ワンランク上の狩り
頑張って食べたけど、シャインマスカットは余ってしまった。そりゃ当然だ。あんなに山盛り食べられる訳がない。合わせていちまんさんぜんごひゃくえんかっこぜいべつ、のお支払になった。
随分な出費だがそれに見合うだけの収穫はあったと思う。ぴーちゃんのこともそうだが、おっさんがすごく喜んだからだ。
お持ち帰り用の箱(市場に出荷する用のアレだ)を三段に重ねたその脇でキラキラと瞳を輝かせるおっさん。若干涎が垂れているところを見るとまだ食べたいらしい。一人で二房も食べたくせにこれ以上何処に入るというのか。ていうか。その二房、何処に入ったんだ。シャインマスカットの一房はおっさんよりもデカかったのに。
融が運転する車のなかでは皆少し項垂れている。腹が膨れすぎて苦しいのだ。食べ放題というと無理してしまう上に、出来るだけ出費を減らそうと食いまくったからな。
「もう食べられないわー」
美鈴ちゃんの膝の上で横になって、かずこさんが嘆く。
「食べ放題で元を取ろうなんて思ったら必ず後悔するのよぅ。取れなかったら悔しくて、取ったら取ったで苦しくて。こんな理不尽な企画無いわぁ」
丸くなった腹を擦りながら、ごろんごろんと美鈴ちゃんの膝の上で寝返りを打つ。
「フルーツ狩りはシチュエーションにお金を払うんだからぁ」
「シチュエーションは楽しんだぞ。元も取った! 何せ、俺らの分はタダだからな」
突っ伏して太ももに抱きついているぴーちゃんの声はくぐもっている。ぴーちゃんが抱きついているのは美鈴ちゃんの太ももだ。おっさんのくせに。小さかったら女子の太ももに抱きつくことが許されるのか。なんてこった。
そう。今回、おっさんたちの入園料は払っていない。だってこいつらを人目に晒す訳にいかないじゃないか。どうせ三粒くらいしか食わないだろうとタカを括っていたのだ。まさかおっさんが二房も食べるとは。ヤマモト農園さんごめんなさい。おっさんが食った分、頑張って農園の宣伝するから今回は勘弁してください。
「そうねえ。楽しかったわー。そうだ!」
かずこさんが、がばっと起き上がる。
「次はワンランク上の狩りを楽しみましょうよ。シチュエーションもバッチリよ!」
ぱちんと手を打って、嬉しそうに。
「ワンランク上?」
ぴーちゃんがだるそうに顔だけを上げてかずこさんを見る。
「そう! すっごく美味しいんですって。一度食べてみたいのよぉ」
「美味しい?」
ぶどうの箱に釘付けだったおっさんがかずこさんの美味しいに反応して振り返る。
「じゃあ次はそれにするかー」
俺はあまり深く考えずに返事をした。してしまった。
「かずこさん、何狩りに行きたいの?」
スマートフォンを取り出しながら美鈴ちゃんが訊く。
「ジャボチカバ!」
じゃぼ……何だって?
聞き慣れない単語に車内にはてなマークが飛び交った。いち早く検索した美鈴ちゃんが、ひっ、と息を呑んで固まった。首を捻りつつ自分のスマートフォンでジャボチカバを探す。
……。
ホラー!!
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