聖夜
週末から大寒波が到来して、この一週間は冷え込むとの天気予報だ。普段ならぶうたれる面々も、この日の降雪には心踊る。今年のイブはホワイトクリスマスになった。
「寒い……」
ガンガンに暖房を効かせた部屋で、融が己の腕を掻き抱いて震えている。俺はといえば、先日引っ張り出したダウンを着込み、美鈴ちゃんが作ってきてくれたクリームシチューで体の芯から温めようと頑張っていた。成果は芳しくない。
「かずこさん」
「なぁにー?」
窓辺でシャンパングラスを傾けながら、かずこさんがこちらに流し目を送る。その頬が赤い。それは、少々過ぎている酒量の所為ばかりではないだろう。
「あなたたちもこちらに来て見てごらんなさいよ。空から真っ白い雪がちらちら舞い降りて。うっとりするくらい綺麗よ」
「「ごめん、無理」」
融と俺の返事がハモる。
薄紫色のモヘアのワンピースはかずこさんによく似合っているが、真冬の雪の降る夜に全開の窓辺で寛ぐ恰好ではないと思う。冷たい風がヒューヒュー吹き込んでいるというのに。あまつさえ冷たいシャンパンを飲みながらなんて。
「なんだお前えら、情けねえなあ」
かずこさんの隣で胡座を掻いてぴーちゃんが笑った。手にしたビールジョッキが空だ。
「融ー。ビールくれ」
「やだ」
「なんだとぅ」
ずびっと洟を啜った融はつんとそっぽを向いた。
「あー。かずこさんもぴーちゃんも、そろそろ窓閉めようか?」
「「えーー」」
ぶうたれてももう知らん。さすがに限界だ。
「自分の部屋で凍え死にたくない」
俺は立っていって窓を閉めた。ちらりと眺めた雪の舞う闇夜は確かに美しい。が、それも心に余裕があってこそだ。
「融ー。コーヒー淹れて。美鈴ちゃんはどうする? ココアとかもあるけど」
「あ。じゃあココアで。融さん手伝いますー」
もこもこのニット帽とマフラーを取りながら美鈴ちゃんも席を立った。
「ほらほら。ぶうたれてる奴にはケーキ食わせないぞー」
「「「ケーキ!!」」」
鶏を四羽も腹に収めたくせに、おっさんたちの胃袋はどうなってるんだ。
さすがに寒いと言ってダウンのポケットに潜り込んでいたおっさんも顔を出した。
「ケーキ食べたい人ー」
「「「はーーい!!」」」
ちっさい三人が、両手をいっぱいに挙げて背伸びをする。
よしよし。いい返事だ。
あったかい部屋で、パーティーの続きを楽しもうじゃないか。
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