Trick or Treat
「旨いもんを寄越すんなら勘弁してやってもいい」
「…………」
それはアレだろうか。
「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ☆」
的なアレだろうか。時期的に。
僕は目の前でふん反り返っているぴーちゃんを残念な目で見つめた。
「ハロウィンにはまだちょっと早いよね」
「はろいん?」
投げた言葉に予想外の反応が返ってきてちょっと脱力する。鬼瓦が小首を傾げて見上げておる。断じて可愛くなどないのに何かかわいい。恐るべし。
「何だ違うの? てっきりTrick or Treatかと」
「とり……? 鶏は旨いが」
右にこてん。左にこてん。口をへの字にして眉間に皺を寄せたぴーちゃんが、上目遣いに唸る。顔だけ見たら相当ヤバいのに、こてんこてんと首を振る動きがユーモラスでどうも和んでしまう。
「トリック・オア・トリート。お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ、だよ」
「ああ!」
ぴーちゃんはぽんと手を打った。
「そう言やあ姐さんが言ってたのそんなんだったな。聞き慣れねえんで間違えた」
かずこさんの入れ知恵か。温ーい目を向ける僕に構わず、ぴーちゃんが手を伸ばす。短いから顔の半分くらいまでしか上がらないけど。
「まあ、そういう訳だ。菓子くれ」
お菓子くらい、いつでもあげるけど。
「ダメだよ」
「何だとお」
すげない返事に鬼瓦の凄みが増してゆく。
「ハロウィンはね。気合いの入った仮装をしないとお菓子は貰えないイベントなんだよ!」
「何……だと!?」
僕の
僕は知る由もなかったけど、この時ぴーちゃんは内心盛大に舌打ちをしていたのである。
ちっ。知ってやがったのか。姐さんにはそんなこと言われたが、融は抜けてるから知らねえかもと思ったのによう。畜生困ったな。菓子は食いてえが化粧までバッチリの気合いの入った姫さんの恰好なんざどう考えても無理だ。くそっ。何か手は無えのか。
かずこさんが僕にもちょっと入れ知恵してくれてれば面白いものが見られたのに。絶好の機会を逃してしまったよ。知らぬが仏とは言うけどあんまりだ。
でも僕は知らなかったから。
「ぴーちゃん、どんな恰好したい? 定番のモンスターもいいけど、それだとドハマりしすぎて怖そうだよね」
僕は嬉々としてスマホの画面を滑らせる。
「モンスター?」
きょとんとしたぴーちゃんが見返してくるのに大した疑問も抱けない。だって衣装選びに夢中だから!
「姫さんじゃなくていいのか……」
ぴーちゃんの呟きも聞き逃してしまった。不覚!
「恰好いいのにしてくれ」
「オッケー!」
僕がボケっとしていた所為で、二人揃って楽しいハロウィンを迎えられそうだ。
まあ。いいか。
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