第2話 早寝 早起き スパルタ塾
「おはようございます。ウォーキングのお時間です」
「え。今、何時……?」
「5時です」
「嘘でしょ、もう少し寝かせて」
「これぐらい普通ですよ。さあ、こちらにお着替えください。2キロ歩きます」
澄んだ空気の中で、朝陽が登る様子を見ながらのウォーキングは、とても……キツかった。
悲鳴をあげる脇腹を押さえて、重いふくらはぎを引きずっていたローズは、石につまずく。地面にぶつかると思った瞬間!
自然な動きで抱きとめられた。
ドキドキしたのは息切れのせい。顔が熱いのは焦ったせい。
一息ついた後のトレーニングは更に地獄だった。
翌日起き上がれないほどの筋肉痛。引きこもっていたレディに対して酷すぎる仕打ち。おそらく殺し屋とは仮の姿で、鬼か悪魔だ。
「でも料理は本当に美味しいのよね……」
運動と美少食が習慣になった三ヶ月後。
ローズは風呂上がりの髪を丁寧にとかして貰いながら、鏡に映った自分を見つめる。
髪も肌ツヤも全く違う。
腫れていた瞼は元どおり、体型もかなり戻りつつある。ナインのスパルタ塾の効果は抜群だ。
夜更かし癖も抜けて、今では子供のような早寝ぶりである。それというのも。
「早く続きを読んで」
「はい、小人たちに囲まれた場面でしたね」
ローズは大の本嫌いだったが、毎晩欠かさぬ読み聞かせに、すっかりはまっていた。優しく落ち着きのある声が、耳に心地良かった。
「アレキサンダー様の誕生パーティーの場所が決まったようです」
ナインが紅茶を淹れながら語りかける。
アレキサンダー・ウィークエンド。通称アレク。同級生であり元婚約者。
「そ、そう。もう関係ないわ」
「行きましょう」
「はあ!?」
「奪われたものは、奪い返すべきです」
ナインは銀色のドーム型の蓋を開き、色鮮やかな果物が乗ったタルトケーキを見せた。
キラキラ輝くそれを前にローズの喉がなる。
「さあ、行くと仰ってください」
「アナタ性格悪いわ!」
「なんとでもどうぞ。パーティーまでの期間、ビシビシ鍛えてみせますから」
ダイエット生活で遠ざかっていた甘いもの。ローズは激しい欲求に逆らえず、ケーキに飛びついた。
噛むごとに違うフルーツが甘みを主張し、サクサクの生地の食感の楽しさも合わさり、永遠に続くとも思える多幸感だ。
「
ローズはナインの言葉を右から左に流した。美しくなったら殺されるのだという事実は、箱にしまって見ないことにした。
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