第19話 美少女名探偵アンナ
金髪縦ロールのアンナは、ナインをジッと見つめてから、細い指を顎に当てて頷いた。
「南の小国ムクーロからの移民ですね」
「えっ?」
「15年前、激しい内乱でいくつもの工場が破壊されました。お父上の職場が無くなり、命からがら逃げて来たのでは?」
「な、何故」
「肌の色に年齢に発音。判断材料は沢山あります」
目を丸くするナインと、クールなアンナを見比べて、ロリ伯爵は愉快そうに笑う。
「アンナはね、少ない情報から何でも見抜いてしまうんだ。良い事もそうでない事も」
自慢を続けようとしたその時、キャサリンとマーガレットに裾を引かれた。
トイレに行きたい合図だ。
「旦那様、荷物番はお任せください」
「アンナ一人にするのは心配だよ、もしもの事があったら」
「人体の急所なら把握しております」
鉄製の耳かき棒を取り出し、笑ってみせる。ロリ伯爵は心配そうに見つめながら二人の少女と退室した。
二人きりになったアンナは耳かき棒を二、三回振り、長さを倍に伸ばした。
「さて、本性を現してもらいましょうか」
「なんの事ですか」
「ワタシの前で演技は無駄です。あなた旦那様の命を狙う殺し屋でしょう!」
立派な凶器と化した耳かき棒を突きつける。
長い睫毛に彩られた、快晴の空を思わせる大きな目は、真剣そのものだった。
「先程、わざとチケットに書かれた名前を見せました。あなたは驚いた様子で旦那様の顔と体をジロジロ見た。あの反応をするのは、お見合い写真を見た者だけです」
ナインの背を冷たい汗が落ちる。
結論は違えども、過程はほぼ当たっている。
「旦那様は、傍若無人な振る舞いで婚約破棄され、見合い写真をたらい回しにされていた女性を不憫に思い婚約しました。
ですが彼女は一度も挨拶に参られない。
それもそのはず。ワタシが“これでもか!”という程のブ男の写真をねつ造し、すり替えたからです」
ローズが死を決意した理由は主に性的嗜好によるものだが、とても受け入れられない容姿だったのも確かだ。
ナインの胸に暗雲が立ち込める。
本当の姿を知っていたら、違う反応だったかもしれない。
「白状なさい。結婚を嫌がったローズ嬢の送り込んだ刺客なのでしょう?」
居なくなってくれればいいとは思っている。
本当の彼に会わせたくはない。
家柄が良く、両親も賛成していて、美青年で、思ったよりも人格に問題は無い。
自分よりずっと、彼女にふさわしい。
胸に広がる黒い淀みを嫉妬と呼ぶ事を、まだナインは知らなかった。
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