第18話 趣味嗜好でその人の全ては分からない

 とある客室の入り口で、黒づくめの殺し屋が威圧する。

 刃物を思わせる眼力だったが。


「褐色の男と色白の女性?知らないなあ、キャサリンは?」

「存じませんわ」

「マーガレットは?」

「わたし旦那様しか目に入りませんから」


 中に居たワインレッドのストレートロングの青年は、はべらせた美少女達とイチャイチャするばかり。


「ロリコンの変態め」

「君にだけは言われたくない気がするな」

「我は正式に婚約している」

「何歳の子と?」

「12になったばかりだが、おい、通報するな!」


 赤い髪の男は笑いながら受話器を戻した。


「大丈夫、同類だよ。ぼくは10代の女の子しか愛せないんだ」

「一緒にするな!お前達、コイツを殺したければ我に依頼せよ。格安料金で今すぐ仕事をしてやろう」


 私情しかない営業を始めるブー・シーを見て、三人の美少女のうち二人が顔を見合わせてクスクス笑い出す。


「旦那様は良い方ですわ」

「部屋も服も与えてくださるし、勉強や礼儀作法も抜かりなく。何よりー」


「「いかがわしい事は何もなさいません」」


 洗脳している可能性を疑ったが、違うようだ。

 彼女達の瞳は光り輝いている。

 一人だけ沈黙の少女は読書中。タイトルからして知能の高さがうかがえる。

 山盛りのスーツケースが不安定に並んでいる所を見ると、かなり服を買っているようだ。


「紳士なロリコンか、珍妙な奴め」

「初対面で失礼すぎない?もう帰ってくれないかな」

「旦那様、着いたらお食事ですわね」


 キャッキャッと盛り上がる場にドッと疲れが押し寄せる。扉を閉め、愛しのノンに会いたい気持ちを胸にターゲット探しを続行する。


「行ったよ」


 背後のスーツケースの下に隠れていたナインが顔を上げる。


「ギリギリ10代だって言うから匿ったけど、キミ何やらかしたの」

「それは・・・」

「言いたくないならいい。ヤバイ奴に追われてる時は助け合わないとね」

「どうもありがとうございました」


 窓の外をチラリと見て、読書を切り上げた金髪縦ロールのアンナはテキパキと降りる準備を始める。


「旦那様、チケットはこちらに」

「助かるよ」


 そこに書かれた名前を見て、ナインは固まる。

 ロリ伯爵。ローズの現婚約者。醜く太ったハゲ男だと聞いていたのだが。

 嗜好はともかく、適度に筋肉のついたスリムな体つきに綺麗な長髪。タレ目で甘めな顔立ちは美青年といって差し支えない。


「視線を感じる、さてはキミ男色家か?さっきの男とは痴情のもつれで!?」

「断じて違います!」

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