第34話 ボスの信念、ナインの決意

 ローズを待つナインとボスは、隠れ家にてクレイジー・フローズンのアジトを推理していた。

 そこへ呼び鈴が鳴り響く。

 玄関先には、長身の黒コートの男が居た。

 ストレートの長い髪に、切れ長の目をしている。


「探し人は既に死んでいる。諦めよ」


 感情の無い声に違和感を覚えたナインは、同じ質問を二回、少し変えた質問を一回する。

 答えは全く同じ。


「操られているのかもしれないね」


 そう言いながら、ボスは男を家の中に招き入れた。上機嫌で自ら飲み物を準備する姿を見て、好みのタイプである事を察した。


「それで、ノンはもう居ないと?」

「諦めよ」

「はいそうですか、と引き下がる訳にはいかないんだよね。証拠は無い訳だし」

「諦めぬと?」

「事務所のメンバーは僕の子供みたいなものだし」

「諦めぬと?」

「うん。そうだけど……」


 男は立ち上がり、コートをひらりと揺らし、背中に隠したマシンガンを取り出した。

 警戒していたナインはボスを抱え込むようにバーカウンターに避難する。

 弾丸が連続で発射される音。

 壁が蜂の巣になり、瓶がいくつも割れて破片と水滴が舞う。


「ボス、指示を!」

「殺さず気絶させて捕獲」

「無理ですよ! 殺るか殺られるかです!」

「あんないい男を? 許可しない」


 マシンガンの雨は降り続く。武器も逃げ場も無い。


「では僅かな時間、奴の提案に乗るフリをして気をひいてください」

「分かった。我が子の判断に従おう」


 ボスは大声で男に呼びかけた。

 マシンガンの雨が一時的に止まり、ナインは床下収納をこじ開ける。


「諦めるよ。女王様にそう伝えてくれ」


 男は銃口をボスに向け、『嘘をついている』と言い、引き金に手をかけた。その瞬間。

 瓶を投げつけられた。

 ナインはすかさずオーブン用の薪にマッチで火を灯した。


 ナインに向けられる銃口。それを持つ手を、ボスが仕込み杖から飛ばした針で貫く。

 刹那、宙を舞う火の棒。

 強いアルコール度数を誇るウォッカでずぶ濡れの体に向けて。

 足元を狙ったが、そう上手くはいかない。腰の辺りに着火し、男は悶えてのたうち回る。ナインは蛇口に付けたホースから水をブチかける。

 男は低くうめきながら気を失った。

 ボスが急ぎ、馴染みの医者を呼ぶ。一命を取り留めるか否かは五分五分だろう。


「変わったね、ナイン。いつ死んでもいいといった顔をしていたのに」


 死を覚悟した瞬間、瞼に浮かんだのは。

 テーブルに座り、嬉しそうに笑っているローズの姿。


「私には、お腹を空かせた姫がいますので」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る