第6話 最後のレッスンは銃口と共に

 誕生パーティー用のドレスが完成した。

 豪華絢爛の紫色。着て見せたローズを、ナインはため息を漏らしながら絶賛した。


「世界一です、ローズ様」


 その笑顔が、ぎこちない。

 ローズはナインにも着替えるように指示をする。

 実際に踊ってみたい、慣れないドレスでは本番で転ぶかもしれない、と言って。


 タキシードに身を包み、白銀の前髪をあげたナインは、赤面するほど格好良い。

 音楽をかけて、手を取り合う。

 ゆっくりと、それでいて遅れずに。足運びにタイミング。息遣い。集中力。

 ダンスに必要な要素、その全てを駆使する。


「お見事です。ローズ様」


 手の甲に落とされる口付け。

 伏せた長い睫毛から目を反らせない。


「パーティーでは必ずや、アレキサンダー様の御心を掴んでくださいませ」


 その名前に、昔の記憶が蘇る。

 アレクは金髪碧眼の絵に描いたような美青年で、馬に乗って駆ける姿はまさに王子様。

 誰もが憧れる彼を、自慢の美貌で落とした時は最高の気分だった。


 ある日、アレクの馬が暴走した。

 怖くて動けないローズの目の前で、命懸けで彼を救ったのは庶民のクリスティーヌ。

 ローズは愛でも勇気でも負けたのだ。


 二人は今でも交際をしているはず。

 着飾って彼に会いに行って、それでどうなるというのだろうか。

 ふと窓の外に目をやった時、知っている人影を見かけた。あれは、かつてここで働いていた・・・。

 瞬間、背筋が凍りついた。

 ナインは誰の依頼でローズを殺しに来たのか。他ならぬ、あの女だ。ドアを開けるなと叫びながら階段を駆け下りたが、遅かった。

 元メイドは銃を手に玄関に立っていた。


「いくら待っても、新聞に死亡記事が出ないと思ったらぁ、お元気そぉで、お嬢様」

「ローズ様、お隠れください!」


 守るように目の前に立ち塞がった殺し屋を見て、元メイドの堪忍袋の尾が切れた。


「アンタもその顔だけ性悪女に騙されたって訳ねぇ。だったら先に殺してやるぅ!」


 銃口がナインの額にピタリと向けられる。

 ローズは駆けつけ、叫んだ。


「わたくしを撃ちなさい!」


 銃口がサッとそちらを向いた、その刹那、ナインは撃鉄にナイフを突き刺し、動きを止める。

 戸惑う元メイドのうなじを強打して眠らせた。

 即座に縛り上げ、警察に連絡をする。


 ナインは腰を抜かしたローズを抱きしめる。

 甘いお菓子の匂いがした。

 アレクの時は動けなかったのに、ナインが撃たれると思ったら、体が勝手に動いたのだ。

 時として体は、言葉より雄弁に想いを語る。

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