シャインマスカットはお高いですよ!

 腰に手をあてて仁王立ちする俺の前に、しゅんと項垂れた二人が正座をしている。融と美鈴ちゃんだ。その間には、山盛りになったシャインマスカット。


 そう。ご明察の通りである。


「バカなのか?」


 残り時間は十五分。調子に乗って狩りまくったぶどうは十五房。一分に一房食えと?


「だって渚さん。ぴーちゃんがすっごくカッコよくて……」


 それは認めよう。俺だってぴーちゃんが回し蹴りをかましたときには軽く感動した。

 だから、美鈴ちゃんが戻ってきたぴーちゃんを褒めちぎった気持ちも分かる。誉められてテンションが上がったぴーちゃんの気持ちも分かる。


『そ、そうか? 何なら美鈴の頭の上からも飛んでやろうか?』

『ほんとに!?』

『おう。お安い御用だぜ!』


 それが悪いことだとは思わない。幸い、周りにバレること無く狩りを楽しめたのだから万々歳だ。

 けれど、モノには限度というものがある。


「ぴーちゃんが楽しそうだったから、ついさあ……」

「ぴーちゃんの所為にするな」


 狩りに勤しむぴーちゃんはカッコよかった。事あるごとに写メやら動画やら撮りまくっている融の食指が動かぬ訳がない。


『いいね! ぴーちゃん最高だよ。次はあっちの木漏れ日が綺麗なとこで飛んでみようか!』


 上から下から。飛び上がった瞬間。ぴーちゃんの足が一閃するその刹那。着地したときの得意気な顔。

 そりゃあ、あれもこれも撮りたいだろう。だってうちのコがいちばん可愛いんだもの。ってなモンだ。


「もちろん、ぴーちゃんのその写真一枚に一房千五百円のぶどうがくっついてくることは分かってたんだよな、融?」

「ううっ……」


 あ。ヤバい。説教してる間にも時間は刻々と過ぎてゆく。山盛りのぶどうの陰では、おっさんたちが嬉しそうにぶとうに齧りついていた。


「まあいいじゃない渚くん。あたし、とっても楽しいわ。突っ立ってないであなたも食べなさいよ。美味しいわよ? ぶどう」


 そう言ってかずこさんがぶどうを差し出す。

 艶やかな黄緑色のシャインマスカット。

 そうだよな。せっかく来たんだから楽しまないと。俺は腰を下ろしてかずこさんからぶどうを受け取った。


「ごめんね、渚。ちょっとはしゃぎ過ぎた」

「ごめんなさい」

「いや、俺も悪かった。せっかく来たんだから楽しまないとな」


 それから、それぞれおっさんおばさんを膝に乗せてシャインマスカットを堪能した。


「楽しいね。美味しいね。連れてきてくれてありがとう渚くん」


 おっさんがにこにこしながらぶどうを齧る。


「そうか。よかった」


 おっさんが嬉しいのなら俺も嬉しい。

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