かわいいおっさん

「とまあ。ぴーちゃんはちょっと激しめなんだよね」

「原因の大半はお前だと思うぞ」


 おしぼりで顔を拭きつつ融はモモチューハイをぐっと飲んだ。飲んで、切な気に眉を寄せる。


「やっぱ飲んだ気しない。僕もビール飲みたい」

「じゃあさっさとそれ空けろよ。俺も次頼むし」


 俺は枝豆を剥いて皿のなかに転がしながら応えた。もちろん枝豆はおっさん用だ。おっさん二人が皿の周りに並んで膝立ちになって、転がる端から掴み上げてもしゃもしゃと食っている。和むぜちくしょう。


「おー」


 ぐびぐびとやりながら融がベルに手を伸ばしたとき、襖の向こうから声がかかった。


「失礼しまーす」

「あ、ヤバい。おっさんたち隠れて」


 俺の声におっさんは立ち上がり、それぞれの膝の上に飛び降りた。二人とも、両手に枝豆を握ったまま。


「だし巻きたまごでーす」


 ふんわりとやわらかそうなだし巻きたまご。湯気と共に旨そうな匂いも立ちのぼる。


「おっ。おおおっ」

「え?」


 随分低いところから上がった感嘆に、だし巻きたまごを運んできた女の子が首を傾げた。


「あっ。あー、美味しそうだね! ね、渚」

「おっ、おお、そうだな」


 おっさんを手の陰に隠しながら俺と融は態とらしく言葉を繋ぐ。


「あ、そうだ。生ふたつ」


 融が注文すると、店員はにこやかにオーダーを繰り返して出ていった。融と二人、ほっと息を吐く。


「ぴ、い、ちゃあぁぁん?」


 融が頬をひくひくさせながらぴーちゃんを抱き上げた。ぶらーんと吊るされたぴーちゃんは先程の勢いは何処へやら、随分と大人しい。


「見つかったらどうするの。捕まって、見世物にされて、解剖とかされちゃうんだよ?」

「お……おう」

「そんなことになったら僕、泣いちゃうよ」

「悪かった」

「気を付けようね?」

「……気を付けます」

「よし!」


 ふん、と鼻を鳴らした融は、だし巻きたまごの傍にぴーちゃんをそっと下ろした。ぴーちゃんがしゅんとして見えるのは気の所為ではあるまい。それを見て融はにっこり笑った。


「美味しいよ。火傷しないようにね」


 ぱあっと。ぴーちゃんの表情が綻ぶ。


「おう!」


 おっとこれは。


 おっさんを下ろしてやりながら、俺はぴーちゃんの意外な可愛さを発見してしまった。うちのおっさんも可愛いが、融の鬼瓦もなかなかどうして。


「おっさんたち、幸せそうだな」

「こっちまで嬉しくなっちゃうよね」


 抱きつくようにしてだし巻きたまごを堪能するおっさんたちを見ていると、どうしても眦が下がってしまう。ほのぼのとした光景に完全に油断していた。


 すばーん! と。

 襖が開いたのはそのときだった。

 

 

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