2章魔術師学院

第6話入学


 それから、月日は13年が経過し、俺は16歳になった。

 世界神樹(アルガルヴェ)の100階層(都市下層)のエルグランド王国には名門エルグランド魔術師第一学院がある。

 今日、この学院には新たな一流の魔術師の卵達が集まる。

 そして、俺はこの学院に入学することになった。

 800階層にあるブリュンヒーゲルス王国の自宅の家から、魔龍で揺られること1ヶ月の末、このエルグランド魔術師第一学院に到着した。

 本当に……長かった……。

 学生服もよれよれだ。

 Fクラスの証である緑色の線にはコーヒーの染みが……。

 まあ、こうなるのも当然か。

 そして、目の前には燦々と降る太陽光を浴びた西洋式の白城の建物があった。

 豪邸はL字型で、さらに奥には何棟かの高低差のある建物が並び、中央には緑豊かな木々や、庭が揃っている。

 噴水から吹き出される水の舞。

 広大な敷地面積を誇る学院。

 門の両側には鎧騎士の銅像が飾られ、騎士は馬に跨がり槍は上に掲げ、疾走感溢れる像。

 この学校を卒業すると、ルーキーランクの魔術師の資格を取得できるが、実は俺は既にその資格を取得済みなのだ。

 だから、入学する必要はないし、卒業する必要はないのだ。 

 ただ、訳あって、トーマス=ゼルフォードという別人の人物で通わなければならなくなった。


「あっ」


 そして、急に空が曇り、雨がぽつぽつと降り始めた。

 さあ、早いとこ学校の中へ入ろうか。

 すると、学校の入口前で一人の金髪の少女が地面に膝をついていた。

 ん? どうした?

 

「……大丈夫か?」


 なぜか、彼女は嗚咽を漏らしながら、泣いていた。

 金髪のショートカット。

 種族はヒューマン。

 顔を覗くと、飛びきりの可愛いアイドルみたいだ……。

 シウス帝国シウス王家第十六王女シウス=フレス。

 1年Aクラス、入学試験20位。

 しかも、王族か……凄いな……。


「あっ……」


「雨で濡れて風邪を引いちまうぞ」


「そうだねっ……ありがとうっ」


 陽気な少女の笑顔を向けているものの、明らかに何かあった様子だ。

 何とも悲壮感溢れる姿だ。

 ふと下を見ると、優しげな女の人の写真が入ったペンダントが落ちていた。

 とても美しく、優しそうで、彼女に物凄く似ている。

 きっと、彼女のだろうが、もう既に走って行ってしまった。 

         *

 「ここは世界有数の魔術学校で……」


 そして、入学式は無事終わり、クラス分け表が掲示されている教室前に到着した。

 ホログラム。

 透明な画面上に名前を探す。


「トーマス=ゼルフォードは……Fクラス」


 Fクラスか……。

 AからFの中で最下位のクラスだ。

 落ちこぼれクラスか。

 まあ、俺はどのクラスにいようが別に構わない、ただ俺はこの学校で任務を果たすだけだ。

 すると、廊下の一番奥の向こう側から何やら怒鳴り声がする。

 喧嘩……?

 やはり、入学式早々暴れる奴は異世界でもいるようだ。

 お祭り気分になってしまうのは分かるが。

 新入生の凄い群集だ。

 これでは、様子は窺えない。

 この場合は、【拒絶】、【隠蔽】スキルを使用するのが得策だろう。


【拒絶】レベルMAX

 ランク S

威力 敏捷力+100

 効能 敵は術者の身体に触れられない。


【隠蔽】レベルMAX

ランク S

威力 敏捷力+100

術者の存在が敵に気づかれない。

 

 発動すると俺が進む道だけ開け、喧嘩の現場近くまで来ることができた。

 やはり、楽だ。 

 そこでは、三対一で口論となっていた。


「女子同士の喧嘩らしい」


 女三人組は不機嫌な様子で、一人の少女に執拗に責め立てる。

 先頭に立っているのが、不満顔を示す黒髪ロングを掻き分け、気の強そうな女だった。

 尖った八重歯、どことなくエルフの面影があり、裕福な雰囲気が漂っている。

 オルガネスト子爵家オルガネスト=クロテア。

 容姿端麗だが、強い紫眼をする。

 種族はエルフ。

 1年Aクラス、入学試験3位

 中等学院の頃は冷徹な魔女と呼ばれていた。


 右側にはチャラついた茶髪女。

 種族は猫族。

 ルール城伯家ラナ。

1年Aクラス、入学試験15位。


 左側にはショートの銀髪の女。

 シャリオ城伯家サリナ。

 種族兎族。

 1年Aクラス、入学試験16位。


 一方、執拗に絡まれてるのは俯く金髪のショートカットの美少女。

 さっき泣いていた子か……。

 シウス=フレス。

 強気な表情をしているが、可愛さゆえが怖さが半減している。


「ねぇ私の金貨盗んだの……あなたでしょ?」


「私じゃない……」

 

「クロテア様……犯人はこの女ですよ」


「この女が盗んでるの見たわ」


「だって? だから、私の金貨返してくれる?」


「だから……」


「ねぇ……私あなた嫌いなのよ。王族だからって、可愛いからってチヤホヤされて、人の物を盗んでも許されるなんてムカつくわ……金貨返してくれないなら、この学校から出てって」


 何やら私情の怨みも重なっているようだ。


「……出ていけよ」


「……私は好きで、王族になった訳じゃないよ!」


「はぁ? 自慢してんの? うちら、中級貴族を馬鹿にしてんの? これだから、世間を知らない令嬢は駄目なのよ。盗んだのに、返しもしない、反省もしない、軽蔑した発言、最低ね」


「罰を与えた方がいいんじゃないですか? クロテア様」


「そうね。ラナの言いこと言うわ。王族でも盗み人には罰を与えましょう」


 胸糞悪いな……まあ、面倒事はごめんだし……さて、教室に行くか。

 

「私が盗んだ証拠でもあるのっ?」


「だったら、ここで身体検査でもしてみる?」


 醜悪な笑みを浮かべるクロテア。

 取り巻き達もクスクスと笑っている。

 


 

 

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