垣根が無いなら作ればいいじゃない

 かずこさんがまた無茶なことを言いだした。ただっ広い河原のいったい何処に垣根があるというのか。無いなら作れとゴネるおばちゃんに辟易し、芋掘りの帰りにホームセンターに寄った。まあ元々焚き火の準備に寄るつもりだったからいいけどな。

 ちょうど好い塩梅の竹製のラティスがあったのでそれを買い、山茶花が咲いてないと嫌だと言うので切り花コーナーで山茶花も求める。呆れたワガママお姫様っぷりだ。


 その日はそれで散会となり、明日の焼きいも大会に備えることとなった。


   🔥


 日曜日は風も無く快晴。絶好の焚き火日和だ。天高く馬肥ゆる秋。バケツの中には山盛りの銀紙に包まれたさつまいも。これで千円は安い。楽しいしお安いし、芋掘り大会は大成功だったと思う。

 全部焼いても食べきれないとは思うのだが、おっさんの四次元胃袋のこともあるし、もし余れば冷凍保存出来るとかずこさんが言うので焼いてしまうことにした。美鈴ちゃんはどうか知らないが俺も融も料理なんてしないから、置いておいても仕方ないしな。


 キャンプ場で貸し出してくれる焚き火台の上で火をつける。ネットで調べただけの俄仕込みなので少々時間が掛かったが、火種の上に落ち葉を乗せるとパチパチと燃え始めた。


「おおー。焚き火だ!」


 何か妙な感動があるな。たぶん、かずこさんが我が儘言わなければ一生味わうこともなかっただろう。あのおばちゃんは面倒臭いが、行動の幅を大いに広げてくれる。


「さっ。焼くわよー♡」


 即席の「垣根」に山茶花を飾り終えたかずこさんが張り切って腕を捲る。が。バケツの口まで手が届かない。バケツのへりに乗せてやったもののどうにも芋を持ち上げることが出来なかったので、折り畳みテーブルの上でおっさんと並んで見学となった。ぴーちゃん? ぴーちゃんはバケツの中からぽんぽんと俺に芋を放って寄越している。片手で軽々と。

 ぴーちゃんが投げてきた芋を順々に焚き火にべてゆく。


「ん? 何だこれ」


 キャッチした真ん丸い包みを見て俺は首を捻った。こんなに真ん丸なさつまいも、あったっけ?


「あ。それリンゴです。焼きリンゴもしようと思って」


 美鈴ちゃんがにっこり笑う。


「じゃあ、この細長いのは……」

「あ。それバナナ!」


 今度は融が答えた。


「芋ばっかりだと飽きるかと思って」


 えへ、と融は笑うが、バナナだと? バナナを焼いて食うのか? そんなバ……いや。止めておこう。

 俺は危うく飛び度しそうになった昭和なギャグを呑み込んで、普通に融に訊いた。


「バナナ焼いて食うとか、アリなのか?」

「アリですよ」


 それに答えたのは美鈴ちゃんだ。


「甘味が増して美味しいですよ」


 そうか。美鈴ちゃんがそう言うなら信用に足る。融だけなら口を付けるのを躊躇うけどな。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る