第24話 決戦は行き止まりで

 白銀の髪を揺らす褐色の男は、帽子を被ったコートの女と共に廊下を駆けていく。

 ブー・シーは脇目も振らずに追う。


「ここで会ったが百年目だ」


 二人は左右に別れる。左は行き止まりだ。ブー・シーは標的を袋の鼠に絞った。

 背中を向けたまま立ちすくむローズに声をかける。


「遺言を聞いてやろう」


 トンファーを鞄から取り出してツカツカと距離を詰めていく。ローズは振り向かずに答えた。


「わたくしは死にません」


 数多の人間を地獄に沈めてきたブー・シーの一撃が彼女の後頭部に向けて繰り出される。

 鈍い音と共に昏倒する・・・はずだった。

 しゃがんだ彼女の代わりに現れた少年に止められる事にならなければ。


「ーッ!?」


 引き伸ばしたタオルで止められたトンファーは、もう片方と共に落下する。

 ブー・シーは豆鉄砲を食らった鳩のごとき表情を浮かべ、少年から目を離せない。

 少年もまた笑みを浮かべて見上げる。

 隙だらけな背中に忍び寄り、ナインが相棒のナイフを喉元に突きつけた。


「終わりだ、ブー・シー!」


 これがローズの作戦。自分を囮におびき寄せ、隠していたノンに身を守ってもらい、ナインに背後を取らせたのだ。

 危険な賭けではあったが、うまくいった。

 そう、ここまでは。


「ナイン……キサマよくも、我にノンを攻撃させるような真似を」


「油断するな、早く拘束しろ!」


 ノンの甲高い叫び声が響くが、一歩遅かった。ブー・シーの暗器、肘当てに仕込まれた毒針が胸に突き刺さる。


 うずくまるナイン。駆けつけるローズ。

 それはまるでスローモーションのように感じられた。

 涙声で叫び、青ざめた頰を撫でる。

 傷口から毒を吸い出そうと胸元を開くと、円形の物体が飛び出して床に転がっていった。


 星のマークの付いた懐中時計。

 その鎖部分に針が絡んで止まっている。


「妙な感触だとは思ったが、流石に守っていたか」


 ナインの体についたばかりの傷が無い事を確認したローズは脱力して深く息を吐いた。


「上手くできず、申し訳ありません」


 ホッとしたら怒りが湧いてきたらしい。

 ローズはキッと睨みつけ、ナインの額にデコピンを食らわした。


「馬鹿! 心配したじゃない!」


 かがんだ状態で、強く抱き合って泣いた。

 ナインの手もまたローズの背中に回っている。


「こいつら人前だという事を忘れているのではないか」

「羨ましいの?」

「いや、そういう訳ではなく」

「いいよ、おいで。抱きしめてあげる」


 どさぐさに紛れてノンとブー・シーも抱き合っておいた。

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