第21話ライバル

「ずいぶん、Aクラスは特別扱いだな」


「当たり前さ、Aクラスの生徒とBクラスの生徒では圧倒的に差がある」


「まあ、所詮模擬戦だし……これって出なくても良いのか?」


 注目されるのは俺としては今後の学校生活を送る上で厄介になる気がする。


「やはり、君は少し知識を付けた方が良い。この模擬戦はただの模擬戦じゃない。下層を牛耳る十魔王家の王が見に来るんだ」


「何のために集まるんだ?」


「学校側と十魔王家との何らかの話し合いや協定が結ばれるのだろう。今、大災厄が起きると噂されているから、王家側は有力な魔術師とコネクッションを作りたいのだろう」


 大災厄……。


「まあ、そんなことは僕たちには関係ないが。模擬戦は王国の要人達に力を魅せつけるチャンスなんだ。過去には驚嘆すべき魔術を披露し、世界魔術騎士団や樹帝軍に引き抜かれた一年生がいる。そして、僕はこのためにこの学校に入学したといっていい……必ず僕の力を認めさせ、樹帝軍に入るんだ」


 筋肉質な腕と焼けた爛れた掌を魅せつける。

 相当な努力と魔術の鍛錬をしたのだろう。


「もちろん、そう簡単にはいかないのは分かってるさ。僕より凄い奴らがこのAクラスにいるからね」


「凄い奴……」


 天井を見ると、直立不動で立ちながら、眠っている金髪の少年がいた。

 左頬に傷があり、虎のような少年だ。


「このアズレラ様が最も強い男だ! フハハハハハ!!!」


 静まり返る大教室。

 カルヴァン伯爵家カルヴァン=アズレラ。

 種族ヒューマン。入学試験1位。


 真下にはサングラスに大柄な黒服の男が睨みながら、腕を組んでいる。

 カルヴァン=アズレラの護衛役。

 アルバトロ=サモン。

 入学試験10位


「あのアズレラという男は今1年生の中で最も強い男だ。おそらく、君よりも、強い」


「……」


 アズレラの父カルヴァン伯爵は、ブリュンヒーゲルス王家のパーティーに来ていたな。

 子供に似て、気性の荒い男だった。

 酔っ払ったカルヴァン伯爵を介抱した執事が殴られて、重症を負った程だ。

 

「アズレラは個人戦の優勝候補」


 その時、教室内にガロロが堂々と入ってきた。

 教室中が、ガロロに敵意の視線が送られた。


「あいつが白騎士六体を止めた奴か……」


「アズレラと中学時代から旧知のライバル関係にあるらしい。どっちが強いんだ?」


 などとクラスメートの会話が聞こえる。

 ガロロは白騎士暴走事件以降をその事件の窮地を救った人物として一学年中で噂になっている。

 優勝候補のアズレラと張り合える唯一の人物として、認知されている。

 ガロロ本人は周りの視線に興奮気味で、鬼気迫る殺気を放っている。

 実際、白騎士を止めたのは俺だけれど、まあどうでもいい……。


「ガロロって奴だけど、正直、実力は普通の子だよ。なぜか、注目されているけどね」


 すると、アズレラとガロロが睨み合った。

「おい! 虎野郎! 何そんなところにいやがる! 目障りだから座りやがれぇ!」


「あぁ? オレ様になに指図してやがる! 犬が」


 どことなく似ている。


 すると、腕を組み、エルフの黒髪美少女が前に立ちはだかった。


「ねぇ」


 クロテアだ。

 この女は自分がやったことを反省しているのだろうか。

 反省としてフレスに頼まれた模擬戦の手伝いをしているようだが。


「ねぇ!」


「なんだ?」


「あなた……団体戦の代表候補者にならない?」

 

「俺はパスだ」


「幾人かあなた名前が上がっているの。というより、教授陣からの推薦が多数よ」


 教授陣てっきり嫌われていると思っていたが……。


「俺は出ない。正直個人戦も出ない」


「そう。あなたなら、出場すれば確実に優勝なのにもったいないわね」


 ずいぶん、優しくなったものだ。

 ウディもあの傲慢無礼なのクロテア変わりように、目を飛び出して驚いていた。


「あれが、冷徹な魔女だというのか……」


 Aクラスの代表候補者の1軍メンバー、2軍メンバー、3軍メンバーが決まっていく。

 すると、代表候補者に決定した爽やかな茶髪をしたレンが手を上げた。


「僕にはやはり荷が重すぎて……えんっ……えんっ」


 なんか泣いてる……。

 涙をこぼし、目をこすりながら、レンは、続ける。


「ぐすんっ……ぐすんっ……僕じゃなくて、トーマス=ゼルフォード君がいいと思います……」


 俺を一斉に見るFクラスの生徒。

 なぜそうなる。

 あまりにも唐突過ぎて呆然とする。

 レンは鼻水を垂れ流す程、泣き、椅子に着席し、机に突っ伏す。


「ぐすんっ……あはんんんんん」


「ゼルフォード……お前が脅したのか?」


「マジか」


「レンがあんなに泣くとは」


「ひでぇ奴だ」


「ゼルフォード最悪だな」


「Fクラス上がりが……クズゼル」


「あいつ嫌い」


 首を傾げ、笑顔を見せるフレスと目が合った。

 何かしたのか……。

 俺はすぐさまレンの元へ行き、泣きじゃくるレンを、廊下へ引っ張り出す。


「クラス代表はお前でいいじゃないか?」


「うるさぁいいい!!」


「何があったんだ?」


「フレスさんにクラス代表を辞退しろって言われたんだ!!」


 確か……レンはフレスファンだったし、フレスが怪我をした時も、一目散に治療に当たるいい奴なのだ。

 レンを慰めようと、肩を叩いたが。


「触るな!! うぇーん」


 レンに振り払われ、泣いて去って行かれた。

 そして、イルガは不気味に笑って。


「ゼルフォード良かったじゃないか、代表に決定だ! あと、お前の個人戦の出場が拒否になっていたから、参加に変更しといた」


「嘘だろ……あの先生、俺は出ませんよ」


「今更、変更なんて無理だ。校長に提出したからな! 頑張れよ」

 


 

 

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