第17話 愛があれば年の差なんて関係ないはず

 不是ブー・シーの殺気に満ちた目は、ナインだけを映している。

 素人のローズを警戒しないのは当然だが。

 それはプロの驕りというもの。

 投げつけられた枕を叩き落としたタイミングで、布団を抱えたローズに体当たりされて壁に頭を打ち付けた。

 頭の周りを星が回る。

 呆気にとられたナインの手を引き、ローズはドアから飛び出し、ドレスの裾を掴みながら廊下を駆け抜ける。


「ローズ様、お見事です」

「やりたくない習い事から逃げ出す為に、よく乳母にやっていた事よ」


 リネン室に飛び込む。ベッドシーツの中で息を潜めていると、苛ついた足音が廊下を通り過ぎていった。


「仲間だったのに、容赦ないわね」

「ブー・シーはノンを溺愛しておりまして。彼に迷惑をかける私が嫌いなのです」

「小さい殺し屋の子ね」

「ノンが5歳の時にプロポーズされたとかで、結婚が可能になる年齢になるまで待っているのです」

「え???」

「とてもそうは見えないでしょうが、ブー・シーは女性です」


 プロポーズを受けた時は20歳だったとの事。

 ローズには少々理解できない世界だが、5歳のナインが花束を持って愛を告げる姿を想像したら有りな気がした。


「そういえばアナタ何歳なの?」

「来月で20になります」


 2つ年上。ほぼ同年代の安心感がある。


「ここに居れば何とかなるかしら」

「厳しいと思います。客室に隠れられたらいいのですが」

「何故?」

「殺し屋事務所の方針の一つに『関係ない者を巻き込まない』がございます」

「ターゲットに顔を見せるとか、妙に真面目よね」

「誰かに匿ってもらいましょう」


 警戒しながら進み、曲がり角で左右に別れる。互いの無事を祈りながら。

 ローズの視界に、シルクハットにタキシードを着込んだ、ハの字型の髭の紳士が飛び込んできた。

 品のいい白髪を真ん中分けにして、眼鏡をかけている。


「おや、お嬢さん。そんなに慌ててどうしましたか」

「すみません、隠れさせて頂けませんか」

「穏やかではありませんね」

「不審者につきまとわれていて、困っているんです」


 とりあえず詳しい話を中で、と通された。

 綺麗に整頓された客室だ。かなりの几帳面か、育ちの良い人だろう。

 部屋の隅に伏せていると、入り口で話し声がした。


「知らないと言っておいたよ。怖いレディだったね」

「ありがとうございます」


 安堵のため息と同時に、違和感が汗となり背中を伝う。

 何故、女性だと分かったのだろう。


「どうしたのかね、まるで殺し屋でも見るような目をして」

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