かずこさんの恐ろしさは……

 楽しい焼きいも大会が終わり、美鈴ちゃんを送り届けた帰り道。俺はぴーちゃんに訊いてみた。


「ぴーちゃんはかずこさんが怖くないのか?」

「怖ええよ!」


 即答だった。


「その割には今日、かずこさんと揉めてたじゃないか」

「は? 揉めてねえけど」


 えええっ。


「芋の焼き加減で揉めてただろう」


 あんなに言い争ってたのをもう忘れたのか?


「あー」


 ぴーちゃんがぽんと手を打った。


「あれはじゃれてただけだぞ」

「え」

「姐さんがマジで怒ったらな……」


 ぴーちゃんはそこで一度言葉を切った。


「空気が冷えるからすぐに分かる。お前え、やらかしかけたことがあるだろう」


 ごくり。


「あれはやべえ。生きた心地がしねえから二度と抜かるな」


 あとな。ぴーちゃんは声を潜める。誰に聞かれる訳でもない車の中。それでもそうせざるを得ない何かがそこにはある。


「姐さんの本当に怖いところは妄想だ」

「は?」


 確かにかずこさんの妄想はヤバい気がするが、怖くはないだろう。何言ってんだ、ぴーちゃん。あはははは。笑おうとした俺の頬が、ぴーちゃんの次の一言で引き攣る。


「あれはとんでもねえ。弱ええ奴なら引き込まれる」

「まさか」


 あはははは。

 俺は笑った。乾いてはいたが笑った。笑わなければという、よく分からない危機感があった。


「笑い事じゃねえよ。実際、おっさんの弟はそれに当てられてエライことになったろうが」

「……」


 弟って、おっさんの寝込みを襲おうとしたとかいう、あの……。(忘れちゃった良い子は第十四話『おっさんの過去』を参照だ!)そう言えばかずこさんあの時、あとは実践だけだったって……。怖っ。


「まあ、お前えも気をつけろよ」

「え」

「姐さん、いつどこで見てるか分かったもんじゃねえからな」


 思い当たる節が多すぎて怖い。でも。


「ぴーちゃんも気をつけろよ」

「はあ? 流石に俺は大丈夫だろ」


 げらげらとぴーちゃんは笑う。鬼瓦の何処に妄想要素が。無い無い。絶対無い! ぴーちゃんはヒーヒー笑っているが。


「笑い事じゃないぞ」


 ハロウィンのとき、かずこさんはニヤニヤしていた。もしかしたら、金棒だって態と蹴ったのかもしれない。


「「…………」」


「ま、まあ。気を強く持ってたら大丈夫だ!」

「そうだな。ははは」

「そうだぜ! ははっ」


 かずこさんの妄想なんかに負けない!

 秋の晴れた青空に、俺たちの空元気が響くのだった。


 


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