第11話 どんな時でも、生きている限りお腹は空く

 帰るなり部屋に籠ってしまったローズを心配し、連れてきたNonノンを問い詰めたナインは、顔が真っ青に変わる。


「仕事を見せるなんて、一体どういうつもりだ」

「色ボケも大概にして貰おうと思って」

「ローズ様にそんな言い方を!」

「お前の事だよナイン」


 焼きたてのパンと、具沢山のクリームシチューを勝手に食べて笑顔になりながら、ノンは続ける。


「珍しく手間取ってるから、どんな豪傑令嬢かと思いきや、5秒で始末出来るじゃん」

「彼女は、料理を残さない」

「それでハートを奪われちゃったワケね。どうする気?駆け落ちでもしちゃう?」

「そんな事はー」

「無理だよね、逃げ切れる訳がない」


 貴族の令嬢が消えたとなれば、親が血相を変えて探すだろう。見つかれば重罪だ。ナインのみが処刑される。


「彼女に冷たくされて、目を覚ますといい。ボク達は殺し屋だ。人並みの幸せなんか許されない」

「分かっている!」

「さっさと仕事を済ませて、帰っておいで。ナインが居ないとみんな栄養失調っていうか。

 寂しいから」


 ご馳走さま、と言い残しノンは消えた。

 空になった皿を片付けながら、ナインは頭を抱えてテーブルに伏せた。


 +++


 ローズは布団の中で震えていたが、落ち着いてくると、お腹がまぬけな音を鳴らす。

 そういえばずっと何も食べていない。

 夕飯は何だろう。パンケーキ、魚のグリル、ハンバーグ、ほうれん草のキッシュもいい。

 思い浮かぶのは、ナインが作ってくれた料理ばかり。

 それ以前に何を食べていたのか、思い出せない。


「胃袋を掴まれるって、こういう事かしら」


 苦笑し、ベッドから起き上がる。

 空腹で考え事をしても良いアイディアは出ない。まずは腹ごしらえだ。

 厨房を訪れたローズに、ナインは驚きながらも、パンとシチューを差し出した。デザートは小さいケーキが並んだスペシャルプレート。


「美味しい!」

「そうですか、良かったです」


 この味を、眩しそうな笑顔を、手放す事など出来ない。

 それならば、どうすればいい?

 テーブルに並べられた号外が目に入る。


「三ヶ月後に、町長選挙?」

「現町長が食あたりで亡くなったそうで、新しい町長が決まるまでは秘書のライト氏が代わりを務めるそうです」


 ローズの目が輝いた。

 ゲーム三昧の国王が楽をするため、この国では町長が絶大な力を与えられている。

 独自の法律を、作る事も可能だ。

 ナインと身分や職業の壁を超えて結ばれる為には、これしかない!


「わたくし、町長に立候補します!」

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