隠された真実
「おっさんって喋れるのか?」
ボトルの陰からおっさんが半身を覗かせるや否や前のめり気味に訊く。おっさんは一瞬身を固くしたが、次の瞬間にぱあと笑った。相変わらず癒されるぜ、こんちくしょう。
「喋れるよ」
拍子抜けするほどあっさりと、おっさんは喋った。
マジか! マジで喋れたのかおっさん!
「じゃあ何で今まで……」
俺の嘆きは至極尤もだと思う。もっと早く知っていれば、もっとおっさんと喋れたものを!
「うーん」
顎に指を当てておっさんは考える。そして、ぽんと手を打った。
「何となく通じてたから、喋る必要がなかったんだねえ」
ほよよんと微笑んで、うんうんと頷くおっさん。多分腕組みしてるつもりなんだろうけど、腕が短すぎて出来ていない。何だそれ。和むわー。
「チーズ食べたいなあって思ったのも。元気出してほしいなあって思ったのも。喋らなくても伝わってたよね?」
見た目の長閑さそのままに、おっさんの口調はゆったりしていて体の力が抜ける。気を張って疲れた心がふわりと軽くなる。
「やっぱ癒されるわ。おっさん、天使だな!」
俺は酔っているから変なことを言う。素面なら言わない。だからまだ大丈夫だ。
「やだなあ、何言ってるの。おじさんはただのおっさんだよ」
頬を染めたおっさんがちいちゃい手で顔を隠して照れている。
いやいや。普通のおっさんは手のひらサイズじゃないから。三頭身なんて有り得ないから。大体、ただのおっさんを可愛いとか思ってたら俺ヤバい奴じゃん。
「うちに来てくれたのがおっさんで好かったわ」
俺はしみじみと頷いた。鬼瓦じゃなくて好かった。癒し系万歳!
「これで酒飲まなくても出てきてくれたらなあ」
せめて、
「え?」
俺の呟きにおっさんは顔に当てていた手をぶんぶんと振った。
「違うよ? お酒なんて飲まなくても出てくるよ」
「え?」
「おじさん、渚くんに呼ばれたから出てきたんだよ?」
「ええっ!?」
「この前もその前も。渚くん、おじさんのこと呼んだよね? 勘違いとかだったらおじさん恥ずかしいんだけど……」
おっさんの眉毛がハの字に垂れる。
「いや。呼んだけど」
呼んだというか、おっさん出てこないかなーと思いながら酒を飲んだけど。どういうこと? 心の声駄々漏れってこと? えええぇぇっ! 俺の方こそ恥ずかしいんですけど!!
「じゃあ最初のときは……」
「ああ、あれは」
おっさんは顔を赤らめてにっこり笑った。
「何か、渚くんが寂しそうだったから、つい」
つい!?
ヤベエ、おっさん。俺泣きそう。
「俺が呼んだらおっさん出てくるの?」
「うん」
「いつでもどこでも?」
「そうだねえ。だいたい?」
マジでかー。
うわあ。そりゃ困ったなあ。
もし素面で変なこと言っちゃったら、どうすりゃいいんだ……。
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