イケメンがおっさんときゃっきゃうふふ……?
イケメンの無駄遣いだ。
笑顔で襖を閉めたあと、美鈴は独りごちた。下げてきた空のビールジョッキに溜め息が落ちる。
居酒屋の個室にイケメンが二人。がっしりした体育会系と、優しげな面立ちの青年だ。芸能人でもない若い男二人が個室! しかもイケメン! 心に少々腐った何かを飼っている美鈴の胸がときめくのは必然であった。それなのに!
あいつら、おっさんの話しかしてない!!
美鈴はイケメン同士のきゃっきゃうふふを覗きたかったのである。真実なんてどうでもいい。火の無い所に勝手に煙を立ててニヤニヤしたかったのである。それなのに!!
その楽しみを奪われて、美鈴はとぼとぼと厨房に帰った。
でも待って?
下げたジョッキをシンクに並べ、次に出す飲み物を用意しながら美鈴は考える。
イケメン二人のきゃっきゃうふふを想像するから駄目なのだ。イケメンがおっさんときゃっきゃうふふ。しかも二組! 素敵!!
何だそっかー。やあだあー。うふふ♡
美鈴はにこにこしながらフロアのテーブルで待つカップルに飲み物を運んだ。
🍺
個室からのコールに美鈴はウキウキと参上した。襖の前に立つと会話が漏れ聞こえてくる。
『おっさんが……』
『おっさんに……』
相変わらず会話の中心はおっさんらしい。本来ならドン引きだ。実際、先程は引いた。でも大丈夫。既に脳内変換はバッチリ。絶賛妄想中なのである。どーんとこーい、なのだ。
あんたらどんだけおっさん好きなのよー♡♡
美鈴はすぱーんと襖を開けた。浮かれすぎてうっかり声を掛けるのを忘れてしまったが、もう遅い。
「「「「「あ」」」」」
五つの声がハモる。
さすがの美鈴も妄想しきれなかったもの。
三頭身のおっさんが二人。
テーブルの上でだし巻きたまごにしがみついていた。
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