天使かと思った

 やってしまった。

 襖の向こうで何をしているか分からないから、絶対に声を掛けてから開けろと言われていたのに。すばーん! と。開けてしまった!

 とは言え、やってしまったものは仕方がない。襖はもう開けてしまったのだから、私がすべきなのは後悔ではなくて対処。気を取り直して顔を上げる。とにかくまずは謝ろうと思った。

 そうしたら。


「「「「「あ」」」」」


 夢かな?

 目をごしごし擦ってもう一度テーブルを見る。


 うん、居るな。

 だし巻きたまごにしがみつくおっさんが二人。

 これってどういう……。


 両側に視線を彷徨わせると、体育会系の方は完全にフリーズしている。優しげな方が幾分マシで、ふるふると首を振りながらこちらを向いた。


「ち……違うよ?」


 言いながら鬼瓦みたいな方のおっさんに手を伸ばし、掴み上げる。


「フィギュアだよ? あれだよほら。インスタ映え? な写真を撮ろうと」

「え……でも、さっき『あ』って……」

「きっ気のせいだよ! ねえ?」


 優しげなイケメンは、向かいに座る体育会系に同意を求めたんだと思う。だけど。


「おう。そうだぜ! ……あ」


 応えたのは掴み上げられた鬼瓦だった。己を掴むイケメンに泣きそうな目で睨まれて言葉に詰まる。しかもあろうことか、ぎぎぎ、と首を回してこちらを向いた。


「ぴーちゃぁん!?」


 狼狽えるイケメンをしっしっと手で払い、鬼瓦は私の目をじっと見た。


「まああれだ。黙っといてくれや、姉ちゃん」


 それからニヤリと笑って。


「俺は、例えば捕まったところでどうとでもする自信があるけどよう。俺が捕まったらこいつが泣くんだと。なら、しょうがねえだろ?」


 呆れたように肩を竦める。


「ですよね!!」


 私は大きく頷いた。

 鬼瓦は自分の為に何とかしたいのではないのだ。ただイケメンの。イケメンの為に!! なんて素敵なのかしら!


「もちろん黙っていますとも!」


 私は拳を作ってうんうんと頷く。

 安心して。あなたたちの愛は、私が守ってあげるから! だから。


「ひとつだけお願いが」

「おう。何でも言いな。融が聞くから」


 鬼瓦が。いいえ、ぴーちゃんが。ぐっと親指を立てる。ニヤリと歪めた口許が悍ましい。


「私、もうすぐあがりなので。ちょっぴり混ぜてください!」

「お安い御用だぜ」


 そうして私は、特等席できゃっきゃうふふを堪能する権利をゲットした。

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