第5話提案

そして、サリヴァンは急に少し不満げな冷たい顔をし、また目の前にやってきて、形式ばった口調で頭を下げた。


「お客様に対する非礼をお詫び致します。誠に申し訳ございませんでした」


「ははは……気にしてないから良いよ」


「そうですか……それは良かったですね」


 めちゃくちゃかわいいけど、性格は悪い。

 そして、ソルト辺境伯は頻りに頷いた後、話を整理した。

 

「シャルマン冒険者ギルド新規則では初心者冒険者の加入はご遠慮をお願いすると書かれているの確か。だが、その規則は来月から施行されるのだ。よって、まだこのお客様は適用外。しかし、規則の準備もあるため、前倒しで前月から有効となっているのが現状だ。そこで、提案だ」


「提案ですか?」


「要は実力を証明すれば良いのだ。シャルマンの新規則の理念にはこう書かれている。冒険者は強ければいい、その者を我々は歓迎すると」


「お待ちください。ソルト辺境伯に意見を申し上げるのは大変失礼に当たると存じていますが、初心者冒険者はランクが一番下、強さでは一番下の証、実力を証明するまでもなく、証明はされています」


「ふむ、それはその通りですがね」


 雲行きも怪しくなってきたし……別に俺はシャルマンギルドにどうしても入りたい訳じゃないんだよ、どこでもいいから冒険者という資格が欲しいだけ……帰ろうかな。

 すると、レミアスがまだ泣いているのに意を決して立ち上がった。


「ゼルフォード様は優れた実力を持っています。なぜなら、マスターランクの魔術師の資格を持っているんですよ」


「ほう、それが本当なら、ぜひとも加入をさせなければならない。マスターランクの魔術師はこの世に10人とはいない」 


「そんなの嘘よ……だって、初心者冒険者なのでしょ」


「そもそも、その新規則には問題があると我は思います。即戦力を求めるギルドの方針はもちろん充分に理解していますが、だが、ダンジョンに一度も行ったこともない若僧を早計に実力が無いと切り捨ててしまうのは如何なことかと、将来の有望な冒険者を失うことになるという恐ろしさを感じる、だとしたら、シャルマンギルドにとって大きな損失ではないですか? では、せめてその判断は彼達に公平正大に実力を証明する場を与えてからでも遅くはないと思いませんか?」


 サリヴァンやや勢いは失ったものの、クールなロリ顔に眉根を寄せる。


「反論の余地がありません。ですが、ギルドマスターは何とおしゃっいますかね?」


「シャルマンギルドマスターにはちゃんと話を我から通しておきます。それにこの依頼を彼が達成できるとは到底思えませんし、期待もしていません。ただ、普段からお世話になっているレミアスさんがどうしてもというのでね……」


 そこまで、強くは言ってないはずだ。


「ゼルフォード様は必ず成し遂げます!」


 いやいや……。


「はぁ……ソルト辺境伯とレミアスにそこまで言われたなら、仕方ないですね」


 サリヴァンは緊張の糸が切れ、頭を抑えながらも、笑みを見せて納得した。

 だから、やるなんて一言も言ってないぞ。

  

「で、その張本人の意志は聞いてないけど……彼は……あなたはどうするの?」


 勝手に話が進んでいて、断る雰囲気ではなくなった。


「まさか、君……断るとは言わないですよね? こんなに可愛い子があなたを推してくれているんです。もし断ったら、我は許せませ~ん」


「ははは……」


 なんか……やばい人に絡んでしまった気がする。


「ゼルフォード様依頼を受けて下さい!」


「ああ……わ……わかったよ」


 急にソルト辺境伯は不敵な笑みを浮かべ、鋭い白眼を放つ。


「おっと確認しますが、もし、依頼が失敗すれば、ゼルフォード君は加入が認められず、担当した受付嬢であるレミアス君は責任を取って解雇ということになります~ね」


 この男……面白い半分でふっかけているのか。 


「……待ってくれ、レミアスは関係ないだろ」


「辺境伯……レミアスへのその処分は常軌を逸していますよ」


「当然のことです。彼女はシャルマン新規則から逸脱した行為をしようとしている。いわば、ギルドへ逆らうということです。それは、我も例外ではない、あなたもですよ?」


「私も!?」


「とにかく、それ相応の覚悟でやっている訳です。進退も賭けてもらわなければ、釣り合いませんし、面白くないですから~ね」


 すると、レミアスは呼吸を整え、拳を作り上げ、頷いた。


「構いません」


「レミアス……」


「レミアス……このギルドで働くことはお前の夢だったはずだ、夢の続きはたくさんあるんだろ? これは俺の依頼だ、お前には関係ない」


「このギルドで働く夢はもう叶いました。そして、今の夢は人生で初めてのお客様であるゼルフォード様にこのシャルマンギルドから気持ち良く、万全の状態でダンジョンに行ってもらうことです」


 レミアスは俺の胸に飛び込んで、優しげな笑みを見せた。 


「レミアス……」


「ゼルフォード様……私……今とっても、幸せなんですよ」


「分かったよ……」


 そして、レミアスの頭を撫で、興味本位に興じるソルト辺境伯に釘を刺した。


「……俺は本気を出す……約束は守れ」


「…………殺気出てますよ……何人かの冒険者達が倒れています。それはダンジョンで思う存分発揮してください」


「あっ……すみません。つい出してしまいました」


 ソルト辺境伯は予期していたかのように、両手を叩き、再開を促す。


「では、依頼成立ということで、面白くなってまいりたしたね。この依頼を受ける人がいなくて困っていたんですよ……フェンリルという大物の異世界神を討伐してくれるなら、商売人にとっては大変助かる」 


 フェンリル?

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