衝撃の事実
由々しき事態だ。
スマートフォンを握りしめた手がわなわなと震える。俺は知らなかった。なんてこった!
こうしてはいられない。とにかくおっさんだ。おっさんを呼ばなくては! 俺は震える手でグラスにウイスキーを注いだ。
念のために言っておくが、アル中ではないからな!
👼
事の発端は一週間ほど前に遡る。
仕事終わりにブラブラしていたら高校時代の親友に会った。地方の大学に進みそのままそこで就職したと風の便りに聞いてはいたが、疎遠になっていた。この春から東京支社に転勤になったらしい。
「それなら連絡くらいしろよ!」
己の不義理は棚に上げて詰ると、融は困ったように笑って飲みに誘ってくれた。
思い出話に花が咲き、仕事の愚痴から近況までを語るうちに、懐かしさと酒の力が相まって口が滑った。
「俺、酔っぱらったらちっちゃいおっさんが見えちゃうんだよ」
融、ドン引き。
そりゃそうだろう。俺だって融が急にそんなこと言い出したら引く。でも、見えるものは見えるのだ。俺はどうにかおっさんの可愛さを伝えようと語り上げた。上げてしまった。
酒って恐ろしい。素面なら絶対しないようなことをうっかりやってしまう。
融は笑顔を引き攣らせながら聞いてくれた。別れ際、慰めるように肩を叩かれて俺は怒ったが、それも致し方ないことだろう。酔いが覚めた今なら分かる。
それが一週間ほど前。融は俺の与太話を信じていなかった。ところが、である。
👼
『おっさん入浴中💕いや~ん💕』
という恥ずかしい文言と共に送られてきた動画。鬼瓦のような顔をしたおっさんが、ご機嫌で泡と戯れている。
人のことをあんなに憐れんだ目で見ていたくせに、こいつおっさんを呼び出しやがった!
だがまあ、それはいい。鬼瓦を見ながら俺は思う。どこからどう見てもうちのおっさんの方が可愛い。勝った。俺は確信する。
するとまたスマートフォンが鳴って新着メッセージを示した。
『おっさん、口悪いんだよねー
どこが天使?』
なん……だって!?
俺はおっさんの声を聞いたことがない。
何? どういうこと?
おっさん、喋れるの??
いっつもふにゃふにゃ笑うばっかりだから、てっきり……
後から来た融に負けてたまるか!
俺はウイスキーをぐっと呷った。
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