第32話勝者は

「それに較べて、腰抜けのガロロは本当弱ぇな?」


「言っておくが……今はガロロは弱いが、いずれお前を超える」


「何? ガロロがオレ様を超えるだと?」


「ああ」


「ふざけたこと抜かすな」


 炎に包まれたアズレラはマシンガンで上へ目掛けて発射する。


「ボンッ!! ボンッ! ボンッ!」


 炎の矢が無尽蔵に襲ってくる。

 どこから落下してくるか分からないので、予測が出来ない。


【炎流星群】

 ランク A

 威力 炎属性魔力+200

 効能 炎の雨と呼ばれる。

 上空に打ち上げ、落下することで威力が増す。

何とか凌いでいくが、この数では回避していくことができない。

 纏った雷が左足から消え、膝を付いてしまう。


「くっーーーー」


 頭上には炎塊が迫ってくる。

 これは躱わせない。


 【魔力無効化】レベルEX100

ランク SSS

 威力 空間把握×100 時間把握×100

 効能 魔術による魔力攻撃を全て無効化する。


 炎塊は圧縮し、消失した。

 その瞬間、俺は高速で、アズレラの背後に周り、側頭部に光線銃を向けた。


「なんだ……てめぇ……今のは……それは……黒龍の魔術」


「悪いな……反則をした」


 その瞬間、横に魔力無効化の光線が一本線に流れた。

 アズレラは纏った炎は次第に消えていき、横へ倒れた。

 

「勝者はトーマス=ゼルフォード様でこざいます!」


 驚愕するフレスとガロロ。


「一体何があったの?」


「分からんな。アズレラは分かっていたと思うが」


「……それにしても、凄い魔術……だったね」


 そして、バトルフィールドが消滅する。

 俺は周りを見渡すと先程の天井が空いた広間へと戻っていた。

 俯せのままのアズレラはいまだに起き上がれない。

 死んでる訳ではない。

 先程放った弾丸は実弾ではなく、空弾だ。

 更に、その空弾は【魔力圧縮】によって、圧縮させた【魔力無効化】のスキルが入っている。

 その衝撃で気絶しているだけだ。

 すると、フレスが駆け寄って来る。

 金髪の少女は額に汗を垂らしながら、両手を胸に置き、心配な表情。


「ゼルフォード君大丈夫……?」


「ああ……それよりガロロは?」


「先程治療室に行くと言って、後にしたけど」


「付いてやってくれ」


「うん。けど、ゼルフォード君は次のたたかいどうするの?」


「たぶんこのままやってもきっと倒れてしまう、だから、棄権する。それに、アズレラを運ばないと」


「その方がいいね」


「ああ」


 俺は意識が朦朧としたアズレラを抱え、治療室に向かう。


「はぁはぁ……てめぇ……いや、ゼルフォードと言ったか?」


「あれだけの魔力を使って、喋れる体力があるとはな……恐れ入る」


「……ふんっ……それよりも、あの魔術なんだ? あれはドラゴン族しか扱えない龍魔術だぞ……しかも、黒龍の魔術……偉大なドラゴン族の魔術師でも扱った者はいない……」


「言わないといけないか?」


「ふんっ……いや……その必要はない……てめぇは勝者だ。ただ、敗北者の俺に一言言わせてくれ。勝負……最高に面白かったぜ」


 戦闘が面白い……そんなこと考えたこともなかったな。

        *

 あっという間に魔術模擬戦の最終日になり、団体戦、個人戦とも消化し、結果も受け取った。

 気になるAクラスは個人戦も一位、ニ位、団体戦も一位、二位を独占した。

 閉会式も終わり、外にはいつもと変わらぬオレンジ色の夕陽が映えている。

 フレスは大会を終え、何か心境に変化があったようだ。

 でもどこか以前と雰囲気が違う。

 後ろ髪を一つに結わせている。

 可愛い。

 美少女は何にでも似合うな。


「終わったねっ」


「まあな」


「ゼルフォード君にばっかり大変な思いさせちゃってごめんねっ」


       *


 いつもと変わらぬ日常が戻ってきた。

 チャイムが鳴り、授業の終わりを告げる。


「今日はここまで。明日の予習復習は一応しとけよ」


「はーい」


 魔術模擬戦というイベントも終わり、生徒達は気が緩んでいた。

 その上、ムシムシとした夏の暑さを感じ始め、より一層生徒達に怠けに拍車がかかる。

 すると、廊下側の席の男が、


「ゼル! お前の事を呼んでる女の子がいるぞ!」


 女の子? 

 誰だ?

 視線をそちら側に向け、廊下に立っているのは二人の少女。

 紫髪のおさげで眼鏡を掛けたまさに優等生といった少女。

 お隣は薄い青髪で暗い雰囲気を漂わせ、落ち着かない少女。

 前者はC組ユウラ。

 後者はC組アリア。


「どうした?」


  ユウラは眼鏡を外し、輝かしい笑みを浮かべる。

 一方、アリアは顔を赤くして、目線が合わない。


「ぜルフォード君ちょっといいでやんすか?」


 ユウラって眼鏡外したら可愛い。


「あっ……構わない」


「アリアが大会の時に助けて貰ったお礼がしたいと言ってるでやんす」


 お礼?

 大会からもう既に1ヶ月程経過してるんだが。


「それは、ご丁寧に……だけどお礼はいいから」


「とにかくアリアと明日一緒に買い物に付き合って欲しいでやんす」


「何で俺が?」


「いいじゃないでやんすか。アリアがそこでお礼したい言うのでやんすから」


「分かったけどさ」


「じゃ明日午前11時にエルグランド会館……」


 お礼というより、ただ買い物に付き合わされてるようだ。

 アリアは、頬を赤らめ、真一文字にした。


「絶対来てね」

 

 アリアは恥ずかしそうに颯爽と教室へ戻って行った。

 

         *

        

 俺とフレスは次の教室へ向かうため、歩いていると。

 

「もうすぐ合宿が始まるね」


 夏の合宿。

 自然溢れる土地で精神体力魔術を鍛えようという名目で行われる合宿。

 海や山でのサバイバル生活。

 期待してたのは海で水着美女とあははうふふと戯れたり、高級旅館で美味い食材を食べ空腹を満たし、ふかふかのベットでぐっすりと疲れを癒やし就寝する充実した合宿だったのだが。


「そうだな」


「嫌?」


「ああ。これから辛い合宿が待っているなんて憂鬱だ」


「成績が悪ければ、退学になるからねっ」


「……そうそう。のんびり過ごしたいものだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る