第20話平穏


「なな……なによこれ……なんなのよ……あんた。こ、来ないでよ!! 叫んでやる! 叫んで、あんたを一生この学校から通えなくようにしてやるわ!」


「勝手に叫べばいい……それはお前の自由だ。それにこんなくだらないお前がいる学校に未練はない」


 クロテアは何とか反撃しようと魔力を放出しようとしたが、またも魔力は消失し、背筋が凍る程に寒気が襲い、動作が止まり、手が震えた。


「だから、無駄だ」


 俺は瞬時に移動し、銃口をクロテアの後頭部に向ける。


「今すぐ、先生に自分が犯した罪を言え」


「私が……誰だか分かっているのの……オルガネスト子爵家よ」


「これ以上、抗うならブリュンヒーゲル帝国の力でお前の子爵家を潰すぞ。お前はこの学校からだけじゃない、貴族階級から追放される、汚れた同族と共にな」


「なな……ブリュンヒーゲルスって、上層の十魔王家じゃない……嘘よ、ふふふ……そんな嘘で私を騙せると思ってるの! 舐めるんじゃないわ」


 その時、後ろ向きにも関わらず、クロテアの巧みな手捌きで、手刀が下から伸びる。

 しかし、【重力制御】レベルEX100によって手刀はするりと宙に浮き、右側の壁に一瞬で衝突し、更にバンッと弾丸を発射し、クロテアは倒れた。


「あああああ…………」


「空弾だ安心しろ」



*



「世界には十魔王家、上流公爵家、侯爵家、一般人の身分制度があることは知ってるな……十魔王家は世界の選ばれし一族で、それぞれの王国で絶大的な権力を……」


 白騎士暴走事件から1ヶ月余りに経ってしまった。

 その後、クロテアを含めたその他10名の生徒は校長室に呼ばれ、こっぴどく叱られクロテア以外の生徒は退学を言い渡された。

 当のクロテアは10日程度の自宅謹慎で済み、今は復帰している。

 けれど、同級生達のクロテアに対する風当たりは強く、強い言葉で罵倒されたり、陰口を叩かれたりしていた。

 もっとも、フレスファン、今は自称フレス親衛隊になった男達は退学を掲げたプラカードでクロテアに抗議していた。

 すると、チャイムの音が2時限の魔法世界学の授業の終了が告げられる。

 肩が疲れて伸びをする。

 さて、お昼だし、食堂に行くか。

 椅子から立ち上がり、教室を出て、廊下を歩いていく。

 後ろから急ぎ足で駆ける音がする。

 振り向くと、そこにはフレスがいた。

 髪を弄りながら、顔を赤らめている。


「どこに行くの?」


「食堂だけど」


「私も行きたいっ」


「ああ……行こう」


「あの時は本当にありがとう」


「別に俺は大したことはしてない」


「それで、ゼルフォード君にお礼がしたいの」


「いや、いいって」


「駄目だよ。そんなの……ここまでしてもらって、礼の一つもしないなんて、私そんな礼儀知らずにはなりたくない」


「本当に大丈夫だから」


「何でも言ってっ……そのデートとか……」


 フレスは俺の腕を引っ張り、近くにあった人気の無いの隅に誘導し、自らの柔らかい胸に抱き寄せる。


「……こういうのとかも好きでしょ?」


 だから、それは俺には刺激が強すぎる。


「……ゼルフォード君だったら……いいよ」

 

 いいよってどういう意味なんだ?


「フレス……」


 エメラルドの双眸に見つめられ、思わず声が震えてしまう。


「ゼルフォード君は好きな人はいるの?」


 近い……。

 意識してしまうと、やはりフレスは可愛い。

 髪を掻き分けると、仄かなシャンプーの香りがする。

 柔らかい感触、じわじわと生暖かい温もりが感覚を刺激する。

 艶めかしい息づかいが聞こえる。

 この展開は……だんだんと近づいてくる甘美な唇。

 その時、クロテアが現れた。

 勝ち気さはどこにもなく、暗い影が見え、目の下に隈、酷く狼狽した様子。


「ちょっといいかしら……」


「クロテア……良く私達の前に現れることができるねっ」


「そうね……言いたいことがあって来たの。フレスさん……怪我をさせて本当にごめんなさい。そして、濡れ衣や酷い言葉を使ったことも本当にごめんなさい……本当にごめんなさい……本当にごめんなさい」


 クロテアが泣きながら謝ったことは驚きだった。

 けれど、彼女のやったことはそう簡単に許せるものではない。


「お前のやったことは許されない。もしかしたら、フレスが魔術師が出来ない身体になっていたらどうするんだ? 謝るだけじゃ、済まなかったかもしれない」


「謝って済むとは思っていないわ……償いをさせてもらうわ」


 意外にもフレスは不満げではあるが、謝罪を受け止めた様子だった。


「そう。なら、償ってもらうから、私だけじゃなくて、ゼルフォード君にも」

 

        *

「ゼルフォード……新入生による模擬戦のことを知ってるか?」


 クールぶった表情のドワーフの少年ウディがそう言って話し掛けてきた。


「ああ……なんとなくは」


 模擬戦。

 魔術による闘い。

 種目は個人戦ソロトーナメント戦、団体戦が行われる。

 個人戦についてはAクラス生徒30名全員出場可能。他クラスは代表者1名のみ。

 団体戦は全クラス対象。

 Aクラスは三組出場可能。他クラスは一組のみ。三人一組。

 実際のダンジョンでの対人戦を想定した戦い。

 フィールドはゲーム世界。

 それぞれの生徒にライフポイントが設定され、相手のライフポイントをゼロにすれば勝利する。

 ダメージによるライフポイントの減少はスーパーコンピューター独自の評価による。

 ゲーム上であるため、ある程度、身体によるダメージが軽減される。

 武器や道具、魔術使用可能。

 ただし、相手を死傷されることは禁止。

 この大会は、あくまで、殺し合いではなく、対人同士で決闘になった場合を想定した大会なのだ。

 

 

 

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