大きないも
爽やかな秋晴れの元。美鈴ちゃんを拾って郊外のお芋掘り農園まで暫しのドライブだ。車窓を流れる風景が長閑なものに変わり、排気ガスを気にせずに窓を開けて気持ちの好い風にあたる。やがて見えてくる一面のさつまいも畑(だろう。きっと)。緑の絨毯を敷き込んだような景色を眺めながらもう暫し。タケナカ農園に辿り着く。
「よろしくお願いしまーす」
案内してくれたのはニコニコしたおばあちゃんだった。俺たちは青々と茂った畑のなかで一区画だけ葉が刈り取られて茶色い地面が覗いている所に連れて行かれた。申し訳程度に地面から蔓が伸びている。
「ええー。あっちの青々してる所の方がいいのにぃ」
ぶうたれたのはかずこさんだが、おばあちゃんは美鈴ちゃんを振り返った。まあ、女の声がしたんだからそうなるだろう。美鈴ちゃん、可哀想に。
「あっちはまだちょっと早いねえ。芋が太ったら葉が黄色く萎びてきてね。それからこうやって葉を落としておくと甘味が増すの」
慣れているのかおばあちゃんは変わらずニコニコ顔だ。
「お兄ちゃんたち、五株の申し込みだからここからここまでね。掘り方分かるかい?」
おばあちゃんは杭を打って俺たちの掘っていい場所を示してくれた。そしてもちろん掘り方なんて知らない俺たちの為に、次の一株を掘って見せてくれる。
「ほら、こんな感じで」
おばあちゃんが掘り上げた株には大きなさつまいもが五つほどぶら下がっていた。
「おおー」
やっぱりおっさんよりもデカい。
「株の近くを掘ると芋を傷つけちゃうから気をつけてね。あたしはあっちで作業してるから、分からないことあったら声かけて」
おばあちゃんは鎌を持って葉の色が変わっている辺りに歩いて行った。まあまあ離れてるからおっさんを出しても大丈夫だろう。
「おっさんいいぞ」
声を掛けると。
「わーい。おいも掘りー」
はしゃいだおっさんがジャージのポケットから飛び降りた。
🍠
――うんとこしょ。どっこいしょ。だけどお芋は抜けません。
「……」
おっさんは早速さつまいもの蔓に取り付いたが、抜けない。抜ける訳がない。その蔓の下には五匹のおっさんが生っているのだ。単純に力比べで負けているし、固い地面もあちらに味方している。
「やあねえ、おっさん。一人じゃ無理よぉ」
おっさんの腰にかずこさんが手を添える。
――うんとこしょ。どっこいしょ。それでもお芋は抜けません。
おっさんたち、おばあちゃんの話聞いてなかったのか……。まずは周りを掘ろうぜ。
「何だ。お前えら非力だなあ。俺に任せろ」
お馬鹿な隊列にぴーちゃんが加わった。並外れた能力を持つぴーちゃんなら或いは。
――うんとこしょ。どっこいしょ。まだまだお芋は抜けません。
うん。無理だった。
おっさんたちは、やれ並び方がどうの腰の落とし方がどうのと侃々諤々やっているが、きっと無理だろう。
「うおーっ! 大漁!!」
そんなおっさんたちを嘲笑うかのように融の歓声が上がった。見れば、おばあちゃんが掘ったのよりも大振りな株を持ち上げてガッツポーズをしている。
え。
融ともあろう者が今の『大きなかぶごっこ』を撮ってない……だと?
なんてもったいない。
「何故だ……融のくせに……」
温ーい目を向ける俺の横で、ぴーちゃんが呆然と呟く。だから俺はその肩をぽんと叩いて教えてやった。
「融はおばあちゃんの言い付けをちゃんと守ったからだ。年長者の言うことは聞くもんだぞ」
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