第7話 さあ、黒鳥よ、王子様を取り戻そう

 華やかなガーデンパーティー。

 豪華な食事が並び、音楽隊が盛り上げている。


 そこへ足を踏み入れたローズを、誰もが振り返り、見つめる。

 ゴージャスな紫色のドレス。優雅な足さばき。見事に巻かれた黒髪に、最新の技巧が施された帽子が乗っている。

 紫色の美しい瞳は、鮮やかなアイシャドウでより一層、華やかな顔立ちを深めている。


「お嬢様、どうかお話を」


 チヤホヤと寄ってくる男どもを歯牙にも掛けず、その瞳はただ一人を探す。

 居た。

 パーティーの主役である、今日が誕生日の眩しい金髪の彼。

 かつての婚約者であるアレク。

 そのすぐ横には、恋敵だったクリスティーヌ。

 栗色の髪をアップにして飾りで彩り、ピンク色のドレスを身にまとっている。


『ご自分から話しかけてはいけませんよ』


 ナインの言葉が浮かぶ。

 百も承知。今日の為に入念な準備をしてきたのだ。

 ローズは言い寄ってきた連中の中で、一番まともな容姿の男を選び、ダンスに誘う。


「見て、綺麗な人」


 猛特訓の成果を見せつける。決してアレクを見ない。

 相手に見させるのだ。

 そうして一曲踊り終えた時、背後に気配がした。


「ローズ?」


 慣れた声を、わざと聞こえないフリ。

 彼が前に回ってくる。


「なんて、綺麗なんだ」


 青い目がうっとりと細められた。

 音楽隊が気を効かせて、ムーディーな曲を奏で始める。

 美男美女のダンスを、会場中が息を呑み、見守る。願った通りの展開。血の滲むような特訓の日々が瞼に浮かぶ。


 曲が終わり、アレクが手の甲に口付けた時。

 視界の端で子供が転んだ。

 ローズは駆け寄り、抱き起こして慰める。やがて保護者が現れて、感謝をしながら去って行った。

 その様子を見たアレクが呟く。


「昔を思い出すね、乗馬クラブに見学に来ていた後輩が転んで、君はすぐに助けたんだ」

「そんな事もあったかしら」

「なんて優しい人だろうと思ったよ、そして恋に落ちたんだ」


 ローズは美貌で落としたと思っていたが、違っていた。

 アレクは近付き、寂しそうに笑う。


「婚約を破棄したのは、間違いだったかな」

「クリスティーヌが、心配そうに見つめているわよ?」

「彼女は優しい人だけど、時々、気が合わないんだ。暮らしてきた環境が違いすぎて。僕の誕生日だっていうのに、新品のドレスすら仕立てない」


 ピンク色のドレスは可憐な彼女に似合っているが、着古した印象は受ける。

 姉妹からのお下がりか、中古だろう。


「勝手な事を言っていると分かってる。でもー。

 君ともう一度、やり直したい」

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