第4話子供


「まだ、色々と勉強していく必要はあるな。はぁ……なんか、眠くなってきた」


 この眠気は【ゲーム学習能力MAX】の膨大なMP消費のためだ。

 スキルを覚えたら、脳と身体を休めるために1日中睡眠を摂らなければならないのだ。

 これには少し困っている。

 今は赤ん坊みたいなものなので、この世界でも子供が寝るのが仕事と言われるぐらいだから、1日中寝ていても怪しまれないし、学校に行く訳でもないので、日常生活に支障が無い。

 だが、将来は学校に通うことになるので、一日中寝てる訳にはいかないのだ。

 だから、今【MP無限消費】を覚えてる最中だ。

 すると、活発な、可愛いらしい女の子の声が響く。


「ゼル~!」


 背後から小さな俺をムギュと抱きしめるミルカ。


「わぁ! ミルカお姉ちゃんだ」


 自分でわざとらしくてそう言ってて、恥ずかしいな。 


「ゼルは……可愛いわね」


 ミルカはとろーんとした黄金色の両眼をし、頬を赤らめ、俺のほっぺに何度もキスをしてくる。

 あまりの溺愛っぷりだ。

 家の中じゃ、いつもこんな感じで、ワンセット。

 お風呂に一緒に入ろうと言われた時は戸惑った。

 でも、最初は少し欲情してたが、もうこれも慣れてしまって、今まや、ちょっと鬱陶しいくらいだ。


「ミルカお姉ちゃん、勉強続けていい?」


「いいわよ。ねぇ、何のスキルの勉強してるの?」


「これはね【MP無限消費】と【無限収納空間(マジックボックス)】だよ」


 ミルカは驚いた両眼と口をあんぐり開けた。


「ゼル……このスキルって……もう高等学院レベルじゃないわ……一流の魔術師が覚えるようなスキルよ」


「え……」


 怪訝そうな顔をするミルカ。

 ちょっと、まずいこと言ったかもしれない。


「あはは……何てね……僕が覚えられる訳ないよ」


「ねぇ……私、昨日、収穫祭で小さな子供が空を飛びながら、邪魔しに来た異世界神を狩ってるの見たの。【身体強化】や【飛行】どれも、Bランク級のスキル……その子供絶対ゼルでしょ? 」


「何言ってるの? お姉ちゃん、僕じゃないよ」


「また、そうやってごまかして、お姉ちゃんに嘘ついたってすぐ分かるんだからね?」


「え……」


 この女怖い……。


「それに、ゼル……一度見ただけで、スキル覚えるでしょ? 考えられない。あとね、子供にしては大人びているというか……絶対私より年上な気がするわね……」


「……」


 怖い。


「ゼル……ステータス見せて」


「いや……それはちょっと」

 

 まずいな……。

 ミルカが不振な両眼で、俺を見ている。

 もういっそ自分の力をバラした方が楽かもしれないな。

 駄目……駄目だ。

 俺に兄エンリケを上回る力があると知られれば、父ハインケスが許さない。

 ハインケスは兄エンリケをブリュンヒーゲルス帝国の次期後継者にしようとしているのだ。

 是が非でも、俺を後継者にさせないようにしてくるのはいいとして、殺されたら元もこもない。

 それぐらい、俺は父ハインケスに嫌われてる。

 それは、優しい母アレシアにも言われた。

 父を父だと思うなとすら言った。

        *

「皇帝陛下……アレシア妃がお見えになりました」


「入れ」


 玉座に座り、肘を立て、不機嫌な様子の現ブリュンヒーゲルス皇帝ハインケス。

 そこへ、後ろは縦にカールががった、栗色のロング髪の綺麗な美女アレシアとヒエルダが入ってきた。

 凄みのある、濁声が響く。


「なんの用だ! アレシア」


「ゼルスの件です。私はゼルスが戦場へ行くことを認めません。まだ、たった3歳ですよ」


「また、そのことか……あいつは、戦場へ行ったぐらいでは死なぬ!」


「なぜ、そんなことが言いきれますか?」


「エンリケがその頃には戦地に行っていた。そして、ゼルスは一級品のスキルを一瞬で取得できる。今は戦闘レベルが足りないが、戦場で経験を積めば、最強の魔術師になるだろう」


「いつになく、褒めるのですね……」


「褒めてはおらんわ……あいつは危険だということを言っておる」


「あなた……裏で、色々と動いてるようですけど、何をお考えなのですか?」


「あいつには色々制限をつけなければならんな……他国に知れ渡ると厄介だ。いや、自国にもだ。有力な辺境伯爵が我が領地を買い漁って勢力を拡大しているからな」


「制限とはどういうことです?」


「話は後だ! 下がれ」

    

  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る