あったかいんだからぁ♪
「くしゅんっ」
弁当を買った帰り道、おっさんがデカイくしゃみをした。考えてみれば十月ももう半ばを過ぎた。毎年いつまでも暑いからついうっかりしてしまうが、気づけば秋真っ盛りだ。
そりゃあくしゃみも出るだろう。おっさん未だにステテコ一枚だからな……。
「飯食ったら風呂でも入るか」
風呂場ではしゃぐぴーちゃんを思い出したからでもないが、温まるなら風呂だろうという極めて短絡的な発想から提案する。
「おー。いいねえ」
寒いからかおっさんはジャージのポケットから顔も出さない。ちょっとくぐもった嬉しそうな声が返ってくる。
この日は食いしん坊のおっさんも巻き気味に弁当を平らげて、あったかお風呂タイムに突入したのである。
♨️
かぽーーん。
風呂って言えばこの音だが。
何の音だ、これ?
正体の分からない謎の擬音を頭のなかに響かせながら湯船に浸かった。極楽だー。どこら辺が草津なのか分からない『草津の湯』の入浴剤がそれっぽい香りで体の芯から温めてくれる。
「あったかいねえ」
タオルの切れ端を頭の上に乗っけたおっさんも洗面器の縁に両手を掛けてご満悦だ。洗面器の中身も白く濁っている。まあ、風呂の湯を掬ったんだから当然だな。湯船にぷかぷか浮かぶ様はそれこそ船のようだ。
「えいっ」
徐に立ち上がったおっさんが、どぼんと湯船に飛び込んだ。
「裸で泳ぐなよ。ガキじゃあるまいし」
案外達者な泳ぎに、苦笑しつつも感心する。
「おっさん泳ぎ上手いな。シークなのに!」
「砂漠生まれだから憧れだったんだよー」
バシャバシャすいすいと泳ぎながらおっさんもちょっと得意気だ。
「あったかくて楽しー」
おっさんはキャッキャとはしゃいだ。そして一頻り泳ぐと疲れたのか俺の方に寄ってきて腕にぶら下がる。
「ふう」
「ふうじゃねえよ。逆上せるぞ」
「うん。ちょっと逆上せちゃったー」
そう言われて見るとおっさんの顔は赤い。
「もう出ろ。タオル出してるから」
「渚くんは?」
「俺はもうちょい浸かってく」
「じゃあ先に出てるねー」
「おう」
すっとおっさんが消える。リビングに用意しているおっさん用の脱衣所に飛んだんだろう。
「いつも思うけど便利だよなあ」
おっさんの移動方法については考えないことにしている。どんなに考えても分からないし、下手に勘繰るとかずこさんに睨まれるからだ。でも羨ましい。だって子供の頃に切望したピンク色のドアみたいじゃないか。
暫くぼんやりと湯に浸かる。
「さて。俺も出るか」
そしておっさんの防寒具を買おう。
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