守ってあげたい
「あ。私のことはどうぞお構いなく」
持参した梅酒のロックと適当に盛った乾きもののおつまみで、私は酒宴の末席に入れてもらった。なるべくテーブルの隅っこでお邪魔にならないようにしようと思っている。
あわよくばちょいちょい混ぜてもらえる仲になりたいのだ。ウザいとか、ヤバい奴だとか、思われないようにしたい。
「私は可愛いおじさま方(とイケメンが戯れるの)を眺めていたいだけなので!」
ということで、私は落花生の皮を剥きながらおじさま方を堪能している。と見せかけて、おじさま方がイケメンにチラチラ視線を送るのを眺めている。
何の合図かしら?
期待を込めて見上げるおじさまに、イケメンは静かに首を振る。するとおじさまはステテコの裾をぎゅっと握って、寂しそうに肩を落とす。はらりと一筋乱れたバーコードが切なさを誘っている。
あんた何やってるのよ! そんなに寂しそうなんだからおじさまのお願い聞いてあげなさいよ! それが男の甲斐性ってもんでしょ?
胸倉を掴んで諭してやりたいところだけど、ここはぐっと我慢だ。次回のアポ取りの為に!
私は鬱々としながら落花生を剥き続ける。いっぱい剥いてぱくぱく食べたいのだ。剥きながらちまちま食べるのも悪くはないけど、今日は一気食いの気分。
じーっと眺めていると、おじさまの視線が時々こちらに向けられるのに気がついた。知らない人間がいるから気になってるのかな? と思ったけど違う。
おじさま、お皿に溜まっていく落花生を見てる! 落花生を見て、イケメンを見上げて、寂しそうに足元に視線を落とす。その三角形を繰り返していらっしゃる!
え。何?
もしかして、落花生が食べたいの?
「ええっと。召し上がります?」
次にこちらに視線が向いたタイミングで声を掛けてみた。
おじさまは驚いたように目を瞠り、イケメンを見上げる。そしてイケメンが頷くと嬉しそうにこちらに駆けてきた。
「ありがとう」
ほにゃん、と微笑むその顔は天使だ。見た目はまんまおっさんだけど、天使だ。優しげでちょっぴり頼りなくて、守ってあげなきゃって気になってしまう。殺しても死にそうにない鬼瓦とは大違い。
もっとも、あっちのカップルはあっちのカップルで萌え萌えなんだけど。
「ありがとう」
イケメンからもお礼を言われて私はぶんぶんと手を振った。たかが落花生でそんなに有り難がられたら恐縮してしまう。
おんなじようにこちらを見ていた鬼瓦ぴーちゃんにも手招きして落花生をあげた。嬉しそうで思いがけず可愛いけど、やっぱり天使には見えない。
「美鈴ちゃんはまだまだ若いわねえ」
そのとき、不意に声が掛かった。
「見るからに守ってあげたくなるおっさんより、ぴーちゃんみたいな子にこそ見守ってくれる人が必要なのよ」
声の方を見下ろせば、何処から湧いたのかちっちゃいおばさんが腕組みをして頷いている。
え……っと。
誰?
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