第8話 一方その頃、屋敷では殺し屋二人がランチタイム

 別荘で一人、卵を溶きながらナインはため息をついた。

 ローズの事が気がかりでならない。


「上手くいっているだろうか」


 殺し屋事務所経由で、アレキサンダーとクリスティーヌが不仲だという情報は掴んでいた。

 面食いな彼の事だ。充分に焼けぼっくいに火だろうと思ったのだが。

 罵倒され、打ちのめされているかもしれない。


「そして作りすぎた・・・ローズ様はパーティーでいらっしゃらないのに」


 頭を抱えて途方にくれていると、シャラシャラと鈴が鳴るような明るい声が響く。


「うーまっ!

 やっぱナインの料理は最高だよね、ふわっふわのトロットロ。卵の魔術師の名は伊達じゃないっていうか、キノコの香りでコク深いデミグラスソースが最強のバディっていうか」


「何の用だNonノン


 いつの間にか侵入していた小柄な少年が、オムレツを次々と口に運んでいく。

 水色の髪を、もみあげだけ伸ばして頰のあたりで緩くウェーブさせている。大きいピンク色の瞳が、白い肌によく映える。

 12・3才といった容姿だ。


「ボスから伝令だよ。メイドの依頼人がルール違反をしたから契約は無効になったって」

「そうか!」


 これでローズは暗殺対象ではなくなった。

 ナインがほっと胸をなでおろし、自分も昼食をとり始めたその時。


「その代わり、ローズ嬢には他に三人分依頼が来たから、引き続き頑張れって」


 ブロッコリーを刺したフォークを皿の上に落とした。


「三人!?」

「うーんと内訳はね、クリスティーヌ嬢への嫌がらせに加担させられて精神を病んだ令嬢が二人と、仕事が荒いと文句を言われた運転手だね」

「この町の人間、安易に殺しを依頼し過ぎだろう!命を何だと思っているんだ!」


 ナインは頭を抱えた。

 一難去ってまた一難とはまさにこの事。

 その様子を見ていたノンは、勝手に煎れたアイスカフェオレを飲みながらニッと笑う。


「何?やたら手間取ってるし、若い女の子だからやり辛いの?」

「まあ、そうだな」

「じゃあボクに譲ってよ。一回の労力で三回分だよ。こんな美味しい仕事なかなか無いもん」


 得意とする拳銃ハンドガンを見せながら囁く。

 ナインは睨みつけて拒絶した。


「ハイハイ。ボクはボクで美味しい仕事があるからいいよ、ご馳走さま」

「もしローズ様に指一本でも触れたら!」


 ノンは来た時と同じように、霧のように姿を消した。

 ナインは愛用のナイフを取り出し、見つめる。


 他の殺し屋の手にかかるぐらいなら、いっそ私がー。

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