おっさんたちの行楽

「おう。これだこれ!」


 そう言ってぴーちゃんは融のスマートフォンを器用に操作した。


「……」


 いや。気を取り直せ、俺。今更こいつら相手に対抗意識を燃やしても無駄だ。慎重派の俺とのほほんがステテコ着て歩いているおっさん。そんな二人が能天気と鬼瓦に対抗できる筈がない。負けたと卑屈になるよりも、美味しいとこだけ真似をして楽しむ方が利口というものだ。


『徹底比較! 秋のフルーツ狩り特集♪』


 ぴーちゃんが開いた画面には、梨にぶどう、栗やさつまいもが踊っている。……さつまいもってフルーツだったか? 若干疑問はあるものの、うちのおっさんも一緒になって画面を覗き込んでいる。その顔が嬉しそうに綻んでいるので、この際さつまいももフルーツでいいことにしておいてやろう。

 

「これ! これに行こうぜ!」


 ぴーちゃんが興奮気味にバシバシ叩いているのはぶどうのイラストだ。たった今フルーツ認定されたさつまいもにはあまり興味が無いらしい。


「ぴーちゃん。前にも言ったけど、画面をそんなにバシバシ叩いたら割れちゃうよ。分かってると思うけど、割れたらぶとう狩りはナシだからね!」


 融の鶴の一声でぴーちゃんはぴたりと動きを止めた。そっとぶどうを撫でて鬼瓦を歪める。

 それが笑顔だということがこの頃やっと分かるようになった。これから人を取って食おうとしているように見えるのは気の所為なのだ。


「もちろん分かってるぜ、融。修理代でぶとう狩りの予算が吹っ飛ぶんだろ?」


 驚いたことに融はしっかりとぴーちゃんを躾ている。ちょっと不思議だ。どう考えてもぴーちゃんの方が優位に立っているのに、手綱を握っているのは融なんだよな。


「おっさんどうする? ぶとう狩り行く?」


 訊ねると、おっさんはこちらを見上げてかくかくと首を振った。ぱあっと花が咲くように笑う。

 あー。この笑顔のために生きてるわー。

 俺は自分のスマートフォンを取り出してぶとう狩りを調べた。


「埼玉かー。ちょっと遠出になるな」

「そだねー。僕車あるよ」

「そうなの?」

「この間まで地方にいたからね。あっちだと車ないと不便なんだよね」

「三十分食べ放題……短くね?」

「逆に三十分もぶどうを食べ続けられる気がしない」

「それは言えてる」

「ぴーちゃんたちならシャインマスカットがいいよね。剥かなくていいし」

「そうだな」

「いつ行く? 美鈴ちゃんも誘う?」

「かずこさんか……」

「「「…………」」」」


 多分、本音を言えば全会一致でかずこさんはナシだ。でも、こっそり出掛けて後でバレたときの報復が怖い。何か、バレない訳がない気がする。


「まあ。美鈴ちゃんの予定が合わないかもしれないしなっ!」


 淡い期待を乾いた笑い声に乗せて。取り敢えず美鈴ちゃんに連絡してみることにした。

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