昭和五十七生まれの俺が、西暦千九九九年(平成十一年)にタイムスリップしちゃたけど、話していいのは昭和以前の出来事限定です
@rakugohanakosan
第1話 令和元年から、二十年前の平成の世紀末、西暦千九九九年へ
令和元年、五月一日になった。
「あーあ、令和かあ。元号は新しくなっても、俺の現実は何一つ変わらないなあ。ウィキペディアやら、動画サイトをただ見ているだけの人生だ。いくら知識を増やしたって、今のご時世、ちょっとやそっとのことを知っているからって、『どうせネットの受け売りでしょ』でおしまいだもんなあ。俺が生まれた平成元年にでも、タイムスリップできりゃあ、この知識を利用して、いくらでも無双できるのになあ」
「その望み、叶えてしんぜよう」
突然、どこからともなく声が聞こえてくると、俺は、なんだかよくわからないところにいた。
「うわっ、どこだここは」
俺が叫ぶと、何者かは知らないが、続けて声がする。
「いいよ、過去に行かせてあげる」
それを聞いて、俺はすぐによくあるパターンのあれだと察する」
「本当か、俺にも異世界転移のチャンスが来たんだな」
何者かが返事をしてくれる。
「異世界転移と言うか、過去へ“時をかける”わけだね。いつがいい」
「それじゃあ、平成元年でお願いします」
俺の頼みに、謎の声はいちゃもんをつけてくる。
「ううん、それはちょっとねえ」
「なんでだよ、令和元年のタイムスリップだから、平成元年に行かせてくれてもいいじゃないか」
「あんたのパターンは、記憶はそのままに、過去の時点のあんたに戻るんだ」
「“体は子供。頭脳は大人”的なやつってこと?」
「違う違う。それだと、時間はそのままでしょ。今回は、時間も巻き戻してあげるんだ。だけど、今のあんたが、そのまま過去に戻るわけじゃあない。あんたが言うように、平成元年に戻しちゃうと、困ったことになっちゃうよ。あんた、昭和五十七年生まれだろう。そんなあんたが、平成元年に戻ったとしても、小学校に上がるか上がらないかだよ。それでもいいの」
「よかあないですよ」
当然、俺は抗議する。
「しかし、そのパターンかあ。てっきり、よくある異世界転移と思ったのに」
「まあまあ、下手に知り合いも家族もいない異世界に行ったって、どうせ、すぐに野垂れ死にだよ。だからさ、ここは、あんたがよく知っている家族がいる、勝手知ったるこの世界の過去に行ったほうがいいんじゃない」
「それもそうか」
謎の声に納得する俺である。そんな俺を見て、謎の声が、ある提案をしてくる。
「そうだね、西暦千九九九年なんてどうだい。平成十一年だよ。千九九九年なんて、いかにも何か起こりそうな数字じゃないか。あんたの誕生日からすると、高校二年生ってことになる。これでどうだい。そもそも、千九九九年に、高校二年生という、上手いこと先輩もいれば後輩もいる。受験も大して考えなくても良い時期であるからこそ、昭和五十七年生まれというあんたを選んだんだよ」
「ま、そんなものかな。幼すぎても、できることに限りがあるし、かと言って、大学生や、社会人に戻っても、色々面倒くさいし、高校二年生っていうのが無難かな」
「よし、決まりだ。ああ、一応言っておくけど、過去に戻ったからって、それから先のことを色々予見して、チートめいたことをするのはダメだからね。あの頃は、インターネットも、まだまだ発展途上だったけど、それを利用して、SNSや、動画サイトで大儲けしちゃあいけないよ」
謎の声に、俺は抗議をするのだ。
「えっ、なんで。過去に戻ったら、現代知識を利用して、ウハウハになるのがこの手のやつのセオリーなんじゃないの」
「それは、歴史改変に対する、因果律の修正力とか、そう言ったもののためさ」
「なるほど、さっぱりわからん」
「とにかく、未来予知なんてしちゃあだめってこと。 それに、すでに起こっているけど、本来あんたなんかが、知っているはずがないマイナーなことも言っちゃあダメだからね。例え、その後にドカンと人気が爆発するようなことでも。かと言って、他の人が話題にすることはあり得るだろうし……そうだね、あんたから話を振って良い内容は、昭和以前に起こったこと限定にしよう。それなら、重箱の隅をほじくり返すようなことでも良しとしようじゃあないか」
謎の声の言った内容に、俺は不満の声をあげる。当然だ。
「なんだよ、そんなの、なんの意味もないじゃあないか。少しくらいは、未来人の特権を行使させてくれよ」
「まあまあ、いいじゃないか。それじゃあ、千九九九年の五月一日に行ってもらおうかな」
謎の声がそう言うと、俺は不思議な光に包まれるのだった。
「あ、そんな。まだ聞きたいことがあるのに」
そんな俺の願い事をよそに、謎の声は冷たく言い放つのだ。
「それじゃあ、良い旅を」
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