お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ☆
「どうしよう渚くん……」
いつも通りに帰宅して、いつも通りに弁当を買いに行こうとおっさんを呼び出したら、泣かれた。何だって言うんだ。
「どうしたおっさん。腹が減りすぎたのか?」
別にふざけている訳じゃない。俺じゃなくても薄々感づいているだろう。
おっさんの九割は食い物のことで出来ている。
「ううん。今は減ってないよ」
おっさんは首を振る。何だ違うのか。
「あのね」
「おう」
おっさんは洟を啜ってぎゅっと両手を握った。その拳はふるふると震えている。
「あのね。おじさん、お姫さまの恰好なんて出来ないよ!!」
…………。
「はい?」
何言ってんだ、おっさん。悪いが全く意味が分からん。俺はえぐえぐとしゃくりあげるおっさんを宥めつつ、何とか事情を聞き出した。
「かずこさんめ……」
純朴なおっさんに何てことを吹き込むんだ。姫の恰好をしないと菓子が貰えないとか。誰得なんだ、それ? 融か? 融得なのか? 全く無いとも言えないじゃないか。怖っ。
それにしてもその程度のことで泣くなんて、やっぱりおっさんの九割は……。
「大丈夫だ、おっさん。ハロウィンは楽しく仮装をするイベントだ。したくもないような恰好はしなくていい」
「ほんと?」
「おう」
本当のところはどうなのかなんて知らない。ハロウィンの知識とか俺には無いからな。だが問題無い。うちのハロウィンはそういう設定だと決めたのだ。
「お菓子も食べていい?」
「もちろんだ」
「ほんと!?」
今泣いた烏がもう笑った。ぱあっと顔を輝かせておっさんが俺を見上げる。
「たんと食え」
「わあい」
万歳をするおっさんの腹がぐうと鳴る。
「安心したらお腹空いちゃった。渚くん、お弁当買いに行こう!」
うん。おっさんの九割は食い物のことで出来ている。間違いない。
👻
『ぴーちゃんにドレス着せるのか?』
『え? なんで?』
『いや』
『そっかー。それもアリだったー
でももう決めちゃったよ』
『そうか』
弁当を待っている間に融に確認したところ、ぴーちゃんは事なきを得たようだ。きっとおっさんみたいにバカ正直に申告しなかったんだろう。賢明な判断だ。
「ぴーちゃんも姫の恰好はしないみたいだぞ」
おっさんにも教えてやると安心したようににぱぁと笑う。
「そっかあ。よかったよ」
「もう仮装のネタも決めたみたいだな」
「おー。おじさん何にしようかなあ」
仮装することは決定なんだな。別に仮装なんかしなくても菓子くらい買ってやるのに。
「シークとか?」
でも楽しそうだから乗っておこう。
「えー」
俺の提案に、膝の上のおっさんがくねくねと身を捩る。かずこさんみたいなその動きはすっかりおっさんに定着してしまった。
「おじさんもうイケメンじゃないからなあ」
とか言いつつ満更でもなさそうだ。部屋に帰ったらゆっくり衣装を吟味するとしよう。
「お待たせー。今日は塩鮭のっけといたよ!」
今日もおばちゃんはサービスしてくれたようだ。おっさんの瞳が輝きヨダレが垂れる。
「ねえねえ渚くん。塩鮭って美味しい?」
小声でコソっと聞いてくるおっさんの九割九分は食い物のことで出来ている。
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