第10話 魚を売るから魚屋さん

 馬車の中で、ローズの背を冷や汗が伝う。

 まさか別の殺し屋が現れるとは夢にも思っていなかった。それもこんな子供の。


「ナインの、仕事仲間?」

「そう、教育係」

「アナタの方が年下に見えるけれど」

「あいつ甘ちゃんでさ、なかなか一人前にならないから、ボクが尻拭いしてやってたわけ」


 若くても凄腕である事は、余裕のある態度からも明らかだ。銃を持つ手に躊躇いがない。


「“手料理を残すような奴は死んでもいい”って法則を作ってからは、まあまあ上手くいってたんだけどね」

「まさか、彼の代わりにアナタが?」

「そうしようと思ったんだけど、止められちゃったんだよね」


 ニッと笑い、銃を懐にしまい込む。


「それより、もっと楽しい話をしようよ。尊敬する人とか。ボクは町長さん!」

「ああ、Mr.オールド。立派な方ね」

「そうそう、選挙に三回も勝ったし、絶大な権力を持つ町長なのに、いつも笑顔で優しくて!」


 窓の外を見たNonノンが、血相を変えた。


「町長さんだ!」


 パアッと花火が上がったような笑顔で、ノンはローズの手を取り、駆け出した。大きな声で挨拶をする。


「こんにちは!いつも応援しています」

「ありがとう、坊や」


 騒ぎを聞きつけた野次馬が集まってくる。

 町長は笑顔でノンと握手をした後、次々と他の人とも握手をしていった。

 馬車に戻ってからも興奮が覚め切らぬ様子でいる。


「なんだ、アナタ子供っぽい所がちゃんとあるのね」


 走り出す馬車。和む車内。

 背後で女性の悲鳴が響き、振り返ったローズの視界に入ったのは、地面に倒れた町長の姿。


「えっ?」

「事務所で精製している毒だよ。食中毒に近い症状になるんだ」

「アナタが、やったの・・・」

「うん」

「そんな、あんなに喜んでいたのに!」

「そりゃあ喜ぶよ、あの人のお陰で五人分の依頼料ゲットだもん。あー美味しい仕事だったなー」

「ッ!?」


 ノンはピンク色の目を歪ませて笑う。


「八百屋が野菜を売るように、ボク達は“殺し”を売っているんだ。

 事務所の方針でターゲットに顔を見せないといけないから、これでも頭を使っているんだよ。仕事の為なら嘘ぐらい吐ける」


 青ざめて声が出ないローズに、続ける。


「殺し屋に夢を見ていると、命がいくつあっても足りないよ?」

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