マジもんの小鬼さん

 あの厳つい見てくれのぴーちゃんが巨大化したらさぞかし恐ろしいことに。

 おっさんはイケメンシークに様変わりしたが、ぴーちゃんは元々あんな感じだとかずこさんが言っていた。てことは。ロボだ。きっとロボに違いない。

 高く聳えるロボを想像していた俺は、ちょっと言葉を失ってぴーちゃんを見下ろしている。


 ちっさ!

 ぴーちゃん、融の鳩尾くらいまでしかない。恰幅がいいから流石に子供には見えないが、背丈だけならスイミングスクールの餓鬼どもとどっこいだ。


「ふわあぁぁっ」


 俺同様、融も阿呆みたいに口を開けておっさんを凝視していた。


「王子様だー」


 そうだろうそうだろう。おっさんはマジもんの王子様だった。そして。


「鬼……だな」


 俺も呆然と呟く。

 ちっさいとはいえ相変わらずの厳つさを誇るぴーちゃんの頭に。短く刈り込んだ戦士らしいその生え際辺りに。ずんぐりした角が二本。

 ヤベえ。ぴーちゃんもマジもんだった。


「さてどうするか」

「そうだね。どうしよう」


 そもそも男と同棲する気が更々無い上に、二人とも見た目がヤバすぎる。でも、王子様になろうが鬼になろうが、おっさんとぴーちゃんなのである。

 悩ましい。


 何だかやってられない。

 だって、どうしたらいいかなんて分からない。

 だから。


 取り敢えず呑もう!


 せっかくおっさんもぴーちゃんもでっかくなったんだから酒盛りだ。二人ともいい大人なんだからもちろん呑めるだろう。ビールだビール。融、ビール買いに行くぞ。おっさんたちは留守番な。……。そんな顔すんなよ。おっさんはともかく、ぴーちゃんは外無理だろう。ピーナツ買ってきてやるから。な? おう。あたりめもチーちくも買ってきてやる。任せとけ。留守番出来るな? よし。じゃあ行ってくる。


 取り敢えず難題は先送りにしてちょっとはっちゃけよう。発泡酒じゃなくてビール! 苦悩する俺たちには贅沢が許される。はず!

 コンビニで大量に買い込んで炎天下を歩く。梅雨は何処に行きやがった。暑くて敵わん。雨のなか買い出しも嫌だけど。


 ふうふう言いながら両手にレジ袋を下げて家に帰った。何で部屋は三階にあるんだ。嘆きつつ階段を上る。やっと辿り着いた玄関前。


 ……うん。


 うん。そうだな。そりゃそうだろう。


「あ♡ おかえりなさぁ〜い!」


 美鈴ちゃんと並んで今まさにピンポンしようとしていたマジもんの極妻かずこさんが。

 嬉しそうにこちらに手を振った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る