纏っている。
どちらも無属性の魔力。
拳は荒々しい質の魔力。
腕は静音を立てながらの綺麗な魔力。
だが、受け止めたのはガロロではない。
アズレラの眉間に皺が寄り、大きな黄金の両眼が細まり、口が震える。
「てめぇ……何で、オレ様の拳を受け止めてる?」
「今、見た通りだ」
驚愕したのは、アズレラだけではない。
ガロロやフレスもだ。
「……てめぇ強いな」
「試してみるか?」
「対峙していて本能で分かる。てめぇが如何に強いか……オレ様と対等だと感じる」
「それは貶しているのか?」
「フハハハハハ。面白れぇ。さあ、今すぐ戦おう」
「分かった」
「ゼル……俺の勝負だと言っただろうがぁぁぁ!」
「勝負なんて危ないよっ……」
「悪いが、カバーニではこいつには勝てない。フレスを安全なところに」
「くそっっ……」
「……ゼルフォード君……」
ガロロは自分ではアズレラに勝てないことを分かりきっていたのか、渋々納得してフレスと共に後方に待避した。
本来ならガロロがアズレラを倒すために、ここに来たはず。
それを俺が出てきてしまったせいで、彼の勇姿の決断を蔑ろにしてしまった。
すまない……。
だが、だからこそ、俺は負ける訳にはいかない。
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