第41話退学
その時、マモノスに異変が起こった。
徐々にマモノスの攻撃が外れていき、あらちこちらと乱雑に振り回していく。
何度となく叩きつけても当たらない。
闇雲に、足踏みをしたり、憤怒の蒸気を上げる。
俺はこの機にHPを回復するため小回復ポーションをボックスから取り出し、飲んだ。
HP10/400↓MP9/300→
→
HP100/400↑MP9/300→
MP50/200↓ 精神力10/200↓
状態 精神不安定大
どうやらマモノスの精神不安定は【ダンジョン異常気象】によるところが大きい。
ふぅ……助かった……と言うべきか……。
だが、マモノスはその俺の油断した笑みに怒りの両眼と咆哮をもたらす。
「「 ピィァァァァァァンンンンン!!!! 」」
頭痛を伴う耳鳴り、凍えるような恐怖の冷気が漂い、鳥肌が全身に立ち震える。
凄まじい恐怖と冷気だ。
その殺気という風圧で仮面と二翼は一瞬で砕け散り、破片となって飛散する。
意識……意識が吹っ飛びそうだ……。
HP10/400↓ MP5/300↓
【恐怖の凍土】MAX
ランク S
威力 威嚇+1000
効能 凍える殺気で対象物の動きを封じる。
さらに敵の精神に影響を及ぼす程の恐怖を与え、戦意喪失させる。
状況は更に悪化した。
俺は一人逃げる時間を失った、直にここで命を奪われることは想像がつく。
マモノスを甘く見過ぎた、ダンジョンを甘く見過ぎた。
もう……制限を解放するしかない。
残りのMPは底をついている。
即時にMP少回復ポーションを飲み、少量MPを回復し、スキル発動に備える。
HP10/400→ MP200/300↑
【魔術式破壊】レベルEX100
ランク SSS
威力 術式破壊力+1000 空間把握+1000 時間把握+1000
効能 どんな術や制限でも完全に破壊するることができる。
これで、俺に掛けられた呪いの魔術式を破壊できる。
隠蔽された術式制限の一部に侵入
隠蔽された術式制限の一部を破壊
【MP無限消費】解放
そして、俺の銀の龍の魔甲は黒く変貌し始め、周囲は黒く、蠢くように歪み始める。
「これなら、お前を倒せる」
次の瞬間、俺は途轍もない閃光によって、停止せざる負えなく、黒色が消えていく。
すると、冷気は消えて、マモノスはいつの間にかいなくなっていた。
その時、俺の後頭部には銃が構えられ、引き金が掛けられた。
「そこまでだ」
振り返らなくても、誰が銃を向けているのか分かった。
セットされたオールバックの金髪、襟の長い白いコートに身を包んだシルバラード=イルガ。
明らかに、いつもの油断した笑みとは違う。
「今……お前……何の魔術を使おうとした? 何の魔力を放とうした? 答えろ! トーマス=ゼルフォード!」
まずい……厄介だな……。
「先生、銃を下ろして頂けませんか? 俺は何も悪いことはやっていませんよ。不可解な現象とされるダンジョン気象下では、魔力が暴発、異質に変貌することは世界魔術師騎士団等の世界機関でも報告されている。この闇の魔術はそのダンジョン気象によって引き起こされた自然現象、いわば、俺にとっては災厄、事故のようなものです」
「元軍人だった俺を誤魔化せられると思ってるのか小僧。違うな……それは、死の魔術だ」
「…………」
「闇の魔術も、死の魔術も王国内で使うことは禁止されている。今や、死罪にすら値する」
このイルガという男は教師の癖に魔術知識が不足している。
俺が使ったのは死の魔術ではない。
死の魔術と混同しやすい黒龍の魔術だ。
まあ、敢えて白状する必要もないだろうが。
「ゼルフォード……死の魔術を使った者はどうなるか分かるか?」
「地獄か悲惨な未来が待っているでしょうね」
「分かっているなら、助ける義理はないな。ところで、お前には聞きたいことがある。なぜ魔術師の資格を持ってるんだ?」
「7歳の時に取得しました」
「そうか……妙に潔いな。なぜお前が資格を持っているかはともかくとして、なぜこの学院に来た? 魔術師が再入学なんて制度はない。校長はそれは知っていて、黙認してるのおかしな話だが」
「ええ……そうですね」
「疑問はまだある。お前の経歴を調べようとしたが、別人の情報だった。お前はトーマス=ゼルフォード……ではない」
その瞬間、二人は互いに銃を顔へ向けた。
対面で双眸を見据え、銃口から迸る青い魔力の渦。
今にも戦闘が始まるかのような状況。
「誰だお前?」
「俺がこのエルグランド魔術師第一学院に来た理由はブリュンヒーゲルス王家から依頼を受けたからです。ブリュンヒーゲルス帝国を崩壊させようとする国家反逆者集団がこの学校にいるという情報を掴んだから探れ、そして、疑いのある者は抹殺しろと任を受け、今年入学予定だった別人のトーマス=ゼルフォードに成り代わった。ちなみに、俺はその国家反逆者集団に関わりを持っているのはシルバラード=イルガ……あなた……だと踏んでいる」
「ゼルフォード……俺はただの貧乏な講師だ」
「だから、怪しい。俺と同等の魔力を持つ人がこんなところで安月給の講師なんて何の目的も無くやってるはずがない……」
「テロ? 何を言ってるのかさっぱりだなぁ? 忠告するが、未来ある子供は変な組織に突っ込まない方がいいぞ、無難に生きろ、引き返さければ残酷な未来が待っているだけだ……ゼルフォード」
「あなたはまだ状況が分かっていないんですね。今あなたは俺の掌の中で転がされている、生かすも殺すも俺次第、お分かりですか?」
「ゼルフォード……お前やっぱり危険だな、それと言っておくが俺はお前より遥かに強い」
「それはどうでしょうか」
「さて、無駄話はこの辺りにしとこうか。教師としてお前に言い渡さなければいけないことができたしな。トーマス=ゼルフォード……いや、名無しと呼んだ方が良いか……お前をエルグランド魔術師第一学院から退学処分とする」
「……分かりました」
「お前……その依頼とやら失敗したことになるんだろう、いいのか? 相手は十魔王家でも最強魔術師一族と謳われたブリュンヒーゲルス王家。失態を犯せば、只では済まない」
イルガは空を見上げ、銃を下ろす。
同時に俺も安堵し、銃を下ろした。
「確かに帝国にとっては失態であり、帝国の危機に繋がる。だが、俺にとっては成功なんです……醜い欲望の巣窟と化すブリュンヒーゲルス王家なんて滅びればいいと思ってますから」
「お前消されるぞ……なんてーな……はははは……ああ殺気出したら疲れちまったぜ。お前の退学処分は覆らないが、ホラホラ寮の仲間にお別れぐらいは言える時間は作ってやる。お前には先生として何もしてあげられなかったからな、せめてこのぐらいはしてやる」
「くだらないですね……俺に仲間という者は存在しませんから、結構ですよ」
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